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第41話 聖剣『白嵐』

 ダァァァンッッッ!!

 昇降機近くにあった壁が蹴破られ、大きな音を察知した金色の人型ゴーレムが視線を向ける。体は最初からそちらへ向けていたため、壁の向こう側にいた頃からカインたちの接近は察していた。


「リベンジに来たぜ」

「そんなこと言ったところで理解できるわけないでしょ」

「あ、この世界だと初めて対峙したことになるのか」


 最初に地下へ降り立った場所へと戻って来たカインたち。

 他にある昇降機から脱出することもできたが、昇降機を利用して脱出する為には妨害に現れるゴーレムを倒す必要がある。

 壁の向こう側はゴーレムが移動に利用できるほど人間にとっては広く造られているが、それでも戦闘をするならば手狭になってしまう。だからこそ、この場所を金色ゴーレムとの再選の場所に選んだ。


「勝てるの?」


 シアは不安を隠せずにいる。

 1回目は攻略法を見出せずに諦め、2回目は二人が全力を尽くすことで吹き飛ばすことに成功して隙を衝くことで脱出に成功した。

 カイン一人では倒すことができなかった。そんな相手に3回目は一人で戦う、と言っている。


「ここは通路よりも戦いやすいけど、別の問題が発生するんだよ」


 昇降機前から動かないゴーレムの向こう側には大量のゴーレムが待機している。

 金色ゴーレムがカインのいる方へ近寄る。奥にいるゴーレムが待機したままなのは動かないよう金色ゴーレムから指示が出されているから。邪魔をさせられたくない、などといった人間らしい感情からではなく不確定要素が加わるとゴーレムの計算に狂いが生じてしまう。


「今のところは動き出す様子がないですけど、牽制は頼みます」


 カインも1対1の戦闘しか想定していない。


「それで、どういった対策を用意しているの?」


 エレナの目から見てカインが何か特別な対策をしているようには見えなかった。


「単純に聖剣の力に頼るだけだ」


 1回目も2回目もそれで倒すことができなかった。


「2回目は聖剣の特性を把握していなかったせいで、1回目は何も知らなかっただけだ」

「聖剣の特性?」


 シアが知っている聖剣の特性は、貯蔵された膨大な魔力を所有者へ供給し、投信から白い稲妻を迸らせることができる。

 膨大な魔力というのは、それだけで脅威になる。


「聖剣はあくまでも貯蔵しているだけだ」


 そこに上限は存在するのかもしれないが、少なくとも遺跡の維持に必要なエネルギーを聖剣だけで賄うことができる程度は貯蔵することができる。

 しかし、1回目の世界で聖剣を使用した際にはそれほどの魔力を感じなかった。


 では、どこから魔力を調達しているのか。

 エレナが出した結論は、聖剣の突き刺さっていた場所に遺跡の周辺も含めて魔力を吸い上げる力があるというものだった。

 その推察にはカインも賛成だった。探索中にも聖剣の魔力を使用して戦っていたため消耗してしまったが、自然と回復することはなくカインが魔力を送ることでしか回復させることができなかった。

 強い相手と戦闘を行うタイミングがわかっているなら事前に魔力を貯蔵させておく必要がある。


「でも、そんなことをしている暇なかったじゃない」


 一緒にいたエレナはカインがそういった準備をしていた姿を見ていない。目にしていなかったとしても、それだけ多くの魔力を消耗すれば気付くことができる。


「問題はない。奴を倒すのに十分な魔力は溜まっている」


 振り下ろした聖剣から白い稲妻が迸り、金色ゴーレムの右肘を焼く。

 黒焦げになり穴が開いたようになった腕。カインとしては消し飛ばすつもりでの攻撃だったためゴーレムの耐久力に感嘆した。


 カインと同じように驚くエレナ。ただし驚いた理由は異なる。

 金色ゴーレムが自身の状態を確認するべく顔を右肘へ向ける。


「溜め込んだ魔力を躊躇なく使えるのはいいな」


 飛び込むように接近すると左手に持った聖剣で切れ掛けていたゴーレムの右腕を切断する。

 人間に近付けて造られたゴーレム。あくまでも形を似せただけであるため、たとえ腕を切断されても残された左腕を問題なく動かすことができる。


 右腕を切断されながらも左腕が同時に動く。

 カインの右手にある短剣がゴーレムの手を受け止める。

 ゴーレムの動きが止まっている間に左手の聖剣が右へと振られ、白い稲妻を受けたゴーレムの体を後ろへ吹き飛ばす。

 胸を大きく抉られ、右腕を失ったゴーレムが倒れる。


「やった!」

「……」


 僅かな間の出来事にシアは喜んだが、カインは警戒した様子を変えない。


「そんな茶番はいいから起き上がれ」


 倒れていたゴーレムが体を起こす。

 すると、傷ついたゴーレムの体が液体のように柔らかくなり、切断されて落ちていた腕もドロドロに溶けてスライムのようになると、ゴーレムの右腕があった場所へと移動して融合する。

 数秒の間に液体のようだった体が元の状態へと戻る。切断されたはずの腕も元に戻っており、カインの攻撃は無意味なものとなった。


「まさか、不死身!?」

「それこそまさかだ」


 倒す方法はエレナが見つけてくれている。


「奴もゴーレムであることに変わりない」


 ゴーレムが両手をカインに向けて振り抜く。

 カインも両手の短剣でゴーレムの拳を攻撃する。聖剣で斬ったゴーレムの右腕は切り裂かれ、稲妻によって吹き飛ばされる。

 だが、短剣での攻撃は拳に当たることなく腕を滑るだけとなった。ゴーレムの目的は最初から両腕でのカインの聖剣を持つ左手への攻撃。


 聖剣に力を強く込め白い稲妻を拡散させる。

 ゴーレムの攻撃が弾かれ、カインが後ろへ退く。

 カインも至近距離で激しい稲妻を発生させたため光で視界が霞む。それも数秒ほどで治る。


「そっちも治るのが早すぎるんだよ」


 右腕を修復したゴーレムと再び対峙する。

 聖剣で右腕を斬り、短剣を左手に当てて防御しようとするが、短剣ではゴーレムの手を止めることができない。

 止められたのは一瞬だけ。その間に聖剣を反対側へ振る。


「この短剣も弱いわけじゃないんだけど、こいつが相手だと通用しないな」


 短剣による攻撃を意に介しない。傷を付けることができないため、短剣は無視して聖剣への最短攻撃を優先させる。

 聖剣を振る度に稲妻が迸り、ゴーレムの体が切り裂かれる。


「も、もしかしてこのまま消耗戦になるんでしょうか」


 圧倒的な攻撃力があるものの貯蔵された魔力が使い尽くすまでしかできないカイン、体内にある魔石の魔力だけ肉体を再生させることのできるゴーレム。

 エネルギーを先に使い尽くした方が敗北する。

 後ろにいるシアとエレナには見守ることしかできない。


「そうはならないわ」


 消耗戦にならない確信がエレナにはあった。


「あんな攻撃がいつまでも続けられるはずないもの」


 ゴーレムの体を構成する金属には液体にもなれる特殊な金属が用いられている。金属を自在に変形することで体を再生させている。金属の変形に消費される魔力の量は微々たるもので、数日は同じことを繰り返しても平気でいられた。

 対してカインが1回の攻撃で消費する魔力は、ゴーレムが再生に用いる魔力の量の数倍にあたる。

 両者の消費魔力を比べればどちらが先に力尽きるのか明らかだった。

 それでもエレナは確信が持てなかった。


「どうして、そんなに派手な攻撃をしているのに力尽きないの?」


 エレナの常識に照らし合わせれば既に聖剣の魔力は尽きていてもおかしくない。いくら聖剣と呼ばれる武器だとしても、無茶な攻撃を連続で繰り出していれば力が尽きてしまう。

 だが、一向に衰える様子はなく、エレナの魔力感知でも底を覗くことができない。


「もしかして、これがカインの自信なの?」

「聖剣ってすごい剣なんですね」

「ううん、やっぱり違う」


 話に聞いただけだが、前回はカインとエレナの二人が協力することで退けることにどうにか成功した。今のような力が使えたのなら前回も苦戦することはなかったはずだ。

 力をこれだけ消耗できるのは聖剣に最初から備わった力ではない。カインが口にしていたように何らかの方法で、いつの間にか用意しておいたものだ。


「……いつの間にか?」


 エレナでも認識することができないタイミングで行われた。

 心の中で否定するものの、そんな非常識が通用したからこそ聖剣は非常識なまでの力を発揮することができた。

 上から振り下ろされる拳をカインが聖剣を振り上げて弾く。

 ゴーレムの手が肘まで吹き飛んでしまうが、ゴーレムは自身の状態に構うことなどしない。弾かれると同時に左右の下腹部の形状を変化させて正面へ拳を繰り出す。形を変えての再生が可能なら、人間とは異なる形へと変えることで攻撃に応用することができる。


 振り上げたばかりの聖剣では防御することができない。どれだけ計算しても攻撃をカインに当てることができないと判断したため、自らの肉体の一部を捨てて反撃することにした。

 4本腕の騎士。

 そんな姿へと変わったゴーレムに対してカインは右手に持った短剣を突き出す。

 突き出される短剣を目にするものの脅威ではない、と判断して攻撃を続行させて拳を突き出す。


「単純なのはお前の方だ」


 前回もカインが前に立ち、聖剣による渾身の攻撃の直後に生まれた隙を衝かれて4本となった腕による攻撃を受けて傷を負った。

 その時はエレナの魔法に助けられて距離を取ることに成功したが、カインの目的は最初からエレナの代わりに自分で全てを処理することにあった。自分だけの力で行うことによってタイミングがズレることはないし、意図が漏れてしまうこともない。


 短剣がゴーレムの腕に当たる。短剣の力では傷をつけることも叶わず、滑るように受け流される……はずだった。

 短剣の先端が当たった瞬間、ゴーレムの体を抉り飛ばす。

 左胸に大きな穴が開いたゴーレム。人間ならば致命傷だが、これまでと同様に欠けた部分を埋めるように金属が集まって来る。


 これまでよりも速い。それは危機感の顕れであり、穴の開いた場所の中心には宝石を思わせる物があった。

 液体の金属が集まるよりも速く振られた聖剣が左胸にあった宝石――ゴーレムの核を粉々に破壊する。


「この瞬間に関してはぶっつけ本番だったから上手くいってくれてよかったよ」


 ゴーレムの体を破壊する為に振るわれた聖剣を再び振っていたのではゴーレムの再生に間に合わない。核を破壊する為には聖剣以外の方法で核が露出するほど破壊する必要があった。その為に用いたのが短剣。

 普通に使用したのではゴーレムの体を抉るどころか、傷付けることすら叶わない。だから短剣の力を無理やりにでも強化することにした。


 膨大な魔力を込めた一撃。

 多用すれば短剣を破壊してしまう可能性のあった方法だったが、無事に乗り切ることができた。


「……チッ、脱出するぞ」


 後ろにいるエレナとシアに呼び掛ける。

 主体となっていた金色ゴーレムが破壊されたことで、後ろに控えていたゴーレムたちが一斉に銃弾を発射した。

 脱出するべく呼び掛けたカインだったが、それよりも早くシアを抱えたエレナが駆け付け、魔法で生み出した複数の障壁が銃弾を防ぐ。


「脱出口は?」

「昇降機の中だ」

「中?」

「真っ直ぐ上へ行けばいい」

「そういうこと」


 片手間で発動させた風の刃によって昇降機の扉が切り裂かれ、次いで発生させた衝撃波によって扉を吹き飛ばす。中にある機械の事を考えず破壊していいのなら聖剣がない状態でも問題ない。

 ゴーレムの追撃を置き去りにすると昇降機の内部へ飛び込み、風の力を利用して一気に駆け上がる。


「地下に比べれば地上は平和なもんだ」

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