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恋愛小品集

桜ひとひら

作者: 香月よう子

 改札口から吐き出される人並みに押され、今日もまた会社へと急ぐ。

 春物のトレンチではまだ少しだけ肌寒い朝。

 思わず首元のシフォンのストールを整えた。


 今日は午前十時から大事な商品開発企画会議。その前にもう一度プレゼン資料に目を通して……。

 会社までの道のりでもう既に戦闘モードに入りながらもふと、涙が零れそうになる。



挿絵(By みてみん)



 そのときだった。

 一陣のつむじ風が宙を駆け抜けた。


 街路樹の桜の大木から花びらが風に吹かれ、一面の花吹雪。

 その光景に、目を奪われる。

 そして、舞い上がる花びらに吹かれながら、何故だろう。

 走馬灯のように悠生ゆうきの想い出が駆け巡った。


 三年前の早春からつきあい始めた悠生。

 初めてのデートでは、二人で桜を見上げていた。

 桜は見頃で、ただひたすら美しかった。


 "また来ような"


 人懐こい笑みで私に向かって最後にそう言ってくれたのは、いつのことだったか。


 暫し佇み、つむじ風に身を任せる。

 散りめた花びらが地面の上で舞い踊る。

 どんなに美しい桜もいつかは散る。

 こんな風が吹くなんて。

 あの頃は知らなかった。

 いつも隣には悠生がいて、それはずっと続く日々だと信じていた。


 けれど。

 もう悠生あなたはいない……。


 嗚呼、でもきっといつか。

 この舞い上がる花びらと共に、新しい春を見つける。

 うつむけば涙が零れるから、上を向く。


 きゅっと唇を噛みしめ、惑いながらもまた歩き出す。



本作は、武頼庵さま主催「第3回初恋企画」参加作品でした。


挿絵は、みこと。様に描いていただきました。


武頼庵さま、みこと。様、お読みいただいた方、どうもありがとうございました。


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
[良い点] まずタイトルが良いです。 本文で胸がきゅんとなるのです。 そして挿絵!
2023/04/20 20:50 退会済み
管理
[良い点] 綺麗で謎めいて素敵です! 悠生さんはどうして今主人公の隣にいないのか、お話の続きを勝手に妄想してしまいました。 [一言] 読ませていただきありがとうございました。
[良い点] 綺麗で切ない‥‥‥! とても良かったです。 哀しい気持ちを抱えながら、それでも前を向いて歩いていくラストが素敵でした。 こっちまで前向きになれる気になれました。
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