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第29話 遺跡の奥へ―前―

 --7日目。



 石造りの壁や天井に囲まれた遺跡の入口でガデウスと合流したカインとエレナの二人。

 ひんやりとした空気が奥から流れてくるような感覚をカインは覚えた。


「遺跡は初めてなんだな」

「ああ」

「ここの1階はいつの間にかゴーレムに襲われていることがあるから気をつけろ」

「それは死ぬほど理解しているから大丈夫だ」


 ガデウスに先導され、カインたちは後ろに続いて遺跡を進んでいく。

 単純に目的地を目指すのではなく、ゴーレムとの戦闘を避けることを優先させるため少々遠回りのルートで向かっている。

 ガデウスが案内したい場所は遺跡の3階になる。


「この遺跡の道が異様に大きいのはゴーレムが動き回ることを想定して造られたからだ。入口付近だとないけど、中心部には誰かが住んでいたような地区が存在しているんだ」

「じゃあ、この遺跡とゴーレムは……」

「遺跡は人間の居住区で、ゴーレムは兵士といったところだろうな」


 もっとも住んでいた人間は何百年も前にいなくなっており、ゴーレムも命令通りに動くだけとなっている。

 ただし、誰かが生き残っている可能性がなくなったわけではない。


「誰もいないんだとしたらゴーレムは誰の命令を受けて動いているんだ。何百年も前に受けた命令に従って動いている可能性はあるけど、単純に同じ動きを繰り返しているだけじゃない」


 カインが前回遭遇したゴーレムもいなかったはずの場所で待ち伏せをしており、ある程度は臨機応変に対応できていた。


「それにゴーレムを壊してもしばらくすると同じ物が巡回するんだ」


 壊したゴーレムの部品を持ち帰っても同じ場所に配置されてしまう。

 新規に製造されているのは間違いない。

 命令と製造。ゴーレムを支配している者が誰にも知られず、どこかにいると考えられていた。


「ま、遺跡の存在が明るみになってから100年以上が経っているのに詳しい事は何一つとしてわかっていないけどな」


 案内されながら遺跡について簡単なレクチャーを受ける。

 上の階へ行く為には遺跡の中心部にある階段を利用するしかないが、中心部へ至るまでに入口とは反対方向まで外縁部に沿うようにして進み、途中で中心部へ進路を変更する。

 遠回りすることになるが、これが最も安全に進む方法である。


「そろそろだな」


 しばらく進んだ所でガデウスが背中の荷物から光を放つことのできる筒状の魔法道具を取り出し、起動させると前方が照らされた。

 合流したガデウスは自身の体よりも大きなリュックを背負っていた。リュックの中には様々な道具が詰め込まれているのか膨らんでいた。


「灯りなら壁が光っているおかげで暗くないぞ」

「この先から壁の光が小さくなっていくんだ」


 元々は居住用の施設として造られていた遺跡。

 普段から人々が使う場所は明るく設定されていたが、外側のように特別な場所へのエネルギー量は抑えられていた。


「光はオレたちの位置を教えることになる。魔物を誘き寄せることになるけど、そもそもゴーレムは光以外の方法でも索敵を行っている」


 先が見えない状況でゴーレムと遭遇すれば敵側にのみ奇襲の権利を与えることになるようなものだ。

 ガデウスが照明を点けるのは、同じ遺跡にいる案内人に自分たちの存在を知らせるためでもある。カインが遭遇したのは大型のゴーレムだったが、人と同等サイズのゴーレムも存在している。そんな相手と誤認させないためだ。

 そして敵の可能性が高い人間を見分けるためでもある。こちらが照明を点けて存在を露わにしているにもかかわらず、相手側が存在を示さないのなら奇襲しようとしていると思われても仕方ない。


「ここは遺跡だ。ダンジョンの経験はあるのかもしれないけど、ダンジョンとは別物だと思った方がいい」


 ダンジョンは冒険者ギルドによって管理され、予定の日までに戻らない場合には救援依頼が出されるほどだ。ダンジョン内での冒険者同士の戦闘は禁止されており、違法とされる行為に抵触した者には厳罰が処される。


 対して遺跡では管理が行き届いていない。遺跡を管理して守る者はいても、中に入った冒険者を助けるルールは存在していない。

 たとえ冒険者から奇襲されたとしても何事もなかったように処理されるだけだ。


「もちろんどうするのかは案内人や冒険者の好みだ。オレの案内で進んでいる内はオレのやり方に従ってもらうぜ」

「それは当然だ」


 カインの目的は案内してもらうことだ。

 雑用としてサマリアルにあるダンジョンでマッピングをしたこともあるため、大まかに地図を描くことはできる。


 カインたちはかなり速い足並みで遺跡を進んでいる。通路は見通しがよく、魔物の気配もないからだ。

 ガデウスが言ったように光の強さが抑えられ、次の灯りまでに暗闇が存在するようになる。

 暗闇の向こう側を常に確認し、何度も振り返っては背後を確認する。前回は敵がいないはずの後ろへ引き返したにもかかわらず待ち構えられていたため、通り過ぎた場所も安全とは言えない。

 その余裕のないカインの様子を見て、エレナが優しく話す。


「カイン。そんなに緊張していると持たないわよ」

「そっちは覚えていないから大丈夫なんでしょうけど、こっちは少し前に頭を潰されたばかりなんですよ」


 油断が招いた事態だったが、潰された時の衝撃は今でも覚えている。

 恐怖による緊張は、元となる出来事を克服することでしか解消されない。


「……うん?」

「どうした?」


 エレナの足が止まり、先頭を歩いていたガデウスが振り向く。


「前から何か来るわ」


 エレナの耳が捉えたのは唸るような音。

 その音はガデウスにも聞こえた。


「先に気付いたのか。すごいな」

「ええ」


 魔法使いであるエレナは魔法によって身体能力を強化することも可能で、聴覚を強化することで遠くの音を拾うことも可能だ。

 二人が気付いたことでカインも警戒する。


 前方の闇の中から姿を現したのは蜘蛛のような形をしたゴーレム。金属の体を車輪がついた6本の脚で支え、銃口になっている2本の脚を正面へ向けている。一直線の道では自然と銃口はカインたちへ向けられていた。


「チッ、広域巡回用のゴーレムに見つかったか」

「広域巡回用?」

「そうだ。人型のゴーレムは決められた範囲で命令に従って行動するだけだ」


 事前に地図を覚えておき、行動範囲を把握しておけば遭遇することはない。ガデウスも事前にルートを覚えておいて遭遇しないようにしていた。

 しかし、広域巡回用のゴーレムはそういうわけにはいかない。


「こいつらは遺跡を縦横無尽に動き回る。法則はあるみたいだけど、巡回中に侵入者を見つけると……」


 銃口の先端が開き、照準が定められる。


「侵入者を排除しようとする」

「言われなくてもわかる!」


 短剣を持った手で円を描くように何度も振る。

 円を描いた回数の分だけ風の渦が前方に発生しゴーレムの脚から発射された何十発という数の弾丸を巻き上げて行く。


「ここで戦うのは不利よ。どこか広い場所は近くにないの!?」


 蜘蛛型ゴーレムも大きい。

 遺跡の通路が広かったとしても正面から衝突することになる。


「2つ先の通路を左に曲がる。長い通路の先に小部屋がある」


 ガデウスが全力で走る。重たい荷物を背負っているはずだが、普段から遺跡内を走り慣れていることもあって目的の場所まで二人を先導することに成功する。

 辿り着いたのは小部屋と言っても広い空間。通路よりも広くなったことで回り込むことも可能となった。


 体力が限界に達していたガデウスが部屋の奥で倒れる。


「【石弾(ストーンバレット)】」


 エレナの手に魔法で生成された石の弾丸が生まれ、蜘蛛型ゴーレムへと飛ぶ。

 魔法で貫通力を上げているが堅いゴーレムの体を貫くには至らない。それでもエレナは1発だけでなく、何十発と撃って雨のように降らせる。

 石の弾丸によってゴーレムの視界が塞がれる。


 体に当たっても歩みを止めないゴーレムが正面からエレナへ迫る。


「上だ!」


 頭上から聞こえてきた声にゴーレムが頭を上へ向ける。

 しかし、上へ向けた時には跳び上がったカインが既に頭上近くまで落ちてきたところで迎撃が間に合わない。


 視界を塞ぐ攻撃によってエレナにばかり照準が向いてしまった。

 他のゴーレムよりも柔軟性のある命令を与えられていたとしても、使い古された命令であるため動きが単調になる。


「なっ……上は硬いからダメだ!」


 ガデウスが叫ぶ。

 蜘蛛型ゴーレムは機動力があり、6本の脚で自由に方向を変えられるため前後左右の攻撃に強い。

 上下からの攻撃への対応は弱い。だからこそ防御力が高く造られている。

 これまでは逃げられない状況なら最も脆い脚の関節を破壊して動けなくさせたところでダメージを蓄積させて倒していた。


「そんな面倒なことをするつもりはない!」


 拳を握りしめ、蜘蛛型ゴーレムの背に叩き付ける。


 バゴッ!!

 脚を踏み締めて一瞬は耐えたゴーレムだったが、上からの衝撃に耐えきれず脆い関節が破壊され脚と胴体がバラバラになって倒れる。


 どうにか立ち上がろうとするゴーレムだったが体は動かない。

 頭だけを背の上にいるカインへ向ける。


「レベルアップして得たステータスを全て【力】に割り振った甲斐があったよ」


 短剣ではゴーレムを倒せないと痛感させられたカイン。

 回帰した後で得た保有ポイントの全てを【筋力】に注ぎ込んで強くしていた。


 斬る、よりも叩く。

 堅いゴーレムを相手にするならこちらの方が正解だと判断した。


「あ……そういえば壊しちゃったけど、ゴーレムは遺跡と違って壊しても問題ないんだよな」

「あ、ああ。むしろ学者連中からは破壊するよう頼まれている」


 ただし、破壊が容易でないうえに、しばらくすると新造されているため依頼は進んでいない。


「先へ進むぞ。幸いにして今の場所がわからなくなったわけじゃないからな」

「これはいいのか?」


 カインの視線の先にあるのはゴーレムの残骸。

 精錬された金属であるため持ち帰れば高値で買い取ってもらうことができる。


「こんなに重い物を持って帰ることができるのか? いや、殴ってゴーレムを倒したお前ならできるんだろうけど、持ったまま先へ進むことはできないぞ」


 普通は街まで持ち帰ることもできない。

 だが、遺跡内にいるゴーレムは残骸を運ぶことができるため冒険者が放置した残骸は新たに造られるゴーレムの素材となる。

 持ち帰るべきだが容易ではない。

 だから冒険者ギルドや案内人協会では推奨されていない。


「遠回りしたから余計に歩くことになる。食糧は余分にあるから安全第一で行くぞ」


 それだけ時間も掛かってしまう。


「ああ、いいぞ」


 カインに時間を気にした様子はない。

 今回は遺跡の様子を知る為に消費することを決めていた。

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