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第27話 遺跡のゴーレム

「さすがに遺跡で賑わっているだけあって随分と遺跡に人が集まっていますね」


 遺跡へ入る門の前で並んでいる冒険者を眺めつつ、カインが呟く。

 そんなカインの言葉にエレナも頷きながら視線を巡らせる。


「なるほど。案内人協会で待っているのも一つの手だけど、遺跡へ入る人は必ず門からでないといけないのね」


 遺跡の入口には門が設置されており、誰が入場したのか記録がつけられる。

 入口は遺跡の南側にある大きな門のみ。これまでに多くの者が他の出入口を探したものの、結局は見つけることができなかった。

 遺跡を出入りする者は、たった一つの狭い入口を利用するしかなかった。

 冒険者はそこで足止めを受け、自分の順番がくるまで時間ができてしまう。


「それで、どうするの?」

「今日中に行ける所まで深く行ってみるつもりです。どれだけ時間が掛かるのか分からないので、ここで余計な時間を使うわけにはいきません」


 入口である門の前には行列ができている。

 最後尾に並んで自分たちの番が訪れるのを素直に待っている頃には長い時が過ぎてしまう。


「そういうわけでお願いします」

「私?」


 そこでカインはエレナに頼ることとした。

 これも回帰前に教えられていたことである。現在のエレナは忘れてしまっていたが、以前の彼女は自分という存在を把握していた。

 そして現在のエレナもカインに言われて思い出した。


「ちょっといいかしら?」

「何か用か? 遺跡の中へ入るのなら行列の最後尾に並べ」


 無愛想に告げるギルド職員。40代後半の引退した元冒険者だが、秩序を守らない冒険者を鎮圧できるだけの実力を持っている。以前に並んでいられず暴れた冒険者が鎮圧されるところを見たことのある冒険者が行列に並んでいるため、無用な騒ぎも起きていない。

 そんな行列を無視して先頭へ割り込めば彼らの視線を集めることになる。


「これを見てほしい」


 男に渡したのは、賢者候補であることを示すカード。


「……チッ、分かったよ。そんな物を見せられちゃどうしようもない」

「すまない……いや、ありがとう」


 賢者は魔法の権威だけでなく、様々な学問に精通している。

 知的探求の為なら冒険者よりも活動が優先されてしまう。今回のように行列を無視して優先させてもらうことも可能だった。


「ただし、今回だけにしてくれ。そうそう簡単にこういう物を使われてしまうと困るんだ。後ろにいる連中に説明するのはおれなんだぞ」

「すまないが、こちらにも色々と事情があるんだ。次からは並んで順番を待つから許してほしい」


 受付がチラッと見ただけのエレナとカインの名前を手帳に記す。

 遺跡においては、あくまでも入場者の記録だけでしかない。


「もう入ってもいいぞ」

「感謝するわ」


 行列は前に入った者との間に十分な時間を置く為のもの。遺跡には歴史的価値があるため冒険者が鉢合わせてトラブルに発展し、遺跡を破壊してしまわないよう気をつける必要があった。

 二人が割り込んだ時には十分な時間が置かれていた。


「おう、健闘を祈るよ」


 遺跡の1階部分は台座のようになっている。ただし、その大きさは都市がそのまま入ってしまうほど大きいため、1階というよりは丘と呼んだ方が正しいように思えてしまう。


「これは随分と広いわね」


 狭い、と言われていた遺跡の内部だったが天井までは10メートルあり、道幅も5メートル以上ある。

 地下にいる大型の魔物が通るには狭いが、人間が狭さを感じるほどではない。

 ただし、壁が石で造られていることから圧迫感を覚えてしまい、実際の大きさよりも狭く感じてしまう。


「それに壁自体が明かりを放っているのか」

「ダンジョンもそうでしたけど、壁が発光するなんて不思議ですよね」


 薄らとした明かりを放っている壁に触れる。


「中に含まれている魔力が光を生み出しているらしいわ。遺跡の壁もダンジョンと同じなら外へ持ち出した瞬間に効力を失うでしょうね」


 魔力が理由であることまでは賢者の手によって判明している。しかし、その魔力がどのように供給されており、どのように生み出されているのか明らかにされることはなかった。

 壁の一部を削って外へ持ち出そうとした者もいたが、どのような手段を用いようとも外へ出たところで魔力を失ってしまうことからダンジョンという環境そのものが影響していることまでは間違いなかった。


「さて、遺跡について思慮するのはここまででいいでしょう」


 カインはポケットから一枚の紙を取り出す。


「遺跡調査もいいですけど、俺たちの目的はあくまでも最下層にあるという聖剣です」


 取り出した紙には、これまでの経路が手書きされていた。

 遺跡の存在が明らかになってから100年以上の時間が経過している。だが、地図が市場に出回ることはなかった。


「案内人が必要な理由が分かるわね。地図がないと迷うけど、壁が統一されているせいで感覚が狂いやすい。マッピングも正確にはできないわね」

「協会で作ってくれるとありがたいんですけど……」

「無理ね。彼らにとって貴重な利権よ。地図を売って多少の利益は出せるでしょうけど、自分たちの仕事を手放すような真似はしないわ」


 案内人協会は正確な地図を作成済みである。

 しかし、地図が市場に出回れば案内人の必要性がなくなるため、協会に所属する人間以外では閲覧する機会すらなかった。


「前衛は俺が務めます。エレナさんは後ろから魔法で援護をお願いします」

「わかったわ」


 遠くに何かの気配を感じて足を止める。

 少しして胸の内まで響く重たい踏みしめる音が耳に届く。


「ゴーレム!?」


 現れたのは煉瓦で造られた人の形をした人形。ただし、その人形は人間よりも大きいため5メートルも高さがあり、手も人間の頭を片手で軽々と掴めてしまうぐらいに大きい。


 人形(ゴーレム)

 人の代わりになって働いてくれる魔物。体内にある魔石が動力源になっており、誰かの制御下にある時は魔法使いの戦力となる。

 しかし、この場に魔法使いはいないため簡単な命令だけを与えられて遺跡内を巡回していた。


「逃げましょう」


 人間が通るには広い通路。

 それでもゴーレムが通ると狭く感じ、二人ともゴーレムと遺跡内で正面から戦うつもりはなかった。

 後ろを向いて元来た道を走る。


「なん、で……」


 角を曲がった所で足が止まってしまう。

 見えなかった曲がり角の先にある十字路でゴーレムが鎮座していた。後ろから迫るゴーレムと同じ形をしており、カインたちから見えたようにゴーレムも二人を発見して狙いを定めた。

 通路を塞ぐように立ち塞がる。


「……っ、突破します!」

「突破って言ってもゴーレムは右側に寄っているわよ」


 ゴーレムがいるのは入口へと向かう道。直進や左へ進むには問題ないが、ゴーレムとの戦闘を避けて右へ進むことはできない。

 進路を変えれば現在地が分からなくなり、迷う可能性が高い。


「地図もない、詳しい人間もいない場所で迷うわけにはいきません」


 ゴーレムを倒すしかない。

 短剣の力で刃の先から風を生み出して推進力にすると一気にゴーレムの懐まで飛び込む。


 動きが鈍い。

 それがゴーレムの弱点だ。


「なっ!?」


 しかし、カインの動きに合わせるようにしてゴーレムが手を振り下ろす。

 煉瓦の塊とは思えない速度。

 咄嗟に短剣を掲げてゴーレムの手を弾いて防御しようとする。だが、刃と手が触れた瞬間に短剣が押し負け、後ろへと飛ばされてしまう。


「……っ!」


 短剣を手にしていた腕を押さえる。

 魔法道具である短剣は無事だが、それを握る手まで無事とはいかなかったため手が痺れて落としそうになる。昔なら今の攻防だけで腕を壊してしまっていたところだが、カインも強くなったことで耐えられていた。


「まだ10秒も時間を稼げていないぞ」


 両腕を左右に大きく広げた体勢でゴーレムが突っ込んでくる。

 後ろにはエレンがいるため逃げ場を塞いだ格好となる。


「ゴーレムならダンジョンにもいたけど壁にしかなっていなかったけど、ここのは随分と考えて動いているんだな」


 短剣を収め、突撃してくるゴーレムへとカインも突っ込む。

 両者が正面から激突し、カインとゴーレムの動きが同時に止まる。


「突っ込みたいなら俺を撥ね飛ばしてでも進めばいいさ」


 ゴーレムの足へ抱き着くように突っ込んだカイン。そのまま力を込めて踏ん張るとゴーレムの移動を止めていた。

 止めるのに全力を注いでいるため攻撃はできない。


「生憎と俺は一人で戦っているわけじゃないんだよ」

「――紅貫通(クリムゾン・ペネトレイト)


 灼熱の槍がゴーレムの胸を抉り、大きな穴を開ける。

 遺跡のゴーレムは異なっていたが、ゴーレムには動きが遅くて体が頑丈だという特徴がある。

 そのためカインの短剣では傷付けることが叶わず、魔法でも生半可な攻撃力では通用しない。ただし威力を上げすぎてしまうと遺跡を傷付けてしまう可能性があるため、周囲に影響を及ぼさないよう範囲を絞った攻撃を行った。

 胸に大きな穴を開けたゴーレムが後ろへ倒れる。


「助かりました」

「これぐらいは余裕よ」


 調整に魔力を集中させていたが、賢者候補になるほどであるため時間さえ与えてもらうことができれば余裕だ。


「先へ進みましょう」


 倒れたことでゴーレムの横を通ることができるようになった。

 最初に遭遇した方のゴーレムはかなり後ろの方にいるため気にする必要がない。倒れたことでゴーレムが迫るのを防いでくれるのに役立ってくれるようになった。

 これまでと同様にカインが先に進み、エレナから後ろからついてくる。


「カイン!!」


 後ろにいたからこそエレナが先に気付くことができ、声を上げることができた。

 だが、その時には遅い。既にカインは倒れたゴーレムの横におり、倒れた状態から振り上げられた腕の直撃を受けてしまった。


「そこまでにしなさい」


 天井から落とされた圧縮した風がゴーレムの両肩と左右の腰を砕く。胴体だけとなったため、どのようにしても動くことはできなくなった。


「無事!? ……じゃないようね」


 慌ててカインへ駆け寄るエレナ。

 抱き起こしたカインは右腕が反対側へ折れ曲がっており、頭からは血が流れ出ている。


「油断した……次はうまくやります」


 治療すれば回復できる。

 だが、その時間がもったいないカインは決断した。


「案内人が必要な理由がわかったわね」

「俺達には同じようにしか見えないんですけどね」


 遺跡の壁には案内人にしか判別できない特徴があり、彼らは自身の経験に基づいて迷わずに進むことができる。

 そうした技能は公表されておらず、案内人特有の技能となっていた。

 ゴーレムに遭遇した際にも別の道を選んでいれば負傷することもなかった。


「最初の方針通りに勇者を案内した案内人を探すことに集中します」

「その方がいいでしょうね。私たちだけでも時間を掛ければ探索は進められるでしょうけど、そんなことをしている時間はないわ」


 大呪術師ボーディスの復活に間に合わせなければならない。

 何度もやり直すことで疑似的に時間を無限に確保することはできるが、それは最後の手段だと言っていい。


「後は任せるわ。私に何かできることはあるかしら?」

「なら、サクッと終わらせてもらえますか」。

「女性にこんなことをやらせないよう次からは気をつけなさい」


 エレナが杖を掲げ、先端から飛び出した火がカインの頭を焼き尽くす。

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