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第45話 王都へ

 ――18日目


 ギムナで行われている豊穣祭も最終日を迎え、大呪術師ボーディスによる騒動も落ち着きを取り戻していた。

 街は豊穣祭で賑わっており、平和な光景が広がっていた。

 目の前の光景はカインがやり直してようやく手に入れたもの。以前の世界では迎えることのできなかった平和な光景。


 そんな光景を大通りに面したオープンカフェで見ていた。

 隣ではシアが食べたことのないスイーツを堪能して笑顔を浮かべていた。ラポルカのような田舎では甘いスイーツなど簡単には食べることができなかった。


「お待たせ」

「いえ、大丈夫です」


 そんなところにエレナが合流する。


「当主から了承はもらえたんですか?」

「渋々、といった感じだけどね」


 貴族令嬢であるエレナ。

 魔法の才能があったとはいえ、令嬢としてどこかの貴族に嫁入りしてほしい、と願っていたダルキス。封印の件があったため魔法の勉強を理由に自由を許可していたが、問題が解決したのなら魔法使いではなく令嬢として生きてほしかった。

 だが、そうもいかない理由が存在する。


「まだ魔法使いとしてやらないといけないことがあるのよね」


 封印に成功したエレナ。師事した賢者の知識もあったおかげでやり遂げることができた。

 それから……


「禁書庫の知識まで使ってしまったのが問題なのよね」


 行き詰ったエレナは王都の王城にある禁書庫にまで踏み入れていた。

 賢者の同行があったから特別に許可されたが、保存されている知識を外で使用することは禁止されていた。


 聖剣の力を利用した結界と封印。

 根底にあるのは禁書庫で保管されている知識であり、どのような事情があろうとも使用してはならなかった。


「王都へ行って賢者様に謝罪することにするわ」


 許してもらえばいい方で、最悪の場合は処刑もあり得る。

 最低でも賢者候補の地位は返上しなければならず、責任を問われることとなる。


「いいんですか?」


 黙っていれば露見しないかもしれない。


「黙っていて露見した時の方が問題よ。自分から申告した方がいいわ」


 エレナの決意は固い。


「そんなにマズいことだったの?」


 シアにはいまいちピンとこない。

 そもそも同行していたものの必要以上の情報が与えられていないため、詳しい事情まで理解していない。


「だって悪い奴を封印したんでしょ。だったら少しぐらいは許してくれるんじゃない?」

「それがそうでもないのよ」


 シアはボーディスという名の大呪術師を封印したと思い込んでいる。


「ボーディスなんていう人間は存在していないわ」

「え、だって……」


 封印から解放された黒い男をシアは目にしている。

 あれは、一体だれだったのか。


「まず封印の役割から教えてあげるわ。この地は瘴気に汚染されやすい土地で、何もしていなければ人が住めない土地になってしまうわ」


 今の様子からは考えられないが、それがギムナの本来あるべき姿だった。

 そんな状況を改善したのが呪術師。彼らは瘴気の流れに干渉して北にある湖付近に集まるようにし、清らかな魔力へと変換されるようにした。

 呪術師の方にも様々な実験ができる、ということで協力する利点があった。


「呪術の力もあって人の住める土地になったわ」


 けれども不完全な浄化に留まることとなる。

 蓄積された瘴気の一部が浄化されず、湖付近で滞留することとなる。

 その状況を危惧した呪術師たちが外へ漏れ出さないよう蓋の役割をする封印を施すこととした。


 ここに大きな違いがある。

 ヴァーエル家の伝承では頼った呪術師は一人で、悪事を働いていた呪術師を犠牲にすることで現在の状況を手に入れた、となっていた。


「悪い呪術師を犠牲にしたことでヴァーエル家の権威を強める。呪術師と関りのなかった領民には事の詳細なんてわからない」


 ヴァーエル家の嘘。

 そこに瘴気を変換するシステムと封印を維持する為に必要な儀式、という真実だけが残される。

 当時を直接知る者がいなくなったことで歪曲された情報だけが子孫に伝えられた。


「浄化し切れない淀みは時間を掛けて蓄積され、人から干渉を受けたことで人間への敵意を持つようになったわ」


 封印されて身動きもできない状況で自我だけが生まれた。

 その自我の元となったのは関わりのあった呪術師。彼らが持っていた知識もいつの間にか習得しており、特殊な知識を利用して人間への報復を企んだ。

 まずは封印から解放される必要がある。

 本能だけで知性を駆使していた。


「だから人間寄りの魔物ね」


 魔物は動植物が瘴気を浴びることで変質して生まれたり、瘴気が凝縮されることで生まれたりすることがある。

 ボーディスも後者に該当する。

 浄化されずに蓄積された瘴気が凝縮され、呪術師たちの知識をベースにした自我を持つ魔物が生まれた。


「今度の封印は大丈夫よ。瘴気は蓄積されることになるけど、それと同じくらいの速度で瘴気を霧散させるようにしているから」


 聖剣の力があったからこそ実現できた力。

 他の力を利用して封印を構築する。

 その知識は現代ではほとんどと言っていいほど失われており、禁書庫の中にしかなかった。

 いずれは賢者の目に留まる……と言うよりも留まってしまったことがある。


「以前の世界で勇者が大呪術師を倒し、事態を重く見た国が調査に乗り出したらしいわ」


 呪術師だけでなく、魔法使いにも声が掛けられて調査が行われた。

 調査員の中にはエレナの師匠である賢者もおり、興味を持たれてしまったせいで隠された事情まで詳らかにされてしまった。

 その時はヴァーエル家から離れていたため責任を問われることはなかったが、封印に賢者の興味を惹くものがあった。


「賢者から直接聞いたわけじゃないけど、色々な情報が冒険者ギルドとかで出回ったんだ」


 中には間違った情報もあった。それでも得られた多くの情報から正しい情報を導き出したのは、その時のエレナだ。

 カインは彼女から聞いた話を伝えただけに過ぎない。

 だからボーディスに関する情報は正しい。


「以前の封印も簡単に詳らかにしてしまった賢者様よ。私の施した封印にどんな知識が使われているかなんて少し見ただけ判明してしまうわ」


 エレナが読んだ禁書庫にある本は、賢者も読んだことがあるものばかりだ。


「後からバレるよりも自分から白状してしまった方が被害は少ないわ」

「えぇ……」

「まあ、あの方なら相談すれば酷いことにはならないでしょう」


 賢者と会うためエレナは王都へ向かわなければならない。


「これまで協力ありがとう。何か力になれることがあったら言いなさい。可能な範囲で協力してあげるわ」

「あ、ああ……」


 カインの言葉は歯切れが悪い。

 それというのも目標が消えてしまったからだ。使徒になってからの体感で数か月間は提示されたクエストを完遂することにばかり意識を向けていたが、3つのクエストをクリアしてしまったせいで新たなクエストが提示されていない状況。

 使徒として女神からのクエストを優先させたく、他の事をする気になれない。

 肝心のブランディアも今は姿を隠している。


「私が施した封印も思い付きみたいなものだから答え合わせも兼ねて禁書庫を訪れてみようと思うわ」


 許可が出るかわからないけどね、と苦笑した。

 賢者候補の地位も剥奪され、賢者から許可が下りないかもしれない。


「禁書庫」


 カインが一言呟いた。



 ――メインクエストが活性化しました。

   メインクエスト④禁書庫の守護騎士を停止させよ



 待っていた通知に拳を握りしめる。


「俺も禁書庫に行きます」

「え……もしかしてクエストが届いたの?」

「はい」


 エレナには使徒への通知は見えない。

 だが、【鑑定】を通して確かめることはできた。


「守護騎士……? そんなの聞いたことないけど」

「また面倒なクエストが届きましたね」


 禁書庫――王都のある西の方を向く。


「……うん?」


 隣にいたシアも同じように西を向いていた。


「どうした?」

「どうやら案内人としてあたしも王都へ行かないといけないみたい」


 シアの視界には【天啓】によって向かうべき方角が表示されていた。


「じゃあ決まりみたいだな」


 賢者に会うべく王都へ向かうエレナ。

 禁書庫でのクエストの為に王都を訪れる必要のあるカイン。

 スキルによって西へと向かうよう導かれ、導くことになったシア。


「次は王都へ行くか」

第2章まで完結となります。

次は王都でクエスト④と⑥、別の場所で⑤となる予定でいますが、書きあがったら再び投稿を続けたいと思います。

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