表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/60

38.愛玩獣人愛好家9

 

 にゃん太もまた、たま絵のにい也に相談しようという案に賛同した。


「ここ最近、工房に猛獣人族の見張りがついているんだ」

 その件も合わせて確認するのが良いだろうと言うにゃん太に、みなが顔を見あわせる。見張りがついているとなれば、なにかしら問題が生じているのは確定したということか。にわかに、日常が不穏に侵されていることを実感しだした。


 ケン太のいつもと変わらぬ底抜けに明るい声が重い雰囲気を打破する。

「じゃあ、にゃん太とたま絵姉ちゃんが実家に帰るのか?」

「ううん、父ちゃんにここへ来てもらおう」

「ここへ?」

 ケン太が目をしばたかせる。

「そう。みんなで話を聞こう」


 にゃん太はいつだって、独断で決めることはなかった。それでなくても、ケン太やカン七を工房から引き離そうという動きがある。今後、他の者にもそういった働きかけがないとも限らない。だったら、みなで話を聞くのが良い。そして、いっしょにどうすれば良いのか考えるのだ。その考えはしくも、カン七がみなに相談を持ち掛けた心情と同じだった。


「じゃあ、せっかくだから、食事に招待しましょうか」

「良いじゃない。いつも肉を差し入れしてもらっているのだから、たまにはいっしょに食べてもらいましょうよ。可愛い娘が作った料理を、喜ばないはずがないわあ」

 たま絵の言葉にカン七が賛同し、他の者たちも同意した。


 数日後、やって来たにい也は初めての場所でも堂々たる振る舞いで、ハム助が<パンジャ>を自在に操るのに目を止めた。

「ふうん。フェレ人とはまた違った使い方をするんだな」


「そうなんですか? 屋外で使われているからでしょうか。室内で使う分にも、<パンジャ>はとても便利ですよ。高い棚の上の物も取れますし」

 にい也に声をかけられたハム助は、静かな迫力のあるご仁だなあと思いつつ答える。


「錬金術師や薬師らしい使い方だ」

「そんな、わたしは手伝いをしているだけで、」

 目を細めるにい也に、ハム助は自分は免許を取得したわけではないと言いつつ、なんとなく、褒められているような気になって気分が高揚する。


「ハム助さんは器用だから、細かい作業を任せているんだよ。小さい木の実の殻を取り除くのとか、とても丁寧なんだ」

「身体の小ささを活かしたやり方だな」

 にゃん太が言うのに、従業員の特性が上手く機能している、とにい也は称賛する。


「おお、さすがはにい也さん、ひと目で状況を把握するとは」

「身体の小ささに惑わされませんね」

 ケン太のつぶやきを、みい子が拾う。たいてい、ハム助のような小柄な獣人は、初見で侮られる。


「にい也さんは大柄じゃないのに、威圧されるわあ」

「そう? にゃん太がいるから、雰囲気が柔らかいわよ。他の者にも声を掛けているし」

 感心するカン七に、たま絵が、ふだんは周囲に積極的に話しかけることはないと答える。してみると、ハム助に声を掛けたのも、にゃん太やたま絵たちとともに働く獣人だということと、フェレ人とそれなりに親交があるからなのだろうとカン七は結論付ける。


 そうして、場の空気を支配したにい也は娘の料理に舌鼓を打ち、食後の茶を飲みながら、工房の面々が最近遭遇した事柄を順々に聞いた。


「にい也さん、熱いものも飲み食いできるんですね。本当に猫族なのかしら?」

 同じ猫族のみい子が言うのに、ケン太が無言でにゃん太を見やる。にゃん太はカップの中身にふうふうと息を吹きかけて冷まそうとしている。まだひと口も飲むに至っていない。


「にゃん太、魔法で冷ましてやろうか?」

「ううん、大丈夫。もしかして、父ちゃんが飲んでいるやつも冷ましたの?」

「いや、熱いままだ」

 そんなやり取りを見て、ハム助もみい子もにい也の過保護ぶりを知る。ちなみに、カン七にとっては既知のことである。ケン太にいたっては、にゃん太と付き合う中でよくよく見知っている。


「まずは、工房周辺にいた猛獣人族だが、察している通り、警護に当たっていた」

「護衛がいるようなことが起きているということね?」

 たま絵の言葉ににい也は頷いた。たま絵は性急だ。それは話が早いということでもある。相手の言うことをすぐさま理解し、考え得る展開を述べる。たま絵もにい也も、物事を迅速に進ませる能力を持っていた。ふたりの会話には無駄がない。

 にい也は自身が少し前から追っている者たちのことを話した。


「「「「「「愛玩獣人愛好家」」」」」」

 その言葉の響きの異様さに、居並ぶ者たちが身じろぎする。


 獣人が誘拐されるという話はよく聞く。連れ去られる理由は、労働力だという認識を持っていた。でも、違うのだ。御大層な言葉を使って入るが、個人の嗜好のために自由を侵害される。身震いするほどおぞましい事柄だった。


 たま絵は冷静沈着そのものに見える父が、憎悪の念を抱いていることを察した。

「もしかして、わたしやにゃん太にも?」

「ああ、手が伸びていた」

 すぐに察したたま絵の言葉を、にい也はごまかさずに肯定する。にゃん太は息を呑む。


「ふたりともよく無事だったわねえ」

「本当に、良かったです」

「たま絵さんもにゃん太さんも、幼いときから可愛かったでしょうからね」

 カン七が大仰に息をつき、ハム助が同意し、みい子が青ざめながら頷く。にゃん太は一連の流れのうち、最後のみい子言葉に、今も可愛いということか、と内心気落ちする。まだ「格好良い錬金術師さん」を諦めきれないでいるのだ。


「それでにい也さんが過保護になったのかあ」

「俺がにゃん太を可愛がっているのは、なお乃の腹にいるときからだ」

 後頭部で両前足を組むケン太に、にい也がもっと先だと言う。

 生まれる前からかとカン七とハム助、みい子は素早く視線をかわす。筋金入りである。工房でも万事、わきまえている三人だ。余計なことは言わない分別があった。


 ともあれ、ケン太とにい也のやり取りで、重い雰囲気は大分緩和される。

 弛緩した空気は、続くにい也の言葉でふたたび引き締まる。

「誘拐の実行犯は獣人だ」

 誰かが息を呑む音が聞こえた。みなの視線はにい也に集まる。にい也は小ゆるぎもせず話す。

「下町の困窮した獣人だ。だから、獣人たちは油断し、あっさり掴まるのさ」

 にい也は大本を断たなければ事態は収束しないと見て取ったのだという。


「それで、情報を集め、連中の動向を探り、さらわれた者たちを奪還した」

「うひゃあ」

 ケン太が珍妙な声を上げる。しかし、他の者たちもケン太と同じような心情だった。異様なことをやる者の拠点に乗り込んで足手まといになる者を連れて逃げおおすことなど、誰にできよう。いくら魔法があるとはいえど、なんでもできるものでもないのだ。


「とにかく、助け出すのが先決だ。それに、相手は財力に明かせて権力者にコネを作って好き勝手やる連中なのさ」

 にい也は平然としたものだ。


「父さんでも二の足を踏む相手なのね」

「手を出すには大義名分がいるからな」

 たま絵に向けるにい也の視線は柔らかい。


「誘拐してきた獣人が捕まっていたっていうのじゃあ駄目なのか?」

「保護したと言い抜けられればそれまでさ」

 にゃん太に話す口ぶりも優しいものである。


「相手は寄る辺もない獣人ならば、そうなりますね」

「警邏たちにもしっかり鼻薬を効かせているでしょうしねえ」

 ティーア市に来る前に苦労に次ぐ苦労を重ねてきたハム助と、以前店を持つことでいろんなことがあったカン七がそろってため息をつく。


「抑止力として、大っぴらに周辺を嗅ぎまわったんだが、予想以上に頭が悪い連中だったみたいだな。こっちの工房にちょっかいをかけてくるとは」

 にい也はそう言いつつも、あらかじめ警護をたてておいた。


「実行犯はどうしたの?」

「捕まえて警邏に引き渡した」

 それも何度か繰り返したのだという。しかし、獣人族の誘拐は減らなかった。


「でもさ、悪いのはその愛が———なんとかってやつだろう?」

 愛玩獣人愛好家という異様な言葉を言えずににゃん太が言葉を濁す。

 第一、愛玩獣人とはなんぞや。獣人の権利や存在そのものをないがしろにしているではないか。獣人はペットではない。自分の考えを持ち、力や技能で働いて自立することができる。

 にゃん太はそう考えたが、そういう者たちはどんな時代、どんな場所にもいる。同じ人族でさえ、相手をペット扱いする者はいるのだ。


「実行犯の獣人たちをいくら捕まえてもどうしようもないんじゃないかな。だって、生活するにも困っているんだろうし、」

 やりたくてやっているのではない。彼らとて、同族の自由を奪いたいのではない。にゃん太はそう言う。

 愛玩獣人愛好家を追うにい也が困窮する獣人とて容赦しないことに対し、もっと事情を汲むべきだと意見する。


「自分が困窮するからって人を不幸に叩き落して良いことはない」

 にい也は静かに言った。

 にゃん太は知らないのだ。自分が困窮するからこそ、幸せそうな者を妬む。それだけでなく、恨むのだ。「自分がこんなに困っているのに、どうしてお前は幸せなのか」と。


 一方、にゃん太はにい也が様々なものを見てきたからこそ言っているのだとわかった。同時に、にい也にも彼らの毒が回っているのだと感じ取っていた。彼らの毒はにい也の精神をむしばみ、苛烈な行為へと追い立てている。冷静さを失わせるにいたっている。

 だから、いっしょうけんめい、説得しようとした。


 けれど、にい也は頑として受け入れない。いかなにゃん太の言葉とはいえ、耳を貸すことができなかった。そうすることができなかったのだ。自分や他の獣人族のことならば、耳も貸しただろう。けれど、家族が毒牙にかかるかもしれないのだ。今までも何度も妻や娘、息子も狙われてきたのだ。にい也の蓄積された怒りは相当なものだった。

 なのに、被害を受けそうになったにゃん太自身が許してやれと言う。


「辛いからと言って適当な言い訳を作って正当化させてまで、相手を苦しめる。そんな卑怯なやつのためになんて何もしてやる気にはなれない」

 にい也は決然と言う。


 にゃん太はへの字口に力を入れる。

 それは強者の理論だ。正常で強く健やかな心理状態でならば言えることだ。弱り不健康な心はときに異常な状態に陥る。強いにい也にはわかり得ない境地であった。そして、父の状況をにゃん太もまた理解が及ばなかった。にゃん太は戦う力がないからこそ、弱いものの心境を想像することはできた。逆に、強い者の物の考え方はあまり分からない。しかし、周囲には強い者が多くいたので、想像をすることはできた。双方の仲立ちをすることができた。


 ただ、にい也にとって、愛玩獣人愛好家を厭うことこの上なく、譲れない一線であった。誰にどれほど言葉を尽くされても、許容できることではなかったのだ。

 にゃん太はいっしょうけんめい話した。でも、父には届かない。


 他の者たちは口を挟めないでいた。

 たま絵も父の気持ちも、にゃん太が言わんとしていることも分かる。たぶん今ここでは結論は出ないだろう。そんな風にすら思えた。


 にゃん太がそれを口走ってしまったとき、明らかに妬み、いじける気持ちがあったことは事実だ。それがしつこく説得を重ねることを放棄させた。

 父はすごい獣人だ。にもかかわらず、息子の自分は、という気持ちは常ににゃん太の根底にあった。せいぜい、可愛いと言われるだけだ。その「可愛い」によって、誘拐犯に狙われていたことがあり、知らぬうちに父が阻止してくれていた。不甲斐ない。

 父のことは好きだ。けれど、どうしたって届かない。今、にゃん太の言葉が届かないように。


「父ちゃんなんて大嫌いだ」

 とうとう、そう言ってしまった。決定的に、決裂してしまった。




 ヒートアップする父子ふたりの間に入り、その場をお開きにしたのは、たま絵だ。

 ケン太など、にい也の反応を恐れて震え上がった。カン七も蒼ざめ、ハム助とみい子も表情をこわばらせている。


「たしかに、俺も今は冷静じゃない。一度、帰る。にゃん太、また後日、話そう」

 そう声を掛けてくるにい也に、目を向けることが出来ず、にゃん太はじっとテーブルの隅の一点を見つめ続けた。


 父を見送ったたま絵が戻って来ても、への字口ににゃむっと力を入れて身を硬くしていた。

「にゃん太、今日はもう休みなさい。ここのところ、いろいろあって疲れているでしょうから」

 珍しく優しい言葉をかけるたま絵に、だが、にゃん太は疲れているとかそういう理由ではない、と反射的に考えた。つまりは頑なになっていた。どうしても考えを変えることができないでいた。


「ケン太、にゃん太を部屋へ連れて行って」

「いいよ、ひとりで行けるよ」

 子ども扱いされているような気がしてにゃん太はそう言う。我がことながら、ふてくされた声音だ。冷静に考えれば、なんでもかんでも悪い様に捉えているのだと分かる。けれど、にゃん太もにい也と同じく、冷静ではなかった。

 だから、もめ事を起こして空気を悪くさせたことへのばつの悪さを感じつつも、なにも言うことができなかった。そこまで気を回すことができなかった。


「にゃん太は本当に愛されているなあ」

 断ったにもかかわらず、ケン太は部屋に戻るにゃん太の後をついて来てそんな風に言う。

「なんだよ」

「だってさあ、あのにい也さんに冷静さを失わせる者なんて、そうそういないぜ?」

 ケン太の言うとおりだと思った。けれど、今はそれですら忌々しい。


 さて、錬金術師工房では翌朝にはいつもの通りの日常を取り戻し、みなが忙しく立ち働いた。

 激変したのは別のところである。


 まず真っ先に訪れたのはフェレ人だった。

「あれ、どうしたの、フェレ人さん」

 フェレ人が作業場の戸口に顔を見せた。すでに何度も出入りしており、最近では店側から直接やって来るようになった。それでも、入り口から顔を見せるフェレ人は許可なく作業場に入って来ることはない。


「ちょっと、危険な仕事を請け負ったんです」

 近日中に取り掛かるのだという。それで、<パンジャ>の調整をしてもらおうと思ったのだと話した。


「え、そうなの?」

 炉の火加減をカン七に任せ、にゃん太は中央の台に向かいながら、フェレ人を招き入れる。

「大丈夫。ちゃんと帰ってきます。でも、今回に限らず、いつだってなにがあるとも限らない。だから、」

 だから、にい也と仲たがいしたままでいるなというのだろう。フェレ人の言わんとしていることを読み取ったにゃん太はへの字口ににゃむっと力を入れる。


「今日は本当は、にゃん太さんの様子を見にきたかったのもあったんです。いつも通りで安心しました」

 ということは、にい也は違うというのか。にゃん太はだが、どう尋ねれば良いのか分からず、結局聞けず終いで、フェレ人は帰って行った。にゃん太は見送りがてら、あれもこれもと薬を持たせた。


<パンジャ>に乗ったままで器用に振り返り、短い片前足を掲げて合図を寄越すフェレ人の姿を見ながら、少しだけ、羊彦の心配する気持ちが分かる気がする。聞くところによると、最近、フェレ人は冒険者として名を挙げ始めたそうだ。<パンジャ>によって弱点が克服されたのだろう。にゃん太はそれを願った。そして、叶った。そうなったことで、より危険に飛び込むのだという。考えもつかなかった展開だ。努力すれば、それが実れば、幸せになるというものでもないのだ。


 その後ろ姿を眺めながら、にゃん太の胸は切なさと不安でないまぜになる。

 冒険者稼業には危険がつきまとう。明日をも知れぬ身の上だ。

 それは、凄腕の冒険者であるにい也も同じだ。

 けれど、どう考えても、困窮する獣人にも容赦がないのは違うと思うのだ。


 フェレ人を皮切りに、立て続けに猛獣人族がやって来た。

「なあ、にゃん太ちゃん、にい也さん、荒れて荒れて大変なんだよ」

 フェレ人が訪ねてきた際、浮かんだ考えは正しかったようだ。


「あんなにい也は俺も見たことがない」

「酒場で黙々と呑んでいるんだ。異様な威圧感で誰も声を掛けられない」

 入れ代わり立ち代わりやって来てそう言うトラ平、虎太郎、シシ雄たちは、ことごとく撃沈した。にゃん太に客じゃないのなら、とすげなく追い出されたのだ。ヒョウ華はにゃん太とにい也の問題だから、と首を突っ込まない。

 ヒョウ次はにゃん太の様子を見に来たものの、買い物をしたついでだとばかりに早々に立ち去った。


 虎太郎は長として振る舞う際、分別を持つことを心掛けている。その反動か、トラ平とふたりで冒険者稼業をするときはしがらみから解き放たれて馬鹿をやったりすることもある。にい也はそんな立場を忘れてみせることができる数少ない獣人のひとりだ。


 フェレ人と最初に出会ったころもそんな少しばかり羽目を外しているときで、以来、彼の前でも虎族の長として気負わずにいる。フェレ人はそんな虎太郎であっても、敬意をもって接する。


 ヒョウ華は虎太郎より少し年上の憧れの猛獣人族女性だ。本心から「ヒョウ華様」と呼んでいる。そんなヒョウ華と並び称されるようになったにい也がどれほどのものかと思い、最初は観察する構えだった。その強さに舌を巻き、仲良くなりたいとさまざまに努力して、ようやく個別認識されるに至った。

 特に、冒険者稼業で組むことが多く、今ではなかなか良い連携を取れるようになっていると思っていた。


 それが、ここ最近、近づくと静電気を帯びるのではないかというほどの不機嫌さを発している。

 虎太郎がそう言うと、シシ雄は魔法で絡めとられたかのような圧力を感じると表現した。


 シシ雄はライオン族の女性はみんな大なり小なり自分のことを好いていると思っている。今も昔もだ。だから、シシ姫がにい也に気があると知って、逆ににい也に興味を持った。それまでも噂を聞いてはいたが、しょせんは猫族だと思っていた。会ってみれば、冷淡で強い。冷たく淡々としているのが、家族以外にはほとんど関心が向かないだけなのだと知って、がぜん、もっと知りたいと思った。

 あれだけ老若男女から人気があるというのに、どうでもいいというのだ。


「はべらしたり尽くされたりしたいと思ったことはないのか?」

 と問えば、猫族特有の鼻で笑う「にゃふふん」が返ってきた。

 面白いと思った。


 その時からもずっとシシ雄はライオン族の女性に囲まれて世話を焼かれている。変わったのは、他の猛獣人族との付き合いが増えたということだ。大体がにい也絡みだ。


 猛獣人族の重鎮たちから紹介されてにゃん太から薬を処方してもらったこともある。にゃん太はにい也とは違った風に面白い。戦う力はないのに、物おじせず、シシ雄にもはっきりと意見を主張する。言われるがままに苦い薬を渋々飲んだが、その後の快調に驚いた。以来、にゃん太の言うことには耳を傾けるようになった。にゃん太に絡んだ猛獣人族の若者がいると聞いて、不愉快になった。物の道理が分からない奴らだ。シシ雄の心情を知った周囲の女性が速やかに動いた。


 にい也もにゃん太も物の道理を弁えた、シシ雄が興味を持つ存在だ。なのに仲たがいしているという。柄にもなく、なんとかしようとした。ふだんし慣れないことだからか、まったくうまくいかなく、シシ雄はふてくされた。彼をなだめようと一族の女性たちがちやほやするも、面白くない気持ちはくさくさしたままなのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ