皇帝ストラーフ
皇帝ストラーフを乗せている装飾を付けた馬車は南門に着くと、御者は皇帝から受け取っていた手紙を門番に見せる。
その手紙には、王女リア・ランスが書いた証明を表す印が押されており、門番は滞りなく馬車を通した。
馬車は南門を潜り、騎士の先導の元、道なりに王城へ向かう。
数十分後、馬車は王城を囲む城壁の城門を通り馬車を止め、皇帝は自らの足で城内へ。
中にいた騎士に案内され、広い階段を上ると大きな扉が現れる。
扉を開け部屋に入ると、左右に玉座が向かい合って置いてあり、間には正方形の大きな白いテーブルが置かれていた。
そして、右の玉座には女王リア・ランスが座っていて、隣には[天神]の二つ名を持つ、シロビト最強の男が立っていた。
「会うのは初めまてですね。ストラーフ陛下」
女王リアは玉座から立ち上がり、頭を下げ挨拶をする。
「こちらこそ初めまして、リア女王。私の王都へ伺いたいという我儘を受け入れてくれて、本当にありがとうございます」
[皇帝ストラーフ 52歳 男性]
髪は短髪、左目には縦に3本傷がついていて、いつも真っ黒なコートを身に纏っている。
皇帝と言うには、少し腰が低く優しい雰囲気を感じさせる。
しかし、戦闘になると性格はガラリと変わり、戦ったことのあるクロビトからは地獄の王と恐れられている。
ハクが最強なら、ストラーフは最恐だろう。
リアから手紙をもらった後、自ら王都に行って謝りたい旨を書いた手紙を出し、返事をもらっていたストラーフ。
そんなストラーフは挨拶を済ませるとリアは玉座に座るが、自分は座らずに頭を深く下げた。
「今回のクロビトがシロビトを襲った件、本当にすいませんでした」
「・・・!?」
女王になってまだ3年しか経っていない22歳の若い女性に30歳年上の皇帝がいきなり頭を下げ、謝罪をした。
もちろん、2人共なるべくして頂点に立っている人間。
歳の差は関係ない。
ただ、こういう場は初めてで慣れてないリアは慌てる。
「あっ、その、えっと!別にストラーフ様のせい、という訳ではないと思いますが、その、えっと!」
「かっかっかっ!リア様は本当に可愛らしいのう。いいんじゃよ、素直に謝罪を受け取れば。これも皇帝の仕事じゃからのう」
「えっ、でも・・・」
アカサの前では大人な雰囲気で女王らしく振る舞ってはいたが、年上しかいない空間で緊張しているのか
、前より言動が幼い。
「天神の言う通り、これは私の責任です。
私がしっかり管理していれば起きなかった事です」
「・・・分かりました。謝罪は素直に受け取ります。しかし、こちらもまだ、そのクロビトを捕えてはいません。今も捜索は続けているのですが・・・」
あの後もアークを中心に騎士団が捜索を続けてはいるが、一向に足取りが掴めないでいた。
敵は英雄クラス、そして人の魂を吸収できるという未知の神力、もしくわ魔法持ち。
捕まえるのが困難なことは、皇帝ストラーフも分かっていた。
「そんな強力な力を持った奴がいれば私の耳にも届いてるはずです。それなのに昨日、手紙を読むまでは知らなかった。おそらく、敵は今まで地下で息を潜めていたのでしょう」
「そうじゃろうな。敵さんは隠れるのが得意みたいじゃ」
「そうですね・・・ストラーフ様、これからはお互い協力してそのクロビトを捕まえましょう!」
これ以上、そいつが暴れたりでもしたらお互いに被害を受ける。
そう思った女王リアは協力を申し出た。
しかし・・・
「・・・すいませんが協力はできないです」
「えっ!?・・・ど、どうしてですか?」
皇帝ストラーフは玉座に座り直し、協力の申し出を断った。
そして、表情や空気が一変する。
「私のもう1つ話したいことに関係してます。それは・・・成約を破棄させていただきたいと思っています」
「な、何故ですか!?今、成約を破棄するということの意味を分かってて言っているのですか!」
「もちろんです」
成約を破棄する意味、それはシロビトが黒の大陸に乗り込んで、クロビトとの争いが起きてしまうかもしれないと言う事だ。
現在、王都内だけではあるが、冒険者や騎士を育てる学校の生徒が実戦中にクロビトに襲われたと言う事が広まりつつあり、成約を破ったと言う事でクロビトに対し、恐怖や怒りと言った感情を抱き始めるシロビト達が少しずつ出始めていた。
実際、王城までの道中、自分の乗っていた馬車へ敵意や恐怖の視線を向けられていた事に、当然ストラーフは気づいていた。
「何故お前からなのじゃ、ストラーフ。先に襲われたのはこっちじゃぞ。それに、今成約を破棄して不利になるのはそっちじゃぞ」
当然の疑問だった。
シロビトが先に襲われた、約束を破られた、だから成約を破棄する。
これが普通だと思う。
クロビト側が破棄するのはおかしい。
仮に成約が破棄となれば、成約を破ったクロビトに対して不快感を覚えたシロビトが黒の大陸に攻め込むかもしれない。
クロビト側が不利になるのは明らかだった。
「こちらが不利か・・・」
ストラーフは鼻で笑うように、言葉を吐く。
「本当にそうなのか?」
「・・・何が言いたい?」
「・・・昨日、クロビトがシロビトに殺されました」
「「!!??」」
♢♢♢
女王リア・ランスから届いた手紙を読んだ皇帝は、急いで4人の英雄を招集する。
(さすがにあいつらには伝えておいたほうがいいよな。白の大陸に行く事。でも、あまり会いたくないんだよな、疲れるから・・・)
数時間後、ストラーフは英雄たちの待つ部屋へ。
部屋の扉を開けると、すでに3人の英雄が椅子に座っていた。
『あっ!ボス、やっときたネ!遅いヨ』
入って直ぐにチャイナ服を着ている元気な女性に怒られる。
『ごめん、ごめん。今日も元気だねランラン』
[英雄ランラン 25歳 女性 二つ名 狂嵐]
見た目は頭の上にお団子ヘアが2つ乗っていて、三つ編みが顔の左右から垂れている。
帝都から遠く離れた小さな里で育ち、冒険者を目指して帝都に向かってる途中、何体ものA級の虚獣、1体のS級の虚獣倒していた事が持っていた魂石から分かり、帝都に着いて早々、ストラーフに認められ英雄になった。
『元気がワタシの取り柄ネ!それよりも見てよボス、ロードのメガネ片方しか付いてないヨ』
『ああ、あれはモノクルだよ』
『モノクル?』
ランランが指を指した方には、真っ黒な軍服を着たイケメンが座っていた。
[英雄ロード 36歳 男性 二つ名 1人の軍隊]
髪はサラサラ揺れ、前髪は目にかかりそうなくらい長い。
元々、帝都の軍に所属していた彼は皇帝ストラーフの腰が低い態度に苛立ちを覚えていた。
ある日、ロードはストラーフに喧嘩を売るが普段と全然違うその戦い振りに、恐怖と共に尊敬を抱き皇帝ストラーフに一生を捧ぐことを決め、英雄にまで昇り詰めた。
『さっきからそう言ってるではないですかランラン。
片眼鏡と呼ばれるものです』
『絶対じゃまネ。なんでわざわざ片方だけつけるヨ』
『こっちの方がかっこいいからに決まってるじゃないですか!!』
『・・・なんか段々、イラついてきたヨ。それ割ればスッキリするかもネ』
ランランは拳を握りながらロードに近づき、腕を後ろに引く。
『えっ、あの、ランラン?こっち来ないでくれますか・・・ちょっ、その・・・こ、こっち来るなー!!』
叫びと同時にランランの拳は顔面に向かい、モノクルは粉々に割れ、ロードは空中で何回も回る。
『ロードーー!!』
『がはっ・・・ぐっ、はぁはぁ・・・ストラーフ様、私はここまでのようです・・・今まで、ありがとうございました・・・がくっ』
『ロードーー!!』
ロードはランランのパンチに耐えきれず、ここで命を落とすことになる・・・訳はない。
『・・・茶番ネ。さっさと起きるヨ』
『・・・そうですね。久々にみんなと会えてテンションがおかしくなっていました』
『俺もついつい、のってしまった・・・ん?』
茶番をやめ、ロードはスッと立ち上がり胸ポケットから新しいモノクルを出し、ストラーフも椅子に座ろうとすると、つんつん、と背中をつつかれる。
振り返ると、口元を黒い布で覆っている男性が立っていた。
『おお、どうしたスカー』
『・・・これ・・・かっこいい・・・』
『なんでスカーもモノクル付けてんの、流行ってるのか?』
『私があげました。気になってた様子だったので』
[英雄スカー 30歳 男性 二つ名 影狼]
髪はボサボサで、気だるそうな目をしている。
あまり喋らない。
主に仕事は情報収集で、いつも黒の大陸を走り回っている。
元々、帝都で情報屋をしてた時に仕事でストラーフと出会い気に入られ、その後も一緒に仕事をしていくうちに英雄と呼ばれるまでに至った。
『なんでスカーも付けてるヨ。それだったらワタシにもよこすネ』
『いやですぅー。まだありますけど、ランランにはあげませんよぉーだ』
ロードは胸ポケットから2つモノクルを出し、ランランの目の前まで持っていき煽る。
(あいつの胸ポケットどうなってるんだよ・・・)
『・・・うざいネ』
ランランの拳はロードの顔面にめり込み、再び空中を何回も回る。
その衝撃で持っていたモノクルは粉々に割れた。
『ロード・・・』
『がはっ・・・ぐっ、はぁはぁ、私はもうここまでのようです・・・スカー、あなたが持ってるモノクルが最後の1つです。どうか大切に・・・がくっ』
『・・・やっぱ、カッコ悪い・・・いらない・・・』
スカーは付けていたモノクルを外し、投げ捨てて椅子に座る。
『・・・明日からは、普通のメガネにしましょうか』
ロードも何もなかったかのように、スッと立ち上がり椅子に座った。
(はぁ、やっとみんな落ち着いたか。まだ、何も話してないのに疲れた・・・それにしてもセーリオがまだ来てないのは珍しいな、いつも時間には厳しいのに)
[英雄セーリオ 52歳 男性 二つ名 軍神]
髪はオールバックで、真面目な性格。
ストラーフとは幼馴染で、子供の頃から切磋琢磨し腕を磨いてきた。
ストラーフに力では及ばなかったが、頭脳では勝っていた。
ストラーフが皇帝になった時も陰から支え、いつしか皇帝ストラーフの右腕とも呼ばれるようになった。
ストラーフと他の3人の英雄は座りながらセーリオを待つ。
すると、扉が勢いよく開き1人の軍兵が慌てて入ってきた。
『ストラーフ様、大変です!!セーリオ様が!!』
その報告を聞き、急いで城の入り口まで走る。
そこには、服が血の色で赤く染まり、横たわっているセーリオの姿があった。
『セーリオ!!』
ストラーフが必死に呼びかけると、応えるかのように目を開け口を開き、消え入りそうな声でこう言った。
『・・・かた、な・・・てん、じん・・・』
最期の力を振り絞り、その一言を言い残したセーリオは、もう2度と動くことはなかった。
♢♢♢
「ちょっと待って下さい!!もしかして、ハクがやったと言いたいんですか!?証拠はあるんですか!」
「証拠なんて必要ありません。セーリオがそう言った。それで十分です。それに、セーリオは英雄・・・あいつを殺せるシロビトは英雄クラスしかいません」
ストラーフの頭にセーリオを疑う、そんな考えはなかった。
子どもの頃から一緒に高みを目指してきた。
自分が皇帝になってからも支えてきてくれた。
信用するには十分だった。
「そ、それでしたら!尚更成約を破棄してしまえば、確実に争いに!」
先程までだったならシロビト側をおさめれば争いを起こさせないようには出来たが、クロビト側でも同じような事件が起きたと知った今、争いが起きる確率がグッと上がった。
「安心してください。私自身、争おうなどとは思ってません」
「で、でしたら何故!?」
「・・・13年前、天神が成約を交わそうと乗り込んできた時、私は申し訳なさと自分の不甲斐なさに怒りを覚えた。そして、天神の怒りと悲しみが混ざったような顔・・・今でも覚えている。クロビトとシロビトが傷つけ合う時代ではもう無いと。だから、成約を結んだ」
「・・・」
「それなのに、貴様は破った・・・!自らの言葉を、意志を・・・!そんな奴が言い始めた成約を結んだままでは、私が死んだ後、あの世でセーリオに合わす顔がない・・・!」
ストラーフは睨みつけるように、ハクヘ視線を向ける。
「天神・・・何故、セーリオを殺した・・・笑顔を浮かべてないで答えろ・・・!」
「・・・別にわしが答えることなんか何もないぞ。やってないし」
ハクは動じず、堂々と喋る。
それが気に入らなかったのか、ストラーフは戦闘体制に入る。
「・・・"俺"は、今ここで貴様を地獄に堕としてもいいんだがな・・・!」
ストラーフはとてつもない殺気を放つ。
それは、城全体・・・いや、王都を包み込むくらい凄まじかった。
その時、王都内では子供は泣き、騎士団や冒険者たちは臨戦態勢に入っていたという。
「かっ・・・あっ・・ハ、ク・・・」
そんな殺気を間近で受けたリアは、喋ることすら困難になっていた。
それを隣で見ていたハクは、当然激怒する。
「お主・・・誰の前でそんな態度をとっておるんじゃ・・・お?」
顔から笑顔が消え、ハクも同等の殺気をストラーフに放ち2人は睨み合う。
部屋の空気は歪み、一部の物にヒビが入る。
そして数秒後、ストラーフは殺気を抑えて、口を開く。
「・・・とにかく、成約は破棄させていただきます。・・・結局、我々は愛入れぬ存在。成約を交わしても問題は起こる。これからは、大陸内での問題は各々で解決し、一切干渉しない。今後、クロビトがそちらの大陸で問題を起こし、殺されようが構いません。勿論、グリースの警備は今まで以上に堅くし、1人も通さないようにするのでご安心を」
ストラーフはそう言うと、玉座から立ち上がる。
「それと今回の白ノ魂、黒ノ魂を持ったかもしれないクロビトに関しては、黒の大陸にいた場合、こちらで勝手に対処します。そちらへ渡すつもりはない事だけは覚えておいて下さい。それでは」
そう言い残すと、コツン、コツンと足音を鳴らし、ストラーフは部屋を出ていった。
「ハ、ク・・・っ!ごほっごほっ・・・はぁ、はぁ」
「リア様、水を飲むんじゃ」
「ごくっ、ごくっ・・・はぁ、ありがとうハク」
リアは口がずっと開きっぱなしになっていて、口が渇いたのか喋ろうとすると咳き込む。
「どうしましょう、このままでは・・・」
シロビト側が殺されたのは、まだ無名の学校の生徒、かたやクロビト側は英雄の1人セーリオ。
ストラーフ自身は争うつもりはないと言ったが、成約が破棄された今、怒り狂ったクロビト達が白の大陸に押し寄せてくる確率は高かった。
「こちらも橋の警備の人数を増やさなくては・・・それから・・・」
リアは頭を抱え、机に肘をつく。
そして、ハクはシークとセーリオの事件が無関係とは思えない。
今まで影に潜んでいた大きな闇が動き出そうとしている、そんな気がしてならなかった。
成約が破棄された。
クロビトとシロビトの争いが起きるかもしれない。
この出来事はアカサ達の学校生活にも大きく影響を与える事になる。
続く




