オーラ
「あー、疲れた。こんなに連戦したの初めてだ」
特訓初日の帰りの馬車、アカサ達は虚獣との連戦で疲れ、ぐったりしていた。
1人だけピンピンしているドルト先生は背筋を伸ばしながら座り、本を読んでいる。
「1人だけ、元気そうですね・・・」
「何を言う、私が元気という事は一切手助けをしてないという事だ」
「ああ、そっか、いい事なのか」
「まぁE級、D級程度で疲れはしないがな」
─ おお、すげぇ自信満々に言った。そりゃそうか元英雄候補だもんな・・・今更だけど、何で英雄にならずに先生になったんだろ?
アカサはふと疑問に思う。
聞いてみようとも思ったが、今は疲れすぎててそれどころではない。
聞いても途中で寝てしまいそうだ。
「ふっ、オーラを使いすぎたんだ。王都まで寝ててもいいぞ。着いたら起こしてやる」
眠そうなアカサ達の顔を見て鼻で笑い優しい声でそう言った。
まぶたを閉じ、寝ようとしたアカサの薄目からぼんやり見えたドルト先生は満足そうに微笑んでいてた。
そのままアカサ達は馬車に揺られながら起きる事はなく王都に着いた。
ドルト先生に起こされた4人は、ふらふら歩きながら学校内の寮へ戻る。
前までは様々な生徒達が過ごしていた寮も、今は学校に残った12名の生徒達しか過ごしておらず、ディアロ理事長に連れて行かれた3年生たちは王都を離れ何処かへ行ってしまったので、実質8名の生徒達しか過ごしてなかった。
静かになった寮の廊下を歩いて自分の部屋へ向かう。寝る準備を済ませると倒れ込むようにベットへ寝転ぶ。
─ 静かだな・・・
隣の部屋から微かに聞こえてきていた声や物音が耳に入らない。
少し寂しさを感じたアカサだったが、目を閉じると直ぐに泥のように眠った。
♢♢♢
特訓2日目。
ぐっすり寝て気持ちの良い目覚めをしたアカサは支度を済ますと、昨日限界まで使ったオーラがちゃんと回復してるかどうか手のひらを顔の方に向けて、少し纏ってみる。
すると、昨日との変化に気付く。
─ あれ?今、少しだけ纏おうとしたよな・・・
確かにアカサは少しだけ纏おうと軽く身体に力を入れた。
しかし、手の周りに思ったよりも白いオーラが纏われている。
─ 何だこの感じ・・・オーラが身体から勝手に溢れてくるみたいだ。うまくコントロールできてない?
自分の身体の変化に戸惑いながら、集合場所に向かう。
今日もウツロの森で虚獣と戦うため、馬車に乗り込む。
すると道中、ゴウも身体に変化を感じていたみたいでみんなに話す。
「ゴウもか!俺も朝起きてから何か変なんだよな」
アカサは困惑の表情を浮かべながら同意するが、レナとサラは嬉しそうに同意する。
「私もだよ!強くなってる証拠だよね!」
「うん・・・みんな強くなってる」
その2人の様子を見てアカサとゴウは顔を見合わせ、さらに困惑する。
流石に話が噛み合ってない事に気が付いたレナは、戸惑いながら2人に質問をする。
「ね、ねぇ、あんた達は私達がわざわざ危険を冒してまで、ウツロの森へ行ってる理由は分かってるよね・・・?」
2人は『なに当たり前のことを・・・』と言わんばかりの顔をし、
「「強くなる為だろ」」
と声を合わし、自信満々に答えた。
それはそうなのだが、求めていた答えでは無かったのでレナは別の質問をする。
「じゃ、じゃあ私達が強くなる為にはどうしたらいいかは分かるよね・・・?」
2人はやれやれな顔をして、
「「虚獣と戦う」」
と再び声を合わせ、自信満々に答える。
先程から当たり前のことを聞いてくるレナを何故か心配し始める2人。
「大丈夫かレナ?」
「アカサ、レナはきっと昨日の疲れがまだ残ってるんだ」
「そ、そうだよな。レナ、疲れてるんだったらウツロの森に着くまで寝ててもいいんだぞ」
(コイツら・・・)
2人は本気で心配しているんだろうけど、レナからしたらバカにされている気分だ。
殴ろうかと思ったが我慢し、拳をプルプル震わしながら2人を睨む。
そんな様子を見ていたドルト先生がレナに助け舟を出す。
「アカサ、ゴウ、体内のオーラの量が増えると、どうなるか分かるか?」
「えっと、確か身体能力とかが上がったりするんですよね?」
「そうだ」
神から授かった力、オーラとはこの世界の人達にとってエネルギー。
力だ。
つまり、体内のオーラが多い者ほど、力、速さ、耐久力、自然治癒力などが高い。
ただし、強化具合は素の身体の強さからプラスされていく。
例えば、力100、速さ50、耐久力50の人がいたとする。
その人の体内のオーラが増え、身体が強化された場合、基本的に速さと耐久力が力を上回る事はない。
「では、手っ取り早くオーラを増やすには何をすれば良いか分かるか?」
「えーっと・・・」
2人とも少し考え込む。
そして、
「健康的な食生活?」
「よく寝る?」
ふわっとした答えを出した。
はぁー、とため息をついてドルト先生は呆れると、説明を始めた。
オーラは左胸あたりにある魂から生成され、常に一定の量が体内を巡っている。
冒険者や騎士はそれをコントロールし、武器や体に纏って戦う。
そして、纏って減った分を補充しようと、魂が再び一定の量になるように生成を始める。
では、増やすにはどうしたらいいのかと言うと、体内にあるオーラを一旦空にする必要があった。
空にすると言っても、完全には空にはならないので、限界近くまで空にすると言った方が正しい。
限界近く空にする事によって、魂が『今の量じゃ足りないんだ!』と考え、今までよりも多くのオーラを生成してくれる。
それを繰り返す事によって段々、体内におさめられる量の一定値が増えていく。
「体内のオーラを空にするって、オーラを沢山使えば良いんですよね?」
「ああ、そうだ」
「じゃあ別に、虚獣と戦うんじゃなくて模擬戦でもよくないですか?」
確かに模擬戦でもオーラの量は増える。
しかし、それは1年の時の話だ。
入学当初はまだオーラの量も少なく、武器や体に纏っただけで直ぐに空になったが、2年になった今、オーラの量は増えて、纏うだけでは空にならなかった。
それに、シロビト同士の模擬戦では武器や体のオーラは削れない。
対して、虚獣の攻撃は身体に纏ってあるオーラを削り、こちらが攻撃をするたび武器に纏っているオーラは段々と削れていく。
そうなってくるとオーラを纏い直す為、攻撃と防御の両方にオーラを消費しなければならないので、すぐ空になりどんどん体内におさめられる量も増えていく。
「と、こんな感じだな」
ドルト先生は丁寧に細かく教えてくれた。
「まぁ、全部1年生の時にやったやつなんだけど、アカサはほとんど寝てたからね」
「あ、ああー、そうだっけ・・・」
─ 1年の時はシークに勝つ為に居合を遅くまで練習してて寝不足だったから、午後の模擬戦の為に午前中の授業は寝てる事が多くて覚えてる事と覚えてないことがあるんだよな・・・。
レナに寝ていたことをバラされて、自分を睨むドルト先生の目が痛いアカサは慌ててゴウに振る。
「お、俺よりゴウはどうなんだ!」
「ん?俺はすっかり忘れてた!がっはっはっ!」
(バカしか居ないじゃん・・・)
レナは口に出さず、そっと心の中にしまった。
シークがいなくなり、アカサとゴウのバカ具合が見えてきて、この先不安になる他の3人だった。
そんな3人の呆れ顔に耐えられず、アカサは話題を変える。
「そ、そうだ!今日は何するんですか?」
「今日もE級、D級の虚獣と戦ってもらうつもりだ」
─ 昨日と同じか・・・て事は、まだC級の虚獣を倒せるくらいの力は無いってことだよな。もっと頑張らないとな!
気合いを入れたアカサを乗せた馬車はウツロの森へ向かう。
♢♢♢
森へ着いてしばらく歩くと虚獣が現れた。
4人は昨日同様に陣形を組み、E級、D級を倒していく。
5体目を倒し、次の虚獣を探そうとすると、
「お前達この辺はもういい、私に着いてこい」
黙って見ていたドルト先生はそう言って、森の奥までアカサ達を先導する。
しばらく歩いていると、空気が段々重くなっていくのを感じる。
「あの、ドルト先生、この先って・・・」
「大丈夫だ」
一言そう言って、奥に進む。
そして、目の前の木を通り過ぎた瞬間アカサ達の体が急に重くなる。
っ!?な、何だこの感じ・・・!
背中に誰かが乗っかったかのように足がガックンとなった。
しかし、ドルト先生だけはいつもと変わらず普通に歩いている。
すると、茂みをかき分けてこっちに来る虚獣の姿が見えた。
人型のジンだ。
─ 何だ、ジンか。何回も倒してる相手だ。
体は以前、重たいままだったが慣れてる相手で少し安心する・・・が、それも束の間。
そのジンは手に黒い剣を持っていた。
「うそ、だろ・・」
「手に武器を持つジンって・・・」
「おいおい、ここってまさか・・・」
「あ、あわわわっ・・・」
4人はすかさず武器を構えるが手の震えが止まらない。
ドルト先生に連れてこられた場所は冒険者になった時に訪れる最初の壁と言われてる、C級の虚獣が出るエリアだった。
いつの間にか、ドルト先生は遠くにいてニタァーと笑いながらこちらを見ている。
「あの鬼スパルタドS教師ぃーー!!」
森にドルト先生の悪口が木霊した。
続く。




