プロローグ0
そこは、白と黒の建物が混ざり合うようにあった。
その建物には白と黒の装飾品が混ざり合うように飾られていた。
灯りらしき物はないが凄く明るく、神秘的で少し異質な空間。
そんな空間の中央には、一際デカく高い塔の様なものが建っていた。
塔は中心から右が真っ白に、左が真っ黒に染められている。
その塔の白と黒、半々になっている扉の前に全身が黒く人の形をした小さな何かが立っている。
「失礼します!」
その小さき者は元気な声で扉を開けた。
すると、怒号が耳に入ってくる。
「おい、貴様!!また、私の酒勝手に飲んだな!!ああ!?」
全身が真っ白で、スタイルの良い女性の形をしたそれは、とても女性が出しているとは思えない程の声をあげる。
「わ、我じゃない!!ほ、本当!!信じて!!」
全身が真っ黒で、ガタイの良い男性のような形をしたそれは、その漢らしいガタイを丸めるように頭を抱え、怯えながら威厳のある声で必死に訴えかける。
「いちいち、下界に買いに行くのめんどくさいんだぞ!!ああ!?」
「だ、だから我じゃないって!!」
「貴様しか、飲む奴いないだろうが!!」
そう声を荒げると共に放った飛び蹴りが、全身真っ黒のガタイの良い男性にクリーンヒットし吹っ飛ぶ。
「ふん!クソが!」
そう一言言い残し、全身真っ白な女性は塔から出ていった。
吹っ飛んだ男性は女性が出ていったのを確認してから、負け惜しむように
「全然、痛くないし!」
と、言葉を吐いた。
そんな男性に小さき者は呆れるように近づく。
「また、喧嘩ですか?」
「あれは喧嘩ではない。一方的な暴力だ!」
そう言いながら男性は立ち上がると、何枚もの紙が重なるように置いてある机の椅子にドシっと座り、
「それで、ミニは何のようだ」
と、小さき者に尋ねる。
「これ、今週の報告書です!」
ミニと呼ばれた小さき者は、数百枚の紙が束ねられた物を渡す。
男性はそれは嫌そうに受け取ると、読まずに机に置く。
「ちゃんと読んでくださいね」
ミニに釘を刺すように言われ、渋々目を通す。
「ふむぅーなになに、下界ではもうすぐ、ip◯◯ne36が出るのか・・・次は・・・」
そして数十分後、紙の束を半分くらい読み終わると、男性は飽きたのか紙の束を机に置き、ダラーっと椅子にもたれかかる。
「何、飽きてるんですか!」
「いや、だって、文字ばっかだし」
「報告書ですからね!」
「て言うかー、何で我がこんな事しなくちゃいかないの、的な」
ギャルのような口調で小言を言う。
「そんなの、あなた様が人間を創造したからに決まっててるじゃないですか。男神様」
「それはそうなんだが、人間増えすぎ、みたいな。我とあいつだけじゃ管理しきれない、みたいな」
「その為に僕達のようなお手伝いを創ったんじゃないんか?あ!?」
「いや、まぁそうなん・・・何か口調強くない?」
「小言ばっか言ってるからですよ!男神様はここで週に1回渡す報告書を見てるだけじゃないですか!ずっと働いてるのは僕達なんですからね!」
ミニは小さな体を大きく動かし、ぷんぷんと怒る。
すると、塔の扉が勢いよく開くと共に、ミニに同意する声が塔内に響く。
「ミニの言う通りだ、貴様!ダラダラしおって!ちゃんと報告書には目を通せ!」
「女神様!」
「まったく、だらしのない奴だ」
そう言いながら、何枚もの紙が重なるように置いてある机の椅子に女神は座り、手に持っていた『お酒』と書かれた大きめの瓶をドンッと置いた。
「まぁ、この酒泥棒の言う通り、小言を言いたくなる気持ちは分かるけどな」
「ほら、聞いたかミニ。この暴力女神もそう思ってるだろう・・・後、酒は我ではない」
「ほら、と言われても・・・」
ミニは『だから、何?』と思ったが、心にしまう。
「人間を創造してから数千年は楽だった。大陸も1つしかなかったし、人間も我達で管理出来るくらい少なかった」
男神は完全に椅子にダラっと座り、昔話をし始める。
「癪だが、この酒泥棒の言う通りだ。人間達の作る酒は美味いが、人間は増えすぎだな。こちらの身にもなって欲しい」
女神は酒瓶をそのまま口につけて、水を飲むかのようにゴクゴクと飲み始める。
「ほら、聞いたからミニ。この暴力女もそう思っているだろう・・・後、酒は我ではない」
「だから、何?」
(ほら、と言われても・・・)
ミニは思わず、本音を口に出てしまう。
「・・・最近ミニが我に冷たいのは一旦、置いといて。とにかく大変なのだ。何より、見ていてつまらん!」
「そうじゃ、そうじゃ!つまらん、つまらん!」
「昔は我達の与えた力でドゴーンッ!、バゴーンッ!と人間達が暴れてて面白かった!」
「ドゴーンッ!、バゴーンッ!」
男神の言葉に女神は酔った様子で合いの手を入れる。
「今やどうだミニ?我達の与えた力は微塵も無く、小さな画面を見てばっかだ」
男神はそう言いながら、下界の様子が分かる映像を空中に出した。
「だったら、また人間に力を与えればいいじゃないですか。ついでに数も減らして。男神様なら簡単でしょ」
ミニは提案をする。
「確かに、人間を創造した我ならそれくらい容易だが、それは出来んのだ」
「何でですか?」
「・・・教えない」
「えっ、良いじゃないですか。教えてくださいよ」
「嫌だ。教えたくない」
男神は首をプイッと横に向け、子供のように言う。
すると、女神は飲んでいた酒瓶をドンッと置き、口を挟む。
「妾が教えてやろう!コイツは昔、目つきの悪い人間とっ──」
「あー!!あー!!あー!!」
「うるさいぞ、貴様!!」
男神は大きな声を出し、それを遮ろうとする。
「お主こそ、勝手に我の事を喋るな!この、酒カス暴力女神が!!これでもくらえ!!」
男神はそう言うと、机の下に隠すように置いてあった空の酒瓶を女神に投げつけた。
「っ!何をする!・・・って、これ妾の酒じゃないか!!やっぱり、貴様が飲んでるではないか!!」
「あっ!やべっ!」
「貴様ぁーー!!」
「ぐぁっ!!」
女神の怒りの飛び蹴りが男神にクリーンヒットし、部屋の奥の壁際まで吹っ飛ぶ。
そして、地面に寝転がるようにガタイの良い体を丸め、怯えるように頭を抱えて次の攻撃に備える。
「おらぁ!!これでもくらえ、酒泥棒が!!」
「ぐぁっ!!」
「さっき、下界に酒を買いに行った時に見た人間がしてた技!エルボードロップをな!!」
「痛い!!膝が!刺さる!!」
さっきと同じような光景が再び訪れ、呆れるミニ。
すると、塔の扉がゆっくり開き、ミニと同じサイズの人の形をした全身の白い小さき者がテクテクと入ってくる。
「失礼します」
「あっ、チビさん!」
「ミニさん、どうも」
お互い頭を下げて、挨拶を交わす。
「女神様への報告書ですか?」
「はい。女神様は・・・」
チビと呼ばれた白い小さき者はキョロキョロと辺りを見渡し、遠くの方でエルボードロップを何度も繰り出している女神を見つける。
「また、喧嘩ですか?」
「男神様曰く、あれは喧嘩じゃなくて一方的な暴力だそうです」
それから、ミニとチビは女神の怒りがおさまるまで談笑をしながら待った。
男神の悲鳴が響く中。