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第24話 聖剣の手掛かり

 ――2日目。


 カインとエレナは冒険者ギルドへと向かっていた。


「冒険者ギルドで何をするのかしら?」


 隣を歩きながらカインへ尋ねるエレナ。


「……」


 その言葉を聞きながら頭を抱えそうになってしまった。


「なによ」

「いや、どうにも慣れなくて……」


 以前のエレナは年下のカインに対しても敬語を用いていた。そうしていたのは彼女の方がカインに依頼をしている立場だったからで、自らよりも上位の存在である使徒であると知っていたからだ。

 賢者候補よりも使徒の方が貴重価値は高い。

 今も使徒であると紹介された。だが、それはカインの自己申告でしかなく、まだ完全に信用できていなかった。


「信用してくれても……いいんじゃないでしょうか」


 以前の調子で言いそうになるのを留まる。


「私は自分のスキルを信用している。だからといって使徒がこんな場所に都合よくいてくれる事実を信用しているわけじゃない」


 使徒は希少と言っていい。現在、使徒だと判明しているのは数える程度しかおらず、カインのように知られていない者が複数いたとしても簡単に遭遇できるはずがない。

 それにエレナの視点で言えば、何もしていないのに向こうから接触してきたようなもの。


『彼女も目的の人物を探す為に色々としていたんでしょうけど、それでも数日短縮されただけで以前ほどの苦労はしていないはずよ』


 ブランディアが言うように、急だったせいで警戒心を強めてしまっている。

 こればかりはカインにもどうしようもない。だが、時間を掛けていられるほどの余裕があるわけでもない。


「まずは俺の目的に付き合ってほしいんです」


 ダラダラと話をしている内に冒険者ギルドへと到着した。


「いらっしゃいませ」


 いつもカインの対応をしてくれる受付嬢が笑顔で迎える。


「あら……」


 普段なら一人、もしくは先輩の冒険者パーティに同行して訪れるはずのカインの隣に見覚えのない女性がいるのを見て受付嬢の頬が緩む。

 カインよりも少しだけ年上の冒険者。女性冒険者が珍しくなかったとしても、単独で活動するのは珍しいため、単独で活動する二人が共に行動していることで妙な勘繰りをしてしまう。


 だが、そういった感情を表に出さないのがプロ。心情を悟らせないよう笑顔での対応を続ける。


「パーティを組んだんですか?」

「正式にパーティを組んだわけではないですけど、事情があって一緒に行動することになりました」

「必要があって一緒に行動するのは冒険者にとって珍しくないですからね」


 エレナのような魔法使いが緊急で戦士職の者を求めて一緒に同行するのはおかしなことではない。

 冒険者として活動できるよう動き易さも重視しているが、エレナの姿は魔法使いだと簡単に分かるようになっている。


「昨日はいらしていませんでしたけど、今日はどうしました?」

「昨日……」


 ダンジョンからサマリアルへ帰還した時、それまでの疲労から思わず倒れるように宿で眠ってしまった。

 だが、受付嬢が言っている『昨日』とはダンジョンからパーティで帰還しなかったことを言っている。


「それがダンジョンの中でパーティとは逸れてしまいまして、どうにか一人でも帰還することができたので報告だけ済ませにきました」

「……そうでしたか」


 ダンジョンで何が起こったのか詳しいことは聞かれなかった。どのような事がダンジョン内で起ころうとも危険を承知で向かった冒険者の自己責任である。

 事前に彼女が知っているカインの実力を考慮すれば窮地に陥ったカインを助けなかったのは明白。たった数日で覆せるような実力差ではなかった。


「彼らはまだ来ていないんですか?」

「そうですね。ギルドへ依頼の報告に来ていないです」


 彼らがギルドに訪れるのは、この日の昼過ぎ。

 これからカインの死亡報告をしたところで、それよりも前の段階で生還の報告がされているのだから受理すらされることはない。

 ただ死亡報告に訪れた彼らが恥を搔くだけに終わる。


「今回の依頼では臨時で同行しただけなので、カインさんには失敗した時にもペナルティは発生しませんので安心してください」


 話をしながらもテキパキと手続きを済ませていく。


「ところで、一つ聞いてもいいですか?」

「なんですか?」

「こっちの方へ勇者が向かっている、という話を聞いたんですけど本当ですか?」

「……どこで聞いたんですか」

「ダンジョンの出張所ですよ」


 以前に比べて余裕のあったカイン。疲れていたとしても世間話……情報収集をするぐらいの余裕はあった。

 ダンジョンで異常が発生した。詳しい原因を調査しなければならないが、相手がケルベロスとなれば対処できる人間は限られる。そんな相手でも勇者なら圧倒することが可能。

 早い段階で勇者と接触することに成功すればダンジョン内で行方不明になったとしても見つけてもらうことができるかもしれない。


「ミエットさん……」


 勇者に関する情報は極秘事項だった。国の方針に関係ない行動で、勇者が出て行かなければならない事態が発生したわけではない。

 完全に勇者の趣味によるものだった。


「実は……ラポルカという町で聖剣を見つけた、という噂が10日ほど前に出回ったんです。それを耳にした勇者が行動を起こしたようです」

「随分と行動が早いですね」


 サマリアルから勇者のいた王都まで一週間近く移動に時間を要する。聖剣に関する情報を耳にして、すぐさま行動を起こさなければサマリアルまでは伝わらない。


「勇者を見つけた時は丁重に迎えるよう命令されています」


 勇者は強い。だからと言って決して死なないわけではない。

 人類にとって切り札とも言える存在であるからこそ、最低限の安全は保障しなければならない。


「ミエットさんが言ってしまったようなのでカインさんには教えてしまいましたが、勇者が来ていることはあまり口外しないようにお願いします」

「もちろんですよ」


 カインの目的は達成された。

 今日のところは報告と世間話だけだ。


「報告がしたかったの?」

「それでもいいんですけど、俺の目的は話をすることです」


 勇者と聖剣の情報を得ることができた。


「ほら」



 --メインクエストが活性化しました。

   メインクエスト②聖剣『白嵐』を入手せよ

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