プロローグ~門出~
ガチャッ...きぃぃ...。
チャペルの扉が重々しい音を立てて、開かれる。
開かれた扉の先にいたのは、純白のドレスに身を包み込んだ花嫁と義父の姿があった。
今日の化粧室でも、その前の衣装合わせでも何度も見て、知っているはずなのに、きらきらと差し込む日差し、ひらひらとはためくヴェール、コツコツとなるヒールの音。すべてが重なり合って心揺さぶる美しさを奏でている。
二人は、一歩一歩を今まで過ごした日々を噛みしめるようにゆっくりと私の待つ祭壇へ歩いてくる。
パイプオルガンの奏でる音楽に混じって、感情豊かな私の親友のすすり泣く声が聞こえる。泣くのはまだ早いって。
これまで関わってきた人たちを限界まで招待したため、このヴァージンロードは長い。初めて会場に入ったときは驚いたものだったが、彼女に見惚れていたら、既に彼女は中程まで来ていた。もう私が迎えに行く時だ。
私が歩き始めると、彼女は、立ち止まって友達にヴェール越しに微笑みかけ、感謝を表していた。
その笑みに、嬉しかったのか、恥ずかしかったのか、その子たちは耳まで顔を赤くしながら自分の席まで戻っていった。そして、彼女は爽やかな笑みのままこちらを向いた。
そして彼女の父親は、こちらをじっと見つめたあと、大きく頷いて私に新婦の手を渡し、彼の席へと戻った。威厳のある顔が、涙を堪えてほんの少しだけ歪み、目じりが赤かったのを私は見逃さなかった。
彼女の手が私の腕をしかと掴んだことを確認して、彼女の方を一瞥すると、感情の起伏が見えにくい彼女が、いつも通り落ち着きを払った顔をしていたが、それ以上に誰が見てもわかるような、幸せそうな顔をしていた。
この笑顔が見れただけで、私は幸せものだなと思った。私は正直、結婚式にはこだわりがなかった。だって、彼女が大学を卒業したら、すぐに交際を始めたし、その一年後には同棲していた。彼女の熱弁がなかったら、私は婚姻届を出しておしまいなんて考えていた。あの頃の私、なんて勿体無い。
「結婚式は今まで関わってきた人たちへの感謝を述べるときです。だから、これは私たちのやるべきことです。」そう言われて私はようやく理解した。私達は二人でなど生きていないことを。そのすべてに敬意を込めて、この日を迎えられたことに感謝する。
そして、一歩…一歩…と歩みを進める。これからの二人の輝かしい未来への期待に胸を膨らませながら。