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ブックシェルフ

テイマーだったけどモンスターと戦うのしんどいので冒険者はやめます

異世界ファンタジーでパーティ追放系っぽい導入だけどざまぁ系ではないです


テイマー。それは野生のモンスターを捕まえて訓練して操るジョブである。当然ながら、モンスターをテイムするためには戦う必要があるし、テイムした後もちゃんと世話をしないと下克上されたり死んでしまったりする。まあつまり、常に手間がかかるのである。手当たり次第に何匹でもテイムすればいいってならないのはそういうこと。まあちょっと偵察するくらいなら短期契約で一時的に増やすのもアリかもだが。

そんな感じで、私はパーティを組んでいた人たちに解雇宣言されて今に至るわけである。いやまあ…みんなほぼ初心者だったとはいえ、一年組めてたのが奇跡だったんだよね、正直。私、口下手人見知りの陰キャだし。攻撃も回復も一通りできるけど専門職には及ばない器用貧乏だし。テイムしたモンスター分余計にコストがかかるし。

まあ強がり抜きでここらが潮時だったのかな感はある。テイマーはモンスターを従えるのでわりとモンスターに仲間意識を持ちやすい。だから街を襲ってたとかなら仕方ないと思えてるけども、退治って少し抵抗がある。なんなら悪さをした人間を退治するとかの方が気が楽。可愛くないし…。クソみたいな人間ってよく見るし…。パーティはそこまでクソでもなかったけど、解雇されるのやだって抵抗するほど好きってわけでもない。

まあそんなわけだから次の身の振り方を考えなければならないのだ。といっても、新しいパーティに入るってのはもういいかな…なのでソロ活動だろうか。いやそもそも冒険者が向いてなかったのかな、と思って、態々大きめの街で解雇してくれたのは悪いけど、田舎の故郷に帰ることにした。


一人旅といってもテイムしたモンスターたちもいるし字面ほど危険ではない。多少時間はかかったが特に大きな怪我をしたりとかもなく故郷に帰りついた。

「あんれまあ、トレイアさんとこのー。帰ってきただねー」

「どうも…」

私の故郷はテイマーの多い半農村である。酪農もやってるし、農具の多い鍛冶屋もいる。まあ大体自給自足で賄っている村だ。

「あら帰ってきたの、セオル」

「ただいま、ママ」

帰ってきた経緯をママに話すと、テイムしたモンスターにもよるところではあるけど、村内にテイマーの需要は余っていないらしい。多少ならまあ、冒険者やってた時の貯えもあるしニートできないこともないが、何かしら考えないとならない。実は出戻りテイマーが大半なので、用心棒は一番需要がないのだ。


夜になって帰ってきたパパが言うには、

「だったらクラーレおじさんのやってたダンジョンの管理人はどうだ?」

村の近くにある迷宮、その奥には古代の遺物やらトラップやらが残っていて、不用意に入ると危ない。だから荒らされたり迷い込んだりする人間がいないようにおじさんが管理人をしていたらしい。なるほど?



翌日早速おじさんを訪ねてダンジョン管理人業について聞いた。

「んまー、セオルちゃんならいいかねぇ。あっこのダンジョンの最深部になぁ、出しちゃなんねもんがあんだわ。見りゃあお前もわかる。んだば、余所者はわからんばぁ、持ってこうとするもんで、こうよ」

おじさんはそう言って膝下の無くなった左足を叩いた。

「あん余所者ばぁ、ザグゥが食ってくれたからえがったがね。義足を付けるにしても俺一人じゃあ、同じようなことがあったら止めきれんかもしれんだろ」

「成程。つまり、盗掘者は命の保証をしなくていいんだね」

「んだ。話して聞かんやつの命より、村の平和の方が大事だがね」

道理である。


モンスターを連れて、おじさんの言う"見りゃわかる"の正体を知るために迷宮に潜った。おじさんの配置した守りなのか、野生のものなのか、モンスターが多数住み着いている様子だ。テイムスキルを応用して、戦わずに奥に進んでいく。そう深くもなく、およそ五階層。内、一番上と一番下は実質一部屋しかなかった。最下層にあったのは、

「…いやこれ普通に魔王的な何かでは?」

詳しいことはわからない。何か旧い遺跡とかによくある古代の機械らしきものがごちゃごちゃと置かれている中央、水槽のように液体に満たされた中に生物質のものが浮かんでいる。多分人間ではないが、モンスターとも言い切れない。不思議な同朋感覚がある。総合的に言って。ヤバい。ヤバいんだけど…。

「叩き割りたい気もするんだよねぇ」

おじさんは出しちゃなんねと言っていたが、私も迷宮から出すのはよろしくなさそうだなとは思うのだが、この円柱からは出すべきなんじゃないかと思う。いやさ、中身が何か魅了的なので操ってる可能性もあるけど。でも、こっから出したら長持ちしない気もする。根拠はないけど。

「ベディはどう思う?」

兄弟のように育った相棒に聞くと、お前の好きなようにしろと返ってきた。自己責任ってこと?いやまあ、独り立ちした大人なんだからそれはそうなんだけど。というわけで。

「叩き割ろう。ガウィー、バフよろしく!」

杖の先端に強化をかけ、思いっきり振り抜く。ガシャンッと騒々しい音を立てて円柱が割れた。

中を満たしていた液体ごと中身が床に零れ落ちる。やはり何か、生物…の一部、のように見える。

「マーくん、わかる?」

『ううん…流石の私も、断言は難しいけれど…多分何らかの高い知能を持った生物の脳…じゃない?それこそ、君がさっき言ってた魔王の頭脳体だったりしてね。あはは』

「魔王の頭脳体、って…」

洒落にならないにもほどがある。というか、魔王は伝説によると何十何百ものパーツに分けて封印されているはずなわけで…。…封印、されてた?

『如何にも、吾は魔王グィネヴァルトである。吾を再び目覚めさせたこの魔力…汝は我が半身、アルトリウスではないか?』

「人違いですが…」

マーくんと同じく、精神感応による念話。視線を向け直せば、何やら少し形が変化していた。具体的に言うと、何か灰色の毛糸玉を気持ち悪くしたようなものだったのが、白い粘液…スライム状のものに覆われている。

『何を言う。吾のこの会話(こえ)が聞こえているのが証拠だ。その魂が、吾と繋がりを持っているという事に相違ない』

「…少なくとも、私はアルトリウスという名前じゃありません」

ただまあ、確かにマーくんと念話できるようになったのも契約してからなので、こいつと私の間に何らかの繋がりが形成されているのは間違いない。全く心当たりはないが。さっき思いっきり殴ったから?

『…アルトリウスではないというのなら、汝は誰だ?』

「私は…セオルレプス・アングルドン。ティンタジェルのテイマーです」

『ではセオルレプス。我が新たな盟友よ。他の封印も解き、吾の躯を集め直し、吾を完全な姿へと還せ』

「まっぴらごめんだが???」

そして勝手に盟友にしないでほしい。魔王と友達になった覚えもなるつもりもない。私は世を騒がせたいわけではないので。

「魔王復活なんて今時流行らないでしょ…別にそこまで人間に恨みとかないよ私は」

『などと言いつつ、さっさと始末しないんだから甘いよね、私の君は。何か同情でもしてるのかい?』

「うっ…」

確かに、多分今の状態なら、全力でやれば目の前の魔王(自称)を完全に破壊することもできるかもしれない。世界の平和の為にはそうするべきなのかもしれない。

「…い、いやでも私、別に勇者とかではないし」

『?…ああ。確かに今の吾であれば、勇者の力がなくとも倒せるであろうな。今の吾には五感も、四肢もない。周囲の魔力を集めて障壁代わりにする程度の事しかできぬ』

「・・・」

何故だか自分でもわからないが、嫌だと思った。ベディたちに危害を加えてきたりしたら別だが、私にはこの魔王を助ける理由も滅ぼす理由もない。殺すことそのものに忌避感は持ち合わせていないはずだけれど、私は

「積極的に殺したくはないかな…」

魔王は邪悪な存在だと聞くが、目の前の存在がそうかは正直わからない。滅ぼさねばならないほど性質の悪い存在なのかわからない。いやでも封印されてたんだよな…。

『それでこそ私たちの君だよね。でもじゃあどうするの?それに手を貸すのかい?』

「それは…うう゛ん…」

『君はどうしたいの?』

どうしたいのかだなんて、そんなことは…。

「私は、君たちと幸せに過ごせればそれでいいよ」

別に目標なんかがあったわけじゃなくて、村を出て冒険者になってみたのだってテイマーとして一度は外に出て色んなモンスターを実際に見て見るべきだって教えがあるからってだけだし。そうでなければ、村を出ず…ベディとのコンビだけで終わったかもしれない。村の中でちゃんと役割を果たせるかはともかく、私はそれでもよかっただろう。ならなかったわけだけど。

「だから、えっと…グィネヴァルトが共存できる存在なら、その方がいいと思うんだ」

別に皆がんばって仲良くした方がいいよ、なんてお花畑思考じゃないはずなのに、初対面の相手にそう思うのは我ながら謎だが。

というか、よく考えるとこれおじさんに怒られるやつでは?

『それが君の望みなら、私達はできる限りの手を尽くすだけさ』

「ありがと」

『汝は、吾との共存を望む、と?』

「殺すか生かすかの二択なら、だよ?」

『吾の封印を解いておきながら、他の躯を集める気はない、と言っておいてか?』

「それは…」

矛盾していて、いい加減なのかもしれない。でも私はこうするべきだと思ったし、迷宮から出すべきではないと思う。それに、

「どこにあるかわからないものを探し回るほどの義理はないというか…」

『この状態でも大きな破片の位置であれば大まかにはわかる』

そういう問題じゃないんだよなぁ…。

『そもそも、テイマーなら探索はモンスターに任せればよかろう。…封印を解く事そのものは汝でなければならないだろうが』

「そんな、目の届かないところまで"お使い"させるとか、やったことないよ。非常識だし」

というかベディみたいに外見のモンスター度低めのタイプじゃないと討伐される危険があるんだよね、モンスターだから。

『五感の一部と、移動手段があれば自力での捜索もできたのだが…』

そもそもそんなバラバラになってても死なないってのが異次元すぎて意味が分からないんだよね。じゃあどうなったら死ぬの?っていう。いや本当なに?それとも元から何かそういう不定形生物なの?いやでもなんか元は四肢があったみたいだしな…。

「…自由に動けるようにさせて大丈夫な相手かわからないし」

『まあ魔王だからね。君が警戒するのも当然さ。ただ…それはそれで残酷じゃないかい?脳しかないということは、音を聞く耳も、物を見る目も、匂いを嗅ぐ鼻も、言葉を告げる口もない。何かに触れてもわからない、無明無音の世界だ。心が弱ければ遠からず発狂してるところだよね、あはは』

「あはははじゃないけど、それは…そう…」

知覚の全てが失われた状態など、想像もつかないが、常人には耐えられないものだろう。私も暗くて狭いところとかなんとなく苦手だし…。

「…視覚か聴覚か、一つくらいは戻せるよう協力しよう。それ以上は…見極めてから、というか」

まあ私に見抜けるだけの見る目があるのかという問題があるが。

『セオルレプス…』

「私はあなたの友になるつもりはない。中途半端はよくない、ってだけ」

『…大方、宮廷魔導師の入れ知恵といったところか。…よかろう。こちらに不都合はない』

「宮廷魔導師?いや、マーくんは『私はただの悪戯な妖精だとも。そんな格式高い存在じゃないさ、ははは』…マーくん時々変におどけるよね」

いやまあ、そこに不満があるというわけでもないのだが。そもそも契約をするにあたって名前をつけろと言われて咄嗟に"あんな名前"を付けた私も私なわけだし。相棒の名前があれ(・・)だからといって、あんまり脈絡もない。まあそれは他のモンスターもそうなんだけど。

まあそれはともかくとして。杖をホルダーに通して、スライム風の魔王(自称)を抱え上げる。今更だがだいぶでかい。猫より重くないかなこれ。脳だけでこの大きさという事は、頭だけでも一抱えぐらいのサイズはありそう。いや、人型とも限らないからなんともいえないか。

「何かしらの容器に入れた方がいいやつかな…」

『セオルレプス、汝…女か?』

「何をもって男だと思われてたの???」

美女ではないかもしれないが、ちゃんと胸もあるし髪も長いし普通に女の子に見えるはず。…いや、こいつ視覚ないんだっけ。私の名前も別に女の子感強いわけじゃないしな…。

『否、単に先入観があっただけだ。…それと、吾を容器に入れるのはまだしも、密閉はするなよ』

「クッションを敷いた籠にでも入れればいいの?」

いや、それなりに重さもあるし耐久力のある容器じゃないと壊れそうなんだよな…。


「カイウス、斥候おねがい。ガウィーとマーくんは後方の警戒、ベディは前衛よろしく」

実際のところ、警戒が必要だったのは迷宮よりも迷宮までの道中で他の人間に遭遇しないことだった。いやまあ、今の状態なら知らなきゃただのスライムに見えるかもだし、テイマーがスライムをテイムしているのはありえんことではないので大丈夫かもだが。

ちなみにずっと抱っこしているのはキツい重さだったので箱に入れて荷車に載せて押している。

「それにしても、セキュリティ的にどうなの?この距離で設置するのって」

『そうはいっても、他の国に持っていくわけにもいかないんじゃない?封印を防衛機構に流用するって言ったって、逆に言えば封印が解けると結界が揺らぐことになるわけだしね』

それはつまり、私なんかヤバいことやってるということでは?いやまあ、今更か…。

迷宮と迷宮の間は普通に歩いて半日もかからない程度の距離になる。

『王が己の領地を守護するのは当然のことだろう?』

「そう、だね…?」

いや、そういう問題なんだろうか…。

先行していたカイウスが戻ってきた。特に問題はないらしい。他の冒険者の姿はあったが、おそらく行違うだろうルートだったようだ。

「じゃあさっさと行ってしまおうか」


『こちらだ、セオルレプス』

魔王(仮)の誘導に従って、迷宮の隠し通路から深い階層に降りる。

「なんで道が判るの?」

『ここにあるのは吾の"目"だ。迷宮全体に漏れだしている魔力と接続すればそれを把握することも容易い』

「それは便利だね?」

誘導のおかげで荷車から箱を落とさないようにする以外は私は大して気を使う必要もなく最下層まで降りてこられた。やはりある古代の機械の内一つ、よく見ると水槽の中に眼球が一つ浮いているものがある。

「これだね?せーの!」

水槽を割ると液体と一緒に流れ出した眼が不自然にくるくる回ってスライムに落ちた。ぐぐっと埋まって、改めて表面に目が出てくる。

『うむ。これで視覚が一部戻った』

不思議と嫌悪も恐怖も感じない。あんまりじっくり見たくはない造形のはずなんだけど、なんか平気だ。いや、ある意味で今更の話か…?

『…汝は本当にアルトリウスではないのか?』

「だから私はアルトリウスじゃなくてセオルレプスだってば」

そんな外見からも共通点を感じるような相手なんだろうか。一切の心当たりがないのだが。…先祖とかだったりするのかな?知らんけど。



最初はダンジョンマスターにしようとしてたんだけど設定盛りすぎてまとまらなくなったのでそっち√は別で書きなおすことにした

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