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第39話 願いの選択

「――これが聖剣を引き抜いた後で起こる事です」


 目の前には地面に突き刺さったままの聖剣。

 まだ聖剣を引き抜く前の段階で、引き抜くとどうなるのかを説明した。


「つまり、聖剣を引き抜くと遺跡にあるいくつもの施設から動力が失われて停止して、聖剣を持ち去った人間を排除するべくここにいる全てのゴーレムが襲い掛かってくる、ということね」


 頷くカインの視線の先には数百体のゴーレムがいる。

 数が多いだけなら対処は可能だが、昇降機前にいる金色のゴーレムだけは使徒や賢者候補の力でも対処が難しい。


「それで?」

「遺跡にはゴーレムを地上まで上げる昇降機がいくつかあった」


 見つけた昇降機の一つで地下から脱出することができた。


「ただ残念な事に問題がいくつかあったんです」


 遺跡からの脱出に数日を要し、負傷したせいでギムナまですぐ移動できるような状態でなかった。

 タイムリミットを過ぎてしまった。


「でも、今度は初回じゃないのだから大丈夫よね」


 既に探索を終えているのだから昇降機の位置は把握しているはず。そんなに時間が必要になるはずない。


「それが……昇降機の位置を俺は知らないんです」

「え?」


 探索時はシアに任せて進んでいたため、現在地を理解していなかった。シアは把握していたはずだが、言葉にされたところで遺跡に詳しくないカインでは理解することができない。


「どういう風に進んだかも俺とあなたで何百体という数のゴーレムを相手にしながらだったので覚えていません」


 どこかにある昇降機を探すには再びシアに頼るしかない。


「だけど、一つだけ確実な出口があります」

「私たちが地下へ下りる時に利用した昇降機ね」


 真っ直ぐ離れた先にある昇降機。

 聖剣を引き抜くと動力が供給されずに停止してしまうが、カインとエレナには空中を移動する方法があるため道さえあれば問題ない。

 問題となるのは、カインの話に出てきた番人のように待ち構えている金色のゴーレムだけ。


「金色のゴーレムに関しては問題ありません。壁の向こう側を探索している間にも何度か遭遇していますが、『現在』はあの時と違って対策を用意してあります」

「……時間の問題は解決できているのね」

「はい」


 間に合わなかったカインは聖剣で自身の体を貫いて自殺した。

 今回は戦闘になれば倒せる用意ができているため時間切れを迎えることはない。


「死んだ時に聖剣を所持していたおかげで記録の狭間に持ち込むことができました」


 カインがロードしなければ無限の時間が存在する記録の狭間。無限の時間を利用すれば対策ぐらい用意できる。


「なら、何が問題だと言うの?」

「エレナさんの問題を優先させれば、ここでの用事を解決させることはできます」

「彼女の方に問題があるの?」


 シアが遺跡の地下を探し求めていた理由。

 それは、地下へ赴いたはずの父親を探すため。


「……いたんだ」

「ああ、あったよ」


 短い言葉だけでシアは察した。


「それでも見つけるべきだと俺は思う」


 時間をかけて探索すればシアなら見つけることはできると思う。

 しかし、そこには大きな問題が存在する。聖剣を引き抜いてしまえば大人しかったゴーレムが一斉に動き出し、カインとエレナの護衛がいなければ探索どころではなくなってしまう。

 地上で冒険者を雇っても無意味だ。地上を巡回しているゴーレムを軽々と討伐できるだけの実力がなければ数百体のゴーレムを相手にすることはできない。

 つまり、シアが地下を探索する為には二人の協力が得られる『現在』でなければならない。


「もちろん俺たち以外の可能性は残されている。あと数日もすれば勇者が来るから戦力的には彼らなら地下の探索も可能だ」


 どのような経緯があったのかカインにもわからないが、シアは勇者と協力して聖剣を入手することに成功している。脱出もしているのだから暴れ出したゴーレムも難なく倒しているはずだ。

 問題は交渉時には聖剣が地下から既にないこと。以前よりも難易度が上がってしまっているが、そこはシアに頑張ってもらうしかない。


「ここで選択です」


 カインがエレナを見据える。


「聖剣を入手すれば大呪術師ボーディス確実に封印してみせます」


 それは確約できる自信があった。

 そう思わせるだけの力が手にした聖剣にはあった。


「だけど、その場合はシアの願いを叶えるのが難しくなります。彼女の願いを無視して今すぐ聖剣を入手して脱出するか、彼女の願いを叶える為に付き合うかは依頼主であるエレナさんが決めてください」

「え……」


 エレナは戸惑った。自分の気持ちだけを考えるのなら聖剣の入手を優先させるべきだ。けど、そうすればシアの願いを切り捨てることになる。

 シアと一緒にいたのはエレナの体感で三日間だけ。

 そんな短い時間だけだというのに、隣にいる少女を切り捨てることができなかった。彼女もまた家族を切実に思う一人だったからだ。


「優しい人ですね」

「……そんなのじゃないわ」

「あたしの事なら気にしないでください。目的は達成されたようなものなんですから、エレナさんが気にする必要はないですよ」

「だってお父さんは……」

「どうなったのかは聞くことができました……亡くなっていることが聞けただけで十分です」


 これまでの事でカインの回帰が本物であることは信用していた。聖剣をすぐに持ち帰る為に嘘を言っている可能性も考えたが、そもそも可能性を提示する必要性すらカインにはないことに気付いた。

 目的を達成したのだから聖剣を抜いて即座に脱出することもできた。

 想定通りの展開にカインが溜息を吐く。


「こうなることはマイルズさんの遺体を見つけた時に分かっていた。だから二人から提案されたんだ」

「私たち?」

「どっちからも?」


 マイルズの遺体を見つけたこと、選択肢を提示することは二人からの提案だった。

 エレナは数日間だけだったが一緒にいたシアを大切に思うようになっており、マイルズの遺体を見つけたシアも目にしてしまった。その後の事もあって見捨てられなくなって回帰した後も地下の探索を優先させるように言った。

 シアは遺体を見つけたことで気持ちの整理がついてしまったせいで、遺体を見つける前になってしまった自分の事まで考える余裕がなくなった。そのため協力してくれたエレナの願いを優先していた。


「あの時と現在では状況が大きく違います。だから現在のあなたたちがどちらを選択するのか提案されたんです」


 ただし、カインとしてはエレナの意思を尊重するつもりでいた。

 だからこそ最も重要な情報を隠していた。


「それなら迷う必要はないわ――マイルズさんを探しにいくわよ」

「エレナさん!!」

「いいんですか?」

「未来の私は遺体を探すよう言ったのでしょう。現在の私の気持ちもそっちに傾きかけていたんだから、未来の私の意思を尊重するだけよ」


 それに――


「また間に合わなかったのなら貴方に頼んで再チャレンジしてもらうだけよ」

「かまいませんよ」

「この選択をするのは何回目かしら?」

「……まだ2回目ですよ」


 同じ問答を既に行い、同じ選択をし、やはり間に合わなかった。

 小声で確認してきたためシアに聞かれることはなかった。聞かれていれば確実に反対されていた。

 だが、やり直したことで得られたものもある。


「私はヴァーエル家の娘よ。親を亡くして困っている子を見捨てて自分の願望を叶えるような恥知らずな真似はしないわ」

「エレナさん……」

「じゃあ抜きますよ」

「え……」


 何の感慨もなく地面に突き刺さっていた聖剣をカインは抜き取った。


「どうして抜き取るのよ。聖剣を抜き取ったら全てのゴーレムが動き出すのよ」


 探索をするなら安全な状況で行った方がいい。ゴーレムが動き出せば危険度は何倍にも跳ね上がる。

 だが、そうしなければならない理由があった。


「突き刺さった状態だと遺跡が供給される魔力を増幅させて遺跡の維持に利用します」


 ゴーレムの製造にも利用されているが、遺跡そのものにまで利用されている。


「その状態だと地下にある重要施設が強固になります。俺たちなら壊せますけど、全てを壊していたら力が足りなくなります」


 時間を掛ければ回復して全ての扉を破壊することができる。

 それをやってしまうと時間切れとなってしまうため慎重にならざるを得ない。


「ただし聖剣を抜いてしまえば動力が供給されなくなって扉の破壊が容易になります」


 その時、1体のゴーレムが部屋へ侵入してカインを捕まえるべく手を伸ばす。

 表情を変えないままサッと短剣サイズに大きさを変えた聖剣を振る。ゴーレムまで明らかに届いていない斬撃。それでも振り終わった頃には上下に両断され、上半身が倒れていた。

 話に聞いていた以上の実力を発揮していることにエレナは気付いた。


 聖剣の力に気付いたのはエレナだけではない。


『これは凄いわね。実力なら勇者の方が上でしょうから彼が手にした方がいいかもしれないけど、今ので貴方の方が相性いいことがわかったわ』


 エレナは聖剣の威力に驚いていた。しかし、ブランディアは聖剣に込められた本当の力にまで気付いていた。


「少し複雑ですね」


 記録の狭間ではブランディアと共に聖剣の扱い方を鍛錬した。

 全く覚えていない彼女からの称賛に戸惑うしかなかった。


「道中にいるゴーレムや障害物は俺とエレナさんで壊す。だからシアは好きなようにマイルズさんを探すといい」

「はい!!」

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