事実
ジンが消え、プレッシャーから開放されたレナとサラは一気に力が抜け、その場に膝から崩れ落ちる。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
2人は呼吸を止めていたんじゃないかと思わせるほどに息を切らしている。
それほどC級のジンから放たれていた圧は重かった。
アカサもゴウも力を使い果たし、その場に座り込んでいる。
初めて戦ったC級の虚獣、それはまさしく壁だった。
(ここで心が折れるようならこの先はやっていけないだろう。冒険者になったら、いきなり強敵と遭遇するなんてよくあることだ)
ドルト先生は4人を試していた。
しかし、座り込んでいる4人の顔を見てドルト先生は安心する。
(・・・ふっ、コイツらは大丈夫そうだな)
4人とも体はボロボロでC級の虚獣に全く歯が立たなかった。
ただ、その目は絶望なんかしておらず前を向いていた。
「お前達は強いな・・・」
そんな4人を見て、ボソッとそう声に出した。
それが近くにいたレナとサラの耳には届き、疲れなんて無かったかのように立ち上がり、ドルト先生に詰め寄る。
「全然強くなんかないですよ!こんなとこにいきなり連れてきて・・・怖かったんですからー!鬼ぃー!悪魔ぁー!」
「ちょっ、痛っ、本気で殴るな!」
悪口を言いながらドカドカと先生のお腹を殴る。
その光景を離れた所からアカサとゴウは見ていて青ざめる。
「普通、ポカポカ殴るよな・・・」
「あ、ああ・・・」
対してサラは頬をふくらせながら無言でポカポカと背中を叩いていた。
「あー、疲れた身体が癒される〜」
ポカポカ叩いているサラを見て、まるでアニマルビデオを見てるかのような気持ちにアカサはなった。
そんな2人を落ち着かせながら、いったん馬車まで戻り身体を休ませる。
「・・・それで、初めてのC級はどうだった?」
ドルト先生は4人に問いかけた。
「・・・強かったです。E級、D級とは何もかもが違いました」
アカサが口を開き答える。
「それに、なんか・・・感情?みたいなものを感じました」
アカサはジンが発した今までとは違う鳴き声が頭から離れなかった。
それにみんなも同意する。
「私も感じたわ・・・実際に笑っていたし」
「俺もだ。なんていうか、本当に人と戦ってるみたいな・・・」
「無邪気に遊んでる子供みたいだった・・・」
E級、D級の人型とは明らかに違う所がある事にみんな気づいていた。
「獣型は力、飛行型は速さが特化しているのが特徴だ。そして、人型は特化した能力がない代わりに少し賢く、成長する。もちろん力や速さと言ったものも成長するが、C級の人型からは心も成長し始める」
心、それは人間の理性、知識、感情、意思などの働きのもとになるもので、人間にとって必要不可欠なものだ。
ドルト先生の発言に驚いたが、実際に身体で感じていたのでアカサ達は直ぐに飲み込めた。
「C級の人型は『楽』『怒』の感情、2つまでしか芽生えないがB級、A級とランクが上がっていくと段々、人間らしくなっていく。過去にSS級の人型が人間の言葉を喋った、と言う記録が記されてある本もある。まぁ、そもそもSS級の虚獣自体、現れることが少ないから真実かどうかは分からないが」
─ 段々人間らしくなっていく、か・・・心があり、感情も芽生えてくる・・・思い返せばジンの持っていた武器も魂創器みたいだったな。まじで人間みたいだ。
「ただ、感情があるからといって同情したりする必要はない。奴らに心はあるが人の心はない。出会ったら襲ってくる、躊躇えば死ぬのはこちらだ。そこだけは覚えておけ」
冒険者として活動し、英雄候補とまで言われたドルト先生の言葉には説得力があった。
4人は静かに頷き、しばらく馬車で身体を休め、軽い食事もとった。
そして、数時間後、再び森へ入りE級、D級の虚獣を数体倒し、今日の特訓は終了した。
その帰り、ゴウとサラが疲れ切って寝ている中、アカサは昨日よりも身体が疲れていない事に気づく。
「どうしたの、アカサ?」
「ん?ああ、なんか昨日よりも身体が楽だなって・・・」
「へぇー、私なんか昨日よりもボロボロよ・・・先生があんなことするから・・・」
チラッとドルト先生の顔を見た。
「んぐっ・・・だからすまんと言ってるだろ。あれは・・・」
「私たちの為にやった事、ですよね。ふふっ」
「分かってるなら、聞くな」
レナはドルト先生をからかう。
ドルト先生は特訓を終え馬車に戻る道中、アカサ達に何故いきなりC級と戦わせたのか説明した。
1つはみんなの覚悟を試す為。
2つ目は格上と対峙することに慣れる為、と。
今のうちに格上と対峙する事に慣れておくと、冒険者になってその状況に直面した際、混乱せず冷静に動けるようになるらしい。
「私も駆け出しの頃、師匠にやられたんだ。そのおかげで心も体も強くなったと言ってもいい」
「へぇー、先生の師匠か・・・どんな人なんですか?」
アカサは気になって、ついつい聞いてしまう。
「・・・すでに会ってるぞ」
「えっ?」
「・・・ディアロ理事長だ」
─ ドルト先生って英雄の弟子だったのか!・・・英雄候補とまで言われてたのに先生になった事と何か関係してるのかな?
「もしかして、先生になったのって弟子だったからですか?」
「ん、ああ・・・まぁ、そんなとこだ・・・」
そう言ったドルト先生はどこか悲しげな表情をしている。
これ以上聞くのは野暮だと思ったアカサは、そっと口を閉じ目も閉じて壁に寄りかかった。
数時間後、王都に着き馬車から降りると特訓を終えたであろうボロボロ姿のナイト達と遭遇した。
こちらに気付き、カルド先生がドルト先生に近寄り話しかける。
「おう!ドルト、そっちは良い感じか?」
「まぁ、順調だ。そっちは」
「こっちは順調すぎて怖いくらいだ!」
カルド先生は一瞬アカサ達の方を見る。
「だってよー、2日目にしてC級の虚獣倒しちまったんだからな!」
─ なっ!あいつら、C級に勝ったのか!?
アカサは思わずナイトの方へ顔を向けると、ドヤ顔でこちらへ近づいて来る。
「ふん、その様子だとC級にボコられたようだな!やっぱりお前、英雄の器じゃねぇよ」
「・・・」
アカサは黙って睨み返すことしか出来なかった。
そんな様子をカルド先生は満足そうに眺めていた。
「いいなぁ、やっぱ。バチバチになってるところを見るのは」
「・・・お前がそういうふうに仕向けたんだろ」
(カルド・・・冒険者時代から変わってないな。一見、熱苦しい性格に見えるがどこか冷静なところもあり、人を煽る癖がある。相変わらずやな奴だ)
「わっはっはっはっ!バレたか!・・・まぁ、今回は許してくれや、教え子が成長してテンションが上がっちまった」
「はぁー・・・まぁいい、とっとと解散させるぞ。これ以上顔を合わせてたら殴り合いになるかもしれん」
「そうだな!・・・おい、お前達行くぞ!」
カルド先生の大きな声に呼ばれ、ナイトは睨むのをやめてその場を離れた。
「アカサ、気にすることないわ。私達のペースで強くなっていけば良いのよ」
「あ、ああ・・・そうだよな」
レナはアカサの肩に優しく手を置き励ます。
─ 負ける気がしない・・・この前はそう思ってた。俺は何でそう思ってたんだ・・・あいつは俺が全く歯が立たなかったC級を倒したのに・・・おかしい、俺の方が強いんじゃ無かったのか。だって、俺はシークと引き分けたんだぞ。だから同学年で俺より強い奴は・・・。
下だと思っていたナイト達がC級の虚獣を倒した事を知る。
その事実が受け止めきれず、寮へ帰るアカサの足取りは重かった。
順調だった特訓もこの日を境に少しずつ崩れていく。
続く




