24.窃盗犯2
たま絵は、カン七と同じ薬師工房で働いていたことがある。
カン七が錬金術を教わり、逆に薬師のことをにゃん太やハム助に伝授しているのを見て、考え込むことが増えた。時にケン太と畑でああだこうだ話し込み、すぐに店に置いている商品についても覚えて、みい子の店番交代要員ともなった。
獣人であるのに工房の主となったことはすごいと思っていても、にゃん太はあくまでも弟だ。でも、カン七は違う。
店を持ち、薬師として自分で開発した商品を販売していた。商品を作り上げ、必要な素材を仕入れ、販売するという一連の手腕は見事で、たま絵は心底感心していた。
翻って、にゃん太は人族の錬金術師から教わり、工房をそっくり引き継いだ。もちろん、しっかり経営しており、アルルーンという貴重な植物を育成しているのだから、大したものである。たま絵とて、薬師工房で働いていたからには、その驚異を知っている。それといちから店を持ち経営することとはまた別の話なのだ。
錬金術を操るとはいっても、いっしょに働いてみれば、及ばない点が見えてくる。ものすごい発明を立て続けにしてみせても、やはりにゃん太はにゃん太なのだという思いがどこかにあった。
たま絵はその弟を支えているつもりでいた。けれど、カン七が来てから、なんというか、工房に流れる時間の速度が変わったように思う。
おっとりした喋り方をするものの、頭の回転や両前足の動く速度は素晴らしく速い。にゃん太がこれこれこういう風にしたいと言えば、カン七はすぐに理解して実現させる。それはにゃん太が考えた手法ではなかったらしく、「ああ、こういうやり方でもできるんだなあ」と言っていた。カン七はただにゃん太がやりたいことを手伝うだけではなく、教える側にも立てるのだ。
「にゃん太ちゃんはやり方にこだわらないから助かるわあ」
夕食の席でカン七が満足げにため息を吐く。
なるべくみなで食事を摂るようにしている。身体が小さいハム助はテーブルの上の一角を定位置としている。
食事の際に、あれこれ話し合う。各々が持ち場を持っているので、その報告も兼ねている。目いっぱい働いた後の食事は実に美味しい。
「結果が同じなんだったら、こだわる必要はないだろう?」
にゃん太はそうは言うも、工房では親方がルールだ。親方の思うとおりにやらないといけない。にゃん太はそういった考えはないようで、カン七としてもやりやすいのだ。
「むしろ、違うやり方をしてみて、結果に変化が出るかどうかを観察してみたいですね」
「そうだよな。結果が同じだったら、ちょっとずつ変えて行ってみて、どこで影響が現れるか見てみたいよな」
ハム助がうがったことを言い、にゃん太は研究者ならではの考えを口にする。
「あらあ、面白そうねえ。そういうのから案外すごい発見があるかもしれないものね」
「そうなんだよ。錬金術もまだまだ分かっていない領域が多くてさ。果てしなく広いんだよ」
我が意を得たりとばかりににゃん太は顔を輝かせる。その表情を見て、たま絵は悟った。にゃん太は工房を引き継ぎ、アルルーンを守ると決め、そうするために動いている。心からそうしたいと思っている。そして、じいちゃんが作っていた薬の提供を途絶えさせたくないとも。同時に、錬金術の神秘を探ることもしたいのだ。たぶん、その根底には「誰かのために」がある。うんうんうなりつつも、なんとかかんとか、「誰か」の困窮を解消する発明を行うことができている。
にゃん太は自分がすべきことをしつつ、やりたいことも行っている。
だから、くじけない。いろんな者の力を借りて、実現している。そう、にゃん太は夢を実現させ続けているのだ。
それがどんなに大変なことか。他者の思惑によって、夢を一度断ち切られたたま絵には分かる。
「そうなんですねえ。わたしはにゃん太さんに<パンジャ>を与えてもらって世界が縮まったように思えていましたけれど」
あまりに広大すぎる世界に難儀していたのが、ようやく住み良くなったハム助だ。
「あら、じゃあ、その<パンジャ>に乗って、錬金術のはるか極みに乗り出すのね」
カン七はおっとりした物言いでそそのかす。けれど、ハム助は怖気づかない。なぜなら、もうだめだと思ったところをいろんな者が助けてくれたのだから。思いもかけないやさしさを受け、それを力に代えて、進んでいくことができる。差し伸べられた手を取ることができる者だった。
「良いですねえ。<パンジャ>とともになら、どこまでも行けそうです」
今まで身体の小ささゆえに不自由を強いられてきたハム助も希望を持ち、遠く長い道のりにひるむどころか、どこか楽し気に歩み出した。
「俺、カン七さんやハム助さんとならもっと錬金術の神秘に踏み込めるような気がする」
「にゃん太ちゃん、」
ハム助をたきつけていたカン七は、思いもかけない言葉をもらい、不意打ちを受けて声を途切らせる。
「それはこの上のない言葉ですね。微力ながらお手伝いさせていただきます」
「アタシもがんばるわよ!」
静かな決意のこもったハム助の言葉に、カン七も負けじと声を上げる。
彼らは、にゃん太とともに歩むことができるのだ。
唐突に、たま絵は強い焦燥と羨望を感じた。そして、たま絵はそう長く思考を堂々巡りさせる性質ではなかった。
「わたし、薬師の免許を取る」
食事が終わる間際に、たま絵は宣言した。
「え?!」
「たま絵姉ちゃん、どうしたの、急に」
急ではない。たま絵とて、薬師工房で働き、薬師を目指していたのだ。
だから、この工房に働き始めたとき、アルルーンを見てどれほど驚いたことか。
どの薬師も一度は取り扱ってみたいと思う素材だ。
にゃん太はたま絵が初めて工房を訪ねた際、忙しくてついうっかり、ケン太のことを聞かれるがままに自分を畑に案内した。畑は前錬金術師工房の主によって強固な守護の魔法がかけられている。にゃん太もふだんは畑に部外者を立ち入らせることはない。家族とはいえ、やってはいけないことだったと後から反省していた。そのくらいアルルーンに関しては慎重に取り扱わなければならない。
そのアルルーンがすぐそばで育てられている。けれど、たま絵は薬師ではないから素材がどれほどあっても、取り扱うことができない。
薬師を道半ばにして諦めたものの、もしその素材を扱うことができたら、ハーブティといった身近なものに加えることができたら、という思いがあった。せめて、仲良くなれないかと頑張ってもみた。
それでも、アルルーンがにゃん太にあれこれ教えるのを傍らで見ているうち、それだけで満足していた。そのくらいものすごい光景だったのだ。
「あらあ、ようやっとその気になったのね」
にゃん太とケン太は驚いたものの、カン七はにやりと笑う。たま絵とて、気づいていた。さんざん、ハム助だけでなく、たま絵も煽っていたのだ。作業場にはたま絵もいるのだから。おそらく、足踏みする者たちが歯がゆく思えたのだろう。こんなに恵まれた環境にいるのに、なにをやっているのかと。
「薬師工房で働いていたから、実働期間の条件は満たしているわ。後は試験をクリアすれば大丈夫よ」
にやつくカン七を正面から相手にせず、たま絵はつんと顎を上げる。
そうは言うものの、内心では知識のブラッシュアップの必要性を感じていた。にゃん太が処方した【うらぎりと流血の薬草】の精油を、カン七は知っていた。たま絵はその物騒な響きの方に目くじら立てただけだ。
カン七にも大きく水を開けられている。もっと勉強しなくては。
「まあ、正直、カン七さんを見ていると、薬師のすごさが分かるからなあ」
「でも、ここって錬金術師工房なのに、薬師がふたりってどうなの?」
にゃん太が言うも、ケン太が首をひねる。
「錬金術師組合が承認するかどうかが問題ですねえ」
「薬師組合との兼ね合いがありますから」
ハム助が言うと、みい子がため息をつく。部外者であるみい子ですらそう思うのだ。もちろん、アルルーンを育てている工房だからだ。
「そっちはどうとでもなるわよ。元々、アルルーンのことで薬師組合は常に錬金術師組合をせっついているんだから。薬師がふたりもこの工房に入り込むことで、直に報告が得られると喜ぶでしょうよ。錬金術師組合には守秘義務を守って報告すると言っておけば良いわ。実際、アルルーンたちのことは全部錬金術師組合に報告しているのではないもの」
「なるほど。錬金術師組合に報告しているのと同じ内容を薬師組合にするということか」
たま絵の言葉ににゃん太が表情を明るくする。
「それを錬金術師組合を通さず、アタシやたま絵が薬師組合にすれば良いってことね」
「錬金術師組合には発明を立て続けにしたので働き手が足りていないと言うしかありませんね」
カン七がそれならば、薬師組合も納得するだろうと言い、一方の錬金術師組合はそれで納得してもらうしかないとハム助が両前足を組む。
「薬師組合がカン七さんやたま絵さんに、アルルーンの素材を自分たちの方にも寄越すようにと言って来たらどうします?」
みい子の懸念を、たま絵がにゃふふんと鼻で笑う。
「そんなの、錬金術師組合に言えと突っぱねるわよ。元々、そっちから仕入れているのに、わたしやカン七が勝手なことをできないわよ」
「そうだな。それでごり押しするなら、それこそ、にゃん太から錬金術師組合に言って貰ったら、先方が動くか」
ケン太がにゃん太を見やり、工房の主はうなずく。
「さすがはたま絵、頭が切れるわねえ」
「たま絵さんが薬師になったら、工房の体制が強化されそうですね」
カン七が両前足を交差させ、そこにけだるげに顎をのせ、みい子が片頬に前足を当てる。
「姉ちゃんはどこまでも腹が据わっているな」
姉ちゃんという生き物は凛々しいのだ。
あんたも工房の主としてしっかりしなさいよ、という声が飛んでくる前にハム助が言う。
「にゃん太さんはあまり前へ出ようとする気質ではありませんからね。ここはたま絵さんに薬師になってもらって、工房の主の補佐として前面に押し出していくのはどうでしょう」
「あらあ」
「それ、良いですね」
「店の看板娘から錬金術師の助手を経て、最終的には工房主の補佐か!」
ハム助の提案に、カン七がにやりとし、みい子が両前足の肉球をぱふと重ね合わせ、ケン太が目を輝かせる。
「そうだなあ。元々、工房の経営の方に回ってもらおうと思っていたし」
ティーア市獣人新聞の一度目の取材もたま絵に任せたにゃん太である。たま絵ならば、とっさの対応も可能であろう。
「ただ、その、」
なにかと注目されやすい工房の対外的なことをするとなると、付随する弊害が予想される。
「ああ、前の薬師工房のようなことにならないかってことね。まあ、そうなったらそうなったときのことよ。父さんは誰にも止められないわ」
「にい也さんなあ」
にゃん太が言いにくそうにすると、たま絵が平然と言い、ケン太が眦を下げる。
たま絵の行き過ぎたファンの行動も困りものだが、問題は父にい也なのである。子供ふたりを溺愛することこの上なく、力もある。並み居る猛獣人族より抜きんでた実力の持ち主なのだ。
「にい也さんも、たま絵が薬師を目指すと言えば、応援してくれるでしょう」
たま絵が志半ばにして薬師工房を辞し、実家の家事をするようになったことを、にい也が心を痛めていないはずがない。
「そうですよね。しかも、働くのはにゃん太さんの工房なのだから」
うつくしい獣人従業員に、親方という強い立場に物を言わせることもままある。ハム助はそんな杞憂は考慮しなくて良いのだから安心するだろうという。
「見回りが強化されそうですね」
「あれ、父ちゃん、たまに来ていたの?」
みい子の言葉に、にゃん太は意表を突かれる。
「あの、はい。一日に一度は来店されて、変わったことはないかと言って。あ、でも、薬を買って行かれるので、お客様ですし、」
みい子が慌ててにい也を擁護する。
「にい也さんって、そんなに薬を頻繁に補充する必要はないよなあ」
ケン太の言うとおり、にい也は身軽で柔軟性に富み、瞬発力もある。速度重視の冒険者である。怪我を負うことは滅多にない。ちなみに、速度重視であるにもかかわらず、猛獣人族が蒼ざめるような膂力を見せつける。よく言われるのが、「あれは本当に猫族なのか」である。
最近、なにかとにい也と行動を共にするようになったフェレ人も、たまに出る「にゃふふん」という冷笑に、「あ、猫族っぽい」と安堵と納得を覚える。逆にいえば、外見の他はそのくらいしか猫族らしさがないのだ。
「父ちゃん、そんな無駄遣いをして。今度、客としてじゃなく訪ねてくるように言っておくよ」
にゃん太は父の財布事情を心配するも、他の面々はトップ冒険者からしてみれば、微々たる出費だろうと思う。
「アルルーンを育てているから、家族とはいえ、部外者は立ち入ってはいけないと思っているのよ」
「そっか、父ちゃん、ちゃんと考えているんだな」
ことアルルーンのことになると神経質になる錬金術師組合に配慮しているのだというたま絵に、にゃん太は感心する。
「にゃん太ちゃんのにい也さん像って不思議ねえ」
「ふつうの過保護なお父さん、って感じじゃないかしら」
たま絵の言葉にうなずきながら、カン七はそういえば、トラ平も言っていたが、にゃん太はにい也の他に、猛獣人族の重鎮たちからも可愛がられているということを思い出す。
にい也の冷厳さはにゃん太の前では霧散するので、他者が抱くイメージとはかけ離れているのだろう。だとすれば、にゃん太を可愛がる猛獣人族も似たり寄ったりなのかもしれない。
「あの溺愛っぷりはふつうじゃないと思うけれどね」
「父ちゃん、一度会うとしつこいからなあ」
ケン太の言葉に、以前、薬やフレーバー木の実を渡しに行ったときのことを思い出す。あの手この手で引き留めようとした。
カン七はにゃん太ほどではないが、店も作業場も畑でも働くことができるオールラウンダーである。
その日、ケン太とともに畑でバラの様子を見たり、新しい薬草を植える相談をしていた。ふたりの足元にはアルルーンたちもいる。にゃん太はほかの仕事は彼らに任せて、ひたすら<吸臭石>や<パンジャ>の作成に取り掛かる。
「にゃん太さん、あの、」
店番をしていたみい子が扉から顔を出す。
「お客さん?」
またヒョウ華や虎太郎が来たのかとそちらへ向かう。すると、みい子の傍らに獣人の子供がいた。
ひとしきり泣いた後なのか、すんすんと鼻をすすっている。
生まれたての赤ん坊ではないが、まだまだ遊びたい盛りのころころした身体つきをしている。子供たちはふたりいた。
片方の子は大きな三角耳に丸い瞳、鼻先は前へ突き出ている。正面からは逆三角形をした顔は「赤みを帯びた褐色」とよく言われる明るい茶色の毛並みをしている。
もう片方は白と黒の特徴的な毛並みだ。目元が楕円形に、そして耳、首回りと四肢が黒い毛並みをしている。
「狐族とパンダ族?」
狐族とパンダ族の子供らは、<パンジャ>に乗って近寄ってきたハム助に目が釘付けだ。ハムスター族が乗る珍しい乗り物に、怪我の痛みを一時忘れている。
「そうなんです。追いかけっこをしていたら、木箱にぶつかって、怪我をしたみたいで」
みい子がそっと両前足でそれぞれの子供の背を押して前へ押し出すと、頬や前足に血がついている。
「ああ。長い間置きっぱなしにされているのは危険だよな」
「軟膏を用意しましょうか?」
「うん。お願い。俺はこの子たちの汚れを洗うよ」
「手伝います」
遠ざかる<パンジャ>を追って、子供たちの視線が流れる。その隙にとばかりに、にゃん太とみい子は子供ふたりを水場に連れて行き、汚れを洗い落とす。タオルで水気を拭き取り、軟膏を塗る。
なめらかに作業場を走り、棚の前でジャッキを伸び縮みさせる<パンジャ>に、「「おおー」」と子供たちから感嘆の声が上がる。言わなくても「格好良い!」と思っているのが丸わかりだ。
にゃん太はそんな魔道具を作り出したこととハム助が注目されていることに、なんだか誇らしい気持ちになる。気をよくして、飲み物でもごちそうしようという気になった。
「よし、よく我慢したな。ちょっと待っていろ、今、<しゅわしゅわレモン>を作ってやるからな!」
みい子はにゃん太に囁く。
「わたし、アルルーンたちにしばらくこちらに近づかないように言ってきますね」
カン七の秘密保持徹底の呼びかけを受け、みい子が気を回す。にゃん太と言えば、耳元にみい子の息がかかり、「猫は軟体動物」説を体現していた。
「【すがすがしいメリッサ】と【瑠璃蝶のロベリア】、【ぽこぽこのソディウム】、【すっぱいヒドロキシ酸】ですね」
もう何度も作っているからか、ハム助がすぐに必要素材を揃える。
<しゅわしゅわレモン>ハチミツ風味をひと口飲んだ狐族とパンダ族の子供らは目を見開いて互いの顔を見あわせる。そして、ごっくごっくと喉を鳴らして飲み干す。容器から顔を話した際、大きくげっぷをした。
「気を付けて帰るんだぞ」
ハム助に見せていた目の輝きは、今やにゃん太に向けられていた。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「おいしかった!」
転がるようにして出て行った子供らにちょっぴり誇らしい、にゃふふんという気持ちになるにゃん太であった。錬金術を使っているときに、いつもの「んーにゃっにゃっ、んーにゃっにゃっ(ワルツ調)」や、出来上がった際の「にゃにゃにゃーん」の鳴き声をがまんした甲斐があるというものだ。やっぱり、こう、なんでもないことですよ、とささっと作った方が様になるではないか。
「可愛い猫の錬金術師さん」のイメージから「格好良い猫の錬金術師さん」へとシフトする絶好のチャンスである。
ちなみに、カン七はにゃん太のハミングがあると調子が上がると言うものだから、逆にやりにくくなっていた。隣でケン太がにやにやしていたからというのもある。みい子には言わないでくれ、と言うと、「あらあ、気にすることはないと思うけれど。でも、分かったわ」と返ってきたので安心だ。ケン太はからかいはするものの、みい子に喋ってしまうことはない。
問題はたま絵である。姉ちゃんという生き物は弟のやることなすこと、じれったく思うときがあるらしく、自分が代わって思い切りよくやってしまうことがある。それこそ、すぱーん、という表現がこれ以上にないほどしっくりくることを、やらかしてくれるときがあるのだ。ハム助やカン七のような分別を身に着けてほしいものである。
なお、集中しているときに無意識にハミングしていることを、にゃん太は知らない。カン七がにゃん太のハミングに合わせてアルルーンが葉を振っているのに気づいて身もだえするまであと少しのことである。
「うふん、可愛い。楽しい職場だわあ」
言いつつ、アルルーンが健やかであるのはこの柔らかな雰囲気のお陰であり、不思議植物が協力的であるからこそ、畑は充実しているのだとしみじみ感じる。
「本当に。にゃん太さんにはどれほど感謝してもしたりません」
「そう言えば、わたしたち、行き場がない者同士で、みんなにゃん太さんに手を差し伸べられたんですよね」
ハム助がカン七に同意し、みい子が微笑む。そう、みい子はすでににゃん太が隠しておきたいことを知っていた。みい子もまた、ハム助やカン七と同じく気が利く者であったから、にゃん太の隠しておこうという心情を察して、何食わぬ顔をしているのだ。
ケン太が少し離れた場所で「あ~あ」という顔で彼らを眺めていた。
「まあ、みい子さんはにゃん太が恥ずかしがっているだけで、恋心とかなんとかまでは気づいていないだろうから、自分で気づくまでは放っておいても良いだろう」
つまりは、周囲のやさしい気持ちで、にゃん太の特別ではない日々は守られているのだった。