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第4話 宝箱

 洞窟であっても広い通路。しかし、その通路の行き着く先には壁で行き止まりになっていた。

 ただし、壁だけではない。

 壁の前にポツンと置かれた宝箱。鍵が掛けられており、衝撃を受けても簡単には開かないようになっている。


 宝箱。

 原理は不明ながらダンジョンでは一定時間が経過すると何もなかったはずの場所に箱が出現し、中から装備や魔法道具が得られる場合がある。

 最低でもダンジョン探索において役立つ物が手に入る。


「宝箱は見つけられましたね」


 二度の魔物との戦闘を経験し、今のカインに必要なのは武器だと判断した。

 ダンジョンの奥で武器を手に入れる方法は限られており、カインが見つけた方法は『宝箱から得る』だった。


『あ、ちょっと……』


 宝箱の前で屈んで開けようと調べる。

 正面の中央部分が押せるようになっており、それで鍵が掛けられていた。


「……へ?」


 ボタンを押した直後、カインの視界が後ろへ倒れる。正確には胴で上下に切断されたため、上半身だけが後ろへと倒れていた。

 何が起こったのか理解できなかった。



 ☆ ☆ ☆



「どういうことですか!?」


 回帰した直後、近くにいるブランディアを締め上げたくなるが意味のないことだと気付いて踏み止まる。そもそもブランディアに責任はない。


『落ち着きなさい。状況を聞いただけだから推測でしかないけど、宝箱に仕掛けられた罠で倒れたのよ』

「罠……たしかに宝箱ならそれぐらいあってもおかしくないですね」


 カインが宝箱を前にしたのは初めてだった。荷物持ちとして同行した時に宝箱を目にしたことはあったが、その時は罠を解除する技術を持った者が簡単に開けていたために簡単に思えてしまった。

 罠に倒れたのはカインの不注意でしかない。


『【罠解除】のスキルは持っているの?』

「そんなものありません」


 持っていれば斥候としてどこかのパーティに入れてもらえたはずだ。


『なら諦めるしかないわね』


 罠の中には致死性の物もあるためスキルや技術なしに開けるのは非常に危険で、死んでしまってもおかしくない。


「いいえ、諦めるつもりはありません」

『まさか……』

「覚悟はできています」


 カインの選んだ方法は単純。

 解除に失敗した時は死んでしまうような罠が仕掛けられた宝箱。だが、たとえ失敗したところでカインは最初からやり直すことができる。

 死を恐れずに罠に挑戦することができる。


『本当に挑戦するつもり?』


 再び訪れた宝箱を前にしたカインにブランディアが詰め寄る。

 たしかにカインは何度でもやり直すことができる。しかし、やり直す為には必ず死が前提になっており、体の傷はなかったことにされても回帰しているため精神の傷はなかったことにはされない。


「もちろんです」


 歩みを止めるつもりはカインになかった。


「それに俺がこういう奴だから使徒に選んだんでしょう」


 死による苦痛を受け入れ続けることが前提の使徒。

 ブランディアにとって必要だったのは、苦難を前にしても諦めない者だ。


「ここから脱出する為には武器が必要なんですから必ず開けてあげますよ」



 ☆ ☆ ☆



『それで、感想を聞かせてくれるかしら?』

「……すごく、大変でした」

『けど8回も失敗した甲斐あって開けられたわね』


 再び宝箱を開けるべくチャレンジした。

 衝撃波を回避する為に正面からではなく後ろから手を回して開けようとした。その際、手を後ろへと引いたものの間に合わずに腕の半ばで切断されてしまう。切断されただけでは死に至らなかったものの、血を流し続けたことで数分後には回帰することとなった。

 後ろからでは手を引くのが間に合わない。そこで横から開けてみたところ無事に開けることができた……しかし、そこでカインの意識が消失してしまった。


 何が起こったのか分からないまま死んでしまった。その後、3回も挑戦して判明したのは、宝箱の中には魔物――ミミックが潜んでおり、宝箱を開けた者へ襲い掛かるようになっていた事が判明した。

 カインの実力ではミミックを倒すことができない。それぐらいはカイン自身にも分かっており、ブランディアから諦めるよう勧められたことで宝箱を諦めかけてしまった。


『よく諦めずに手に入れることができたわね』

「この程度で諦める人間が貴女の使徒になれるはずありませんよ」


 強がりを言うカインだったが最後は我武者羅だった。

 勝てないミミックに対してカインが選択したのは、宝箱の中にある財宝を利用して倒すというものだった。


 ミミックは宝箱が開けられた時の衝撃を感知し、宝箱の中から身を乗り出す。そうして宝箱が開けられた状態は、蓋の後ろがミミックにとっては死角になっておりカインの姿を見失ってしまう。

 襲う相手を見失ったミミックは宝箱から出て探す。

 死角から出ればミミックに見つかって瞬殺されてしまう。どうにか隙を衝いて手を伸ばしたカインは、宝箱の中にあった短剣を手にしてミミックに突き刺した。


「タイミングが合わずに回帰した時は本当に挫けかけましたけど、おかげで短剣を手に入れることができました」


 宝箱の中にあった短剣は普通の短剣ではない。宝箱の罠と同様に刺した場所に風の刃を放つことができ、ミミックの体すらも両断することができた。

 ミミックは実体のない影のような体だからこそどんな場所にも潜むことができるが、その能力を持っている影響なのか打たれ弱く、短剣の力を借りたとはいえカインの力でも倒すことができた。


『欲を言えば短剣を手にできた最初に倒せていればよかったけどね』

「そんなことを言ったって仕方ないじゃないですか」


 ミミックも倒せる短剣を手にした。

 だが、いざミミックを斬ろうとした時、恐怖で体が竦んで攻撃することができなかったせいでミミックに殺されてしまった。

 相手は何度も自分を殺した相手。返り討ちにできる力を持った武器を手にしたとしても、いざ対峙すると恐怖に負けてしまった。


『ま、1回だけで奮起したのは褒めてあげる』

「どうも」


 宝箱に仕掛けられた罠は判明した。ミミックを倒す為に必要な武器を手にする方法もある。

 最後に勇気を奮い立たせればいい。


『必要なのは勇気と覚悟よ』

「勇気……」


 敵と戦い、立ち向かう為の覚悟が足りていなかった。冒険者であったというのに情けない話だ、と恥じた。

 これまでのカインは荷物持ちのような雑用ばかりを引き受けており、冒険者として登録はされていたものの自信を持って冒険者だと名乗れる活動をしておらず、今日初めて魔物と対峙したと言ってもいいぐらいだ。

 それでも死から舞い戻ったことで、どうにか恐怖に打ち克つことができた。


『武器は手に入れることができたわ。これで先へ進めることができるわね』


 どの道を進んだところでバジリスクのような魔物と遭遇し、いずれは最初の地点まで戻されることとなる。

 少しでも生存率を上げる為にも武器が必要だった。

 ただ、カインが想像していなかった事態が起きていた。


『自分のステータスを確認してみなさい』


 ブランディアに言われるままステータスを確認する。



==========

【名 前】カイン

【年 齢】15

【レベル】3

【職 業】なし

【体 力】15

【筋 力】10

【速 度】10

【知 力】9

【スキル】月の女神の加護

==========



「レベルが上がっている!?」


 これまでの人生で、どれだけ努力しても変化することのなかったステータスの数値が変化していた。

 レベルが上がったことよりも変化したことに戸惑うほどだ。


『ミミックは倒すと経験値を豊富に得られるわ。レベル1の人間に倒せる魔物じゃないから、私の加護を受けていてもレベルが一気に2つも上昇したのよ』

「なるほど」


 直前までレベル1だったにもかかわらず、現在は3になっていた。

 レベルを上げる為に必要な経験値は同じ経験を積み上げるよりも、様々な事を経験し、難易度の高い事に挑戦した方が多く得られる。

 魔物を相手にした時で言えば、自身よりも強い相手を倒した時の方が通常よりも多く経験値を得ることができる。


「でも、聞いていた話よりもステータスの上がり方がおかしいですよ」


 ステータスは、その人が得意とする能力によって上昇方法が変わる。大剣や斧といった武器を扱うことを得意としている戦士なら【筋力】が、遠距離からの高火力攻撃である魔法を得意としている魔法使いなら【知力】が大きく上昇する。

 ただし、『大きく』と言ってもレベルが上がる度に3~5程度だ。

 カインの場合はレベルが二つ上がっただけで【体力】以外のステータスが8~9も上昇しており、【体力】に至っては14も上昇している。

 この上がり方は、世界の常識と照らし合わせて『異様』と言えた。


『私の使徒になった者は、普通よりも成長が大きいの。この恩恵を十全に受けるなら、使徒になるのはレベルが1であるのが最も望ましいわ』


 その結果がカインのステータスに現れていた。

 だが、カインは純粋に嬉しかった。冒険者であるのにレベルとステータスが全く変化していないことに苦しんできたが、このような状況になって初めて誰かの役に立つことができた。


「とりあえず納得しました。先へ進みましょう」


 現在の状態は理解した。

 この後の行動についても、今のブランディアとは相談していないだけで既に決めてある。



 ☆ ☆ ☆



 ダンジョンの薄暗い通路を進むと、カインを心待ちにしていたかのように魔物が立ち塞がっていた。


 骨人(スケルトン)

 骨だけとなった人間が不可思議な力によって生きていた頃と変わらないほど動き回り、本能のまま襲い掛かる不死者(アンデッド)

 ある程度の経験を積んだ冒険者なら倒すのが難しくない相手。

 もちろんカインにスケルトンを相手にした経験はない。


『どうするの?』


 ブランディアが尋ねる。


「……戦います」


 少しの間だけ迷った末にスケルトンとの戦闘を決意した。

 その瞬間、生気のないスケルトンの顔がカインへ向けられる。魔物には人間を襲わなければならない、という本能がある。そのためカインが垂れ流した闘志から隠れていることに気付かれてしまった。

 戦うつもりではあったが、もう戦闘を避けることはできなくなった。


「今の俺ならできるはずだ……」


 迫るスケルトンを見ながら必死に心を奮い立たせるべく呟く。

 以前のカインなら最弱クラスのスケルトンが相手だったとしても、逃げるのが精一杯で倒すなど無謀と言っていい話だった。

 だが、今は手の中に入手したばかりの短剣がある。腰に構えた短剣の先から風を放出させると、衝撃に体を任せて飛ぶように真っ直ぐ進む。

 短剣に備わった風の能力は攻撃だけでなく、推進力としても利用することができる。

 スケルトンの動きがピタッと止まる。予想外な瞬発力に反応が遅れたためだ。

 すれ違いながらカインが短剣を振るう。短剣が当たったのは骨の一部、けれども短剣の先から風の刃が発生し、スケルトンの体を斬る。

 これが攻撃を目的にした短剣の本来の能力。


「ふぅ」


 溜息を吐きながら後ろで倒れているスケルトンを見る。たった一撃だったが許容量を超えるダメージを受けてしまったせいで骨を動かす為の力がなくなり、不死者でありながら死亡した。


 ステータスを確認する。

 スケルトンを倒すことに成功したものの、残念ながらレベルは上がっていなかった。そもそも魔物を1体倒したぐらいでは上がらず、カインはレベルが上がり難くなっている。

 ミミックを倒した時のような歓喜は簡単に享受できない。


『落ち込んでいるところ申し訳ないけど、奥の方を見た方がいいわよ』

「もちろん気付いていますよ」


 洞窟で反響して奥から音が聞こえてくる。

 近くなったことで露わになった姿は、複数のスケルトン。

 スケルトンは弱い。ただし、こういった多くの人が亡くなった淀んだ場所では生み出されやすいため、ダンジョンにとっては数を多く揃えることができるコストのいい魔物だった。


「いいだろう。武器を手にして、せっかくレベルが上がったんだ。ちょっとばかり俺の実戦訓練に付き合ってもらおうか」

入手武器:翠緑の短剣

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