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第44話 クエスト③クリア

 山羊を思わせるような頭部、両側面から突き出た禍々しい2本の角。真っ黒な毛に覆われた巨大な魔物が姿を現す。

 カインにとって目撃するのは二度目。

 しかし、周囲にいる者にとっては初めて目にする異形。魔物を目にしたことがある者ですら足が竦んでしまっていた。


「大悪魔……」


 どうにかダルキスが呟く。


「少し違いますね。アレは土地を汚染してしまう瘴気と人の負の感情を圧し固めた化け物です」


 見るだけで嫌悪感を抱いてしまう異形。

 単純に存在そのものが穢れている。


「……あんなのどうしろって言うんだよ」


 騎士の一人が武器を落とし、釣られるように他の者から戦意が失われていった。これこそギムナの被害を大きくした最大の理由で、大呪術師ボーディスの本当の姿を見てしまった者は抵抗する気を失ってしまう。

 抵抗できるのは、【呪術耐性】等の精神系の耐性スキルを持つ者だけ。

 無事なのは使徒であるカインやエレナとシアのみ。


「ここから先も俺たちだけでやります。あなたたち騎士は領主様が怪我をしないよう守っていてください」


 二本の短剣を強く握りしめて駆け出す。

 近付くカインに気付いたボーディスが巨体から拳を振り下ろす。圧倒的な質量は上から叩き付けられるだけでも人を潰すことができる。


 足を止めることなく聖剣を振り上げ、白い稲妻を迸らせる。

 白い稲妻を受けたボーディスの拳が左右に大きく、辺り一面に黒い血が撒き散らされる。

 呪術によって生み出された化け物であるボーディスにとって聖剣の攻撃は致命傷となり得る。


 負傷した腕に跳び乗り、頭に向かって駆け上がる。

 自身の腕を駆ける不快な存在に気付いたボーディスが、空いている右腕で潰すように叩き付ける。

 カインの姿は潰された……ように見えた。それでも腕を駆け上がる不快感が消えることはない。


「【幻影の囮(ミラージュデコイ)】」


 本物と寸分違わない偽物の幻影を生み出す魔法。賢者に匹敵するほど魔法に精通した者でなければ見抜くことができないほど精巧な幻影。

 ボーディスが叩き潰したのは、エレナの魔法によって生み出された幻影。本物は幻影よりも少し前を走っていたおかげで叩き潰されずに済んだ。


 眼球だけを肩まで駆け上がって顔の横にいるカインへ向けて驚愕する。見失っていても踏まれている感覚から近くまで到達されたことがわかる。


「【乱斬】」


 両手に持った2本の短剣を振り回すと、ボーディスの頭部に鋭い傷跡が何本も生まれる。短剣で直接斬った傷だけでなく、同じ角度の傷がズレた位置にあった。


 【乱斬】。

 実際の斬撃の周囲に魔力の斬撃を生み出して斬ることができるスキル。

 このスキルによる多くの傷を相手に与えることができるようになった。


「ギャアアアァァァァァ!!」


 化け物の悲鳴が森の中に木霊する。

 以前の世界では騎士や冒険者がどれだけ攻撃しても苦しむ素振りすら見せていなかったボーディスが苦しんでいる。


 原因は、聖剣による攻撃。

 短剣による傷が少しして塞がってしまったが、聖剣による傷は熱湯を浴びせられたかのように白煙を出しながら癒えることがない。

 正しい武器で戦えば大呪術師ボーディスと言えど倒せる。さらに聖剣を手にしたのが勇者なら苦戦するはずがない。


「少し黙っていろ」


 顔を蹴り飛ばせば後ろへとよろける。

 直後、ボーディスの背から無数の真っ黒な腕が何十本と飛び出す。数本が倒れようとしていた体を後ろから支え、残りがカインを捕らえるべく向かう。

 何度も目にしたことのある黒い腕。少しでも捕まれてしまえば使徒の体も粉々にしてしまうことができる。今のボーディスに楽しんでいられるような余裕はない。


「いまさらそんな攻撃が通用するか!」


 聖剣から白い稲妻が迸る。

 覆い尽くそうとしていたいくつもの腕が消え、青い空が露わになる。

 再びボーディスの体を駆け、頭部を足場にして跳び上がる。


「いい加減に終わりにしよう」


 聖剣に貯め込んでいた魔力を解放する。


「迸れ――稲妻。凡てを灼き尽くせ」


 眼下にいるボーディスに向かって聖剣を投げる。

 投擲された聖剣は光り輝き、稲妻と共に白い光がボーディスの体を覆い尽くす。


「ま、眩しい……!」


 騎士たちが眩しさから目を閉じてしまう。カインも視界が真っ白に埋め尽くされて何も見えなくなるが、そんな状況に対して恐怖することはない。

 視界を覆い尽くす白い光は無害。

 ただし、無害なのは普通の人間のみ。


「さて、どうなったかな?」


 数十秒ほどして白い光が地面に突き刺さった聖剣へと収束する。

 草木には稲妻によって焼け焦げた跡がある。しかし、白い光による影響は何もない。

 影響があるのは大呪術師であるボーディスのみ。


「これは想像以上に効いたみたいだな」


 光が消えた後のボーディスは、それまでの姿が見る影もないほど全身を焼き焦がしていた。

 体は黒い毛に覆われていたが、炭のように真っ黒な状態へ変化している。全身の至る所から黒い煙が出ており、微動だにしていなかった。


「それでも生きているんだよな」


 意識を集中させればボーディスの力が感じられ、瘴気を寄せ集めて肉体を癒そうとしていた。

 聖剣を回収するとボーディスからゆっくりと離れる。無防備な姿を晒しているが、攻撃される様子はない。治療に集中していて反撃している余裕がない。


「もう一度さっきの攻撃をやったらどうだ?」

「それは無理ですね。もう聖剣の力が尽きています」


 ダルキスの提案をカインは一蹴する。

 聖剣に貯蔵された膨大な魔力を解放した一撃したからこそ可能になった威力だった。現在のカインでは全力を尽くしても倒すには至らない。

 もっとも、カインにとってはそれで問題なかった。


「もう戦いは終わっています」

「なに……?」


 怪訝な顔をするダルキス。

 ボーディスも徐々に意識を取り戻したのか頭部をどうにかカインの方へ向けていた。化け物の姿となったボーディスに人の姿をしていた時ほどの理性はない。今は敵意を向けるべき相手に意識を向けているだけだ。

 自身を追い詰めるほどの攻撃をしたカイン。


「俺を警戒するのはいい。けど、お前が最も警戒するべきは俺じゃない」


 手から白い稲妻を放つ。先ほどまでの威力はないが、カインの放った稲妻に呼応するようにボーディスの周囲に白い稲妻が迸る。

 新たに発生した稲妻はボーディスの体を焼き尽くした光の残滓。ボーディスの体を再び焼き尽くすほどの力はなく、逃げられないよう囲う程度の力しかない。


「俺はずっと不思議だったんだ。勇者に倒せたんだから、俺だって聖剣を手にして準備を万端にしたなら倒すのは不可能じゃない」


 聖剣に残っていた力を解放するだけで致命傷に準ずるダメージを与えることができた。再び回帰して今回以上の力を貯め込めば、解放した聖剣の力を倒すことも不可能ではない。

 実際に戦って実感した。やり直せば倒すことができる。


 ただし、倒してはダメだ。

 カインが受けたクエストは『大呪術師ボーディスを封印せよ』。倒してしまってはクエストをクリアしたことにはならない。


「利用されているお前には同情する。けど、ギムナにはお前が封印されている必要があるんだ」


 エレナの持つ杖が白、緑、黄と3色に変えながら輝く。

 空いた手をボーディスの方へ向けて動かすと囲っていた白い稲妻が鎖のように縛られてボーディスの体を拘束する。

 ボーディスの体を拘束しているのは聖剣の力の残滓。大呪術師は縛られているだけで力を制限され、決して逃れることができない。


「私の目的はヴァーエル家の使命である大呪術師ボーディスの封印をどうにかすること」


 賢者と関りを持ち、魔法に関する様々な知識を得た。

 多くの知識を得たが、どれだけ頑張ったところで大呪術師を封印できるほどの力を得るには時間が足りない。

 そんな状況で現れたのが聖剣を携えたカイン。

 ラポルカからギムナまで移動する間だけだったが、聖剣の力まで研究することができた。


「このまま封印させてもらうわ」


 地面から石碑が飛び出す。

 ボーディスが封印されていた石碑とは違い、形は死者が眠ることとなる棺に似た形をしていた。

 そんな形をした石碑を見て不安を覚えるボーディス。

 そして、その不安が的中する。


「グ、ウゥ……オオオオオ!!!!」


 ボーディスの体が石碑へ吸い込まれる。必死に手の爪を地面に刺して耐えようとするが、そんな足掻きに意味はない。

 吸い寄せられているわけではなく、大呪術師ボーディスという存在が石碑――封印に閉じ込められようとしている。


「ヴァーエル家にあった封印から独自に開発した封印魔法よ。ただ、独自の開発だと限界があって縛り付けておくことができなかったの」


 たとえ一時的な封印に成功したとしても、少しして解放されてしまう。

 数日、早ければ数時間ほどで解放されてしまう封印に意味はない。


「その問題を聖剣が解決してくれたわ」


 大呪術師に対して圧倒的な力を発揮する聖剣の力でボーディスを縛る。さらに封印にも聖剣の力を加えることによって強固になった。

 頑丈な牢と枷。

 エレナとしては永遠に縛り付けられていられるほどの自信があった。


「また、利用するつもりなのか……」


 腰まで吸い込まれたボーディスがエレナを睨み付ける。

 ヴァーエル家の血を継ぐエレナは、ボーディスを封印するよう指示した者と似ており、再び封印しようとしていることもあって姿を見ているだけで憎しみが沸々と込み上げてきた。

 憎しみ。それこそ呪術師の糧となる想い。

 自身の内から生まれる想いによってボーディスが人の姿をしていた頃にあった理性を取り戻す。


 利用するだけ利用して捨てる。

 憎まれても仕方なかった。


「こんな独自の封印を開発した私が何も知らないとでも?」

「……」

「大呪術師ボーディスという存在が本当はどういった存在なのか私は知っている」


 ギムナの開発を任されたヴァーエル家。

 瘴気に汚染された土地を開発する手段として当主が選んだのは呪術師による特別な浄化。強い力を持っていた呪術師ボーディスがいたからこそ成功し、当時の当主は繁栄を維持するため呪術師を封印することにした。


 地下にある封印は偽物で、本物は北にある湖の近くにあった。

 ヴァーエル家に伝わる封印の情報が誤りであるとわかったため、伝承そのものにも誤りがないか調べることとなった。

 結果、判明したのは伝承の始まりから誤りであるという事実だった。


「私は心置きなく封印することができるわ」

「オマエ、ハァ……!!」

「もう眠りなさい」

「……!!」


 断末魔を残しながらボーディスの体が完全に消え、森が静かな状態を取り戻す。

 エレナが手を掲げれば封印の石碑が霞のように消えてしまい、本当に何も残らなくなってしまう。

 焼け焦げた跡など戦闘の余波はあるものの、大呪術師ボーディスが封印された形跡は何もない。



 ――クエストがクリアされました。

   セーブされます。

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