表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/45

第38話 番人のゴーレム

 (トラップ)が何もないことを確認して床から聖剣を引き抜く。

 意外なことに聖剣は簡単に抜けてしまった。もっと試されるようなことがあるのかとばかり思っていただけに引き抜いたカインは拍子抜けしてしまった。


「これが聖剣……」


 正面に掲げて刀身を眺めながら呟く。

 聖剣を手に入れる為に何度もやり直すこととなったが、こうして自身の手に収まったことで安堵していた。


 だが、本当の意味で収まったのはこれからだった。

 長剣と言うべきだった大きさだった聖剣が、カインの愛用している短剣と似たサイズまで小さくなった。

 突然の変化に戸惑うカイン。


「魔法道具の中には使用者によって大きさを変える武器もあるわ」


 武器としての威力よりも武器に備わった魔法効果を重視した魔法道具。扱い易さを求めたことで形を変えることにした。

 聖剣もカインが短剣を得意としていることを察して形状を変化させた。

 軽く振ると以前から使用していたかと錯覚する感覚を覚える。


「いいな、これ」


 おもちゃを与えられた子供のような視線を聖剣へ向ける。

 これまで手にしていた短剣を右手に持ち、聖剣を左手で持つ。まるで左手で持たれることを想定していたかのように自然な動きが可能となった。


「さて、これで私たちの目的は達成されたわね」

「ああ」

「なら、次は彼女の番よ」

「え……」


 シアもカインたちが聖剣を目的にしていることは知っていた。

 目的の物を手にした以上は、遺跡にいる必要がなくなったはずだ。


「こんな場所まで案内してくれたお礼よ。貴女の目的にも付き合ってあげるわ」

「あ、ありがとうございます」


 シアの目的は行方不明となった父親を探すこと。

 これまで地上をどれだけ探しても見つからなかったのだから、地下にいる可能性は大いにある。

 幸いにしてシアの案内が適切だったおかげで時間に余裕はある。


 聖剣が安置されていた場所から出る。


「……どうやらゆっくりしている暇はないようだ」


 騒がしい音が響き渡る。

 正面から地面を滑るゴーレムが接近し、手に装着した回転する鋭い刃をカインへ振り下ろす。

 回転する刃が地面を抉る。しかし、そこにいたはずのカインの姿はどこにもない。


「なにやっているのよ」

「……上!?」


 ゴーレムの攻撃を回避するべく跳躍したカインだったが、その意思に反して必要以上に大きく跳んでしまった。

 考えられる原因は一つだけ。


「聖剣の力か」


 意識すれば聖剣から不可思議な力が流れてくるのが感じられた。

 攻撃した場所にカインがいないことに気付いたゴーレムが視線を自分よりも高い場所にいるカインへと向ける。


「いや、気になるのは俺じゃなくて聖剣の方か」


 ゴーレムの視線は聖剣の方に向けられている。


「ま、聖剣が俺の手元にあるならどっちでも関係ないか」


 落下しながら足の裏に発生させた風の渦を蹴って、ゴーレムの攻撃が届くよりも早く駆け抜け、ゴーレムの体を聖剣で両断する。


「さすがは聖剣。すさまじい威力だな」


 ゴーレムの急所を狙った攻撃ではない。だから動きを止める程度の攻撃のつもりだった。

 ところが実際は両断できてしまった。


『斬る瞬間の意思を反映して斬撃が飛んだようね』


 聖剣についてはブランディアも詳細を知らず、勇者が手にしていた時の光景も現在の彼女は知らない。

 短剣でゴーレムが両断できるほどだとは思いもしなかった。

 ゴーレムが倒れて大きな音が響き渡る。


「すごいじゃない」

「いや、まだだ」


 喜びに満ちた表情で近寄るシアを手で制する。

 あちこちから大きな音がいくつも響き渡る。一つ一つは地上で何度も聞き慣れた音だが、何百も重なっているせいで異質なものに聞こえていた。

 音の発生源を探るのも馬鹿らしくなる数。


「地下にいた全てのゴーレムが聖剣を持ち出した俺を敵と見做したらしいな」

「どうするの!?」

「決まっているでしょう!!」


 全方位から銃弾が発射される。

 聖剣――白嵐を回転するようにしながら振るう。


「おっ」


 振りながら同時に発動させた【風魔法】によって周囲に風の防壁が展開されて銃弾を弾き飛ばす。

 元々持っていた短剣の影響も受けたようだが、以前よりも力が強くなっている。


「風に限れば私よりも強いわね」

「それでも魔法なんて習ったことのない人間の付け焼刃ですよ」


 数百体のゴーレムが放つ無数の銃弾。風の防壁でどうにか耐えられているが、いつまでも耐えられるものではない。


「いつまでもここにいるわけにはいかない」


 カインの言葉にエレナが頷く。


「障壁を解除したら一気に駆け抜けるわよ」


 エレナの視線は正面ではなく、斜め――ゴーレムの製造機械がある方へ向けられていた。

 耐久力が落ちた風の障壁を解除し、タイミングを合わせてコンベアの上を走る。

 直後の攻撃から攻撃の数が減る。


「へ、どうして?」

「そういうことか」


 ゴーレムがカインたちへの攻撃を躊躇している。正確に言うなら機械を傷付けてしまうことを恐れて慎重になっている。


「ちょ……」


 シアはエレナが抱えて走る。案内人であるシアの足は決して遅くないが、ゴーレムの攻撃を掻い潜るには速度が足りていない。

 あまりの速度にゴーレムの銃弾が置き去りにされ、どうしても回避できないと判断した銃弾はカインが短剣で切り払っている。


「よかった。昇降機は壊れていないみたいだ」

「それにゴーレムもいないわね」


 昇降機の近くにゴーレムが待機していないおかげで壊されることはなかった。

 現状、地下を出入りするには昇降機を利用するしかないため、壊れていた時には地下に閉じ込められることとなる。


「どうやら素直に通してくれるわけではないようです」


 昇降機の陰からゴーレムが姿を現す。

 だが、現れたゴーレムはこれまでに遭遇したゴーレムとは異なっていた。通常のゴーレムが人を大きく上回っていたのに対し、現れたゴーレムはカインと変わらないサイズをしている。

 形も人を模した無機質な物から生物のような柔らかさがある。

 そんな中でも異質なのが色だ。


「金色のゴーレム」


 全身が金色に光り輝くゴーレム。

 目に相当する部分が緑色の光を放ち、首だけを動かしてカインを認識する。


「チィッ……!」


 騎士のような出で立ちをしたゴーレムが腕を構えて飛び掛かって来る。

 ゴーレムの拳に向かって聖剣を突き出す。聖剣から溢れる聖なる気を持つ白い魔力が拳を押し返そうとするが、ピクリとも動かない。


「互角……! いや、こっちの方がちょっと負けているな」


 徐々に押され始めているのをカインは感じていた。


「残念だったな。こっちは一人じゃないんだよ」


 カインの後ろからついて来ていたエレナ。


「ひゃっ!」


 抱えていたシアが放り投げられ、カインの頭上を通り越していく。急な事だったがシアなら難なく着地することができる。

 エレナの頭上に火の槍が3本出現する真っ直ぐ飛ぶ火の槍はゴーレムの体を貫通する……はずだった。


「嘘っ……? 霧散した!?」


 走っていたエレナの足が止まる。

 火槍(ファイアランス)は攻撃力の高い【火属性】の性質を保ったまま貫通力を高められた魔法。ゴーレムの体がどれだけ強化されていようともエレナの予想では破壊できていた。もっとも予想の参考にしたのは地上で相手にしていたゴーレムだ。見るからに材質が違うため予想外な強化が施されていてもおかしくない。


 ただし、エレナが気になったのは魔法の消え方だ。ゴーレムの体に当たった瞬間、まるで煙のように消えてしまった。

 弾かれたのではなく――消えた。


「どれだけ魔法耐性の強い金属で造られているのよ」


 エレナを攻撃しようと空いていた手を向けるゴーレム。手の中央部分が開いて中から銃口を向ける。

 同時にエレナが防御に障壁を展開させる。魔法を消す力を持つのは体だけであることに期待し、咄嗟に防御するしか余裕がなかった。

 だからこそエレナに残っていた余裕を全て奪う。


 腕を回して銃口を反対方向へと向ける。

 そこにいたのは昇降機を操作しようとしていたシア。


「どうして動かないの!?」


 上で操作した時と同じようにしていたが、昇降機は彼女の操作を一切受け付けようとしていなかった。

 そもそも動力が供給されていないのだから操作できるはずがない。

 しかし、慌てていたシアはそのことに気付けない。


「エレナさん、プラン変更です!」


 聖剣に魔力を流すと白い電撃が迸る。

 聖剣――白嵐。剣から供給される膨大な魔力を再び聖剣へと送ることで様々な天候を局地的に攻撃として発生させることができる。


「これもダメか」


 聖剣による攻撃も魔法と同様にゴーレムの体に触れた瞬間、霧散してしまった。

 ゴーレムも無力化できることを理解していた。


「だからこそ油断する」


 懐へ飛び込んだカインが横から蹴り上げる。


「っっっ……!」


 蹴ったカインが痛みに顔を歪ませる。

 金属の塊とも言えるゴーレムを蹴って、その程度で済ませられたのは膨大な魔力をそのまま足に纏っていたからだ。それが一種の鎧となってダメージを軽減してくれた。

 そうして蹴ったことで収穫もあった。


「物理攻撃は通用する」


 蹴って傾かせる程度のダメージでしかないが、たしかに効果はあった。

 完全に倒すには力が不足している。

 走りながら昇降機を操作しようとしていたシアを今度はカインが抱えて回収する。その際、速度が落ちたカインに代わってエレナが前に出る。


 エレナの手には炎の球体が生まれていた。

 ボールを投げるように壁へ向かって放つと、壁に当たった瞬間に大きな爆発を起こし、壁に小さな穴を開ける。

 そのまま蹴り破ると壁の向こう側にあった空間が露わになった。


「早く入って!」


 手招きしてカインとシアを呼び寄せる。

 エレナの視線の先では黄金色のゴーレムが迫っていた。


「【穴塞(クローズ)】」


 魔法で開けた穴を塞ぐ為の魔法によって壊された壁が元に戻る。

 塞がれたことで銃弾やゴーレムの駆動音が消えて静寂が訪れる。


「どうやら追って来ないみたいだな」


 ゴーレムの強さを思えば壁を壊せても不思議ではない。

 それでも静かになったことから機械を壊さなかったことと同様に壁も壊さないよう設定されているのかもしれない。

 とりあえず安全は確保された。


「問題はこれからだ」


 抱えていたシアを下ろしながらカインは現在いる場所を確認した。

 壁の向こう側には地上と同じような通路があり、ゴーレムが利用することを想定されているため人間にとっては広い通路の途中だった。

 何度もやり直して苦戦させられたカインは簡単に予想できた。


「地下にも迷路が広がっていたのか……チッ!」


 通路の先からゴーレムが近付いて来ている事に気付いてシアを抱えて反対側へと逃げる。

 製造施設だけでも数百体のゴーレムがいた。地下にどれだけのゴーレムが配備されているのか予想すらできていない状況で戦闘を行うべきではない。避けられる戦闘なら回避するべきである。


「それで、これからどうするの?」


 カインと併走するエレナ。


「下ろして」


 考えようとしたところでシアが下ろすよう要請する。

 カインが気付くよりも早くシアは気付いた。


 逃げた先にも――ゴーレムがいた。

 後ろにもゴーレムがいるなら正面のゴーレムは倒すしかない。聖剣で斬りつけると抵抗なく両断することができた。

 休んでいる暇もない。


「どっちへ行けばいいんだよ」


 倒したゴーレムの向こう側には分かれ道があった。

 これからの方針も決まっていない状況で選択を迫られている。


「こっち」


 そんな状況でシアは迷うことなく進むべき道を選んだ。


「これからどうするのかは単純」


 歩きながら天井を見上げる。


「あなたたちは目的だった聖剣を手に入れたのだから、次の目的地へ向かうべき」


 ギムナへ赴き、聖剣でボーディスを封印する。

 封印の方法は分かっていないが、封印に必要な聖剣を入手することはできた。


「なら、すぐにでも戻るべきだと思う」

「どうやって?」


 地下への移動に利用した昇降機はゴーレムが守っているせいで落ち着いて近付くことができず、シアの操作も受け付けなくなっていた。


「地上にいるゴーレムはいつの間にか補充されている。あの昇降機だけが入口じゃないと思うんだ」


 ゴーレムが地下から再配置される瞬間を目撃した者はいない。それでも地上での配備状況などから、ある程度の位置を絞り込むことはできていた。


「遺跡の構造は頭に入っている。ここからは案内人としてあたしが地上まで連れて行ってあげる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ