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第五十一話

 後から来たゴッフさんに今までの話を伝えた結果、百面相をしている所を眺めつつ、俺達は情報の出し合いを続けていた。


「なら次は我らだな」

「ミラとアタシは二人いっしょに飛ばされたのよね」

「我らが分断された先で、刺客がいてな。確か『魔術師殺し』などと呼ばれているらしい賞金首の……何だったか……」

「サイレス兄弟ね。たぶんアタシ狙いの配置だったんだと思う。一人だったらどうしようもなかったわ……」

「それは此方も同じだ。兄の天恵で魔法を封じ、弟の天恵で物理攻撃を防いで潰す、というのが彼奴らのお決まりの戦法だったのだろう」

「もしかしたら天恵持ちにも対策はあったのかもしれないけど……」


 敵が天恵者の集団である以上、天恵持ちが相手でも慣れていた可能性もあるが……もう倒したなら関係ないだろう。


「何とかそやつらを片付けた後、あてもなく施設内を走り回っていた時に倒れ伏したカジキを見つけたというわけだ」

「アタシたちにできたのは応急処置くらいだけど、もう少し遅かったら危なかったわよ」

「いやー、助かったわ。正直ワシも自分でこれ死んだと思うたからのぅ」


 当の本人であるカジキは笑っているが、二人の様子を見るに本当に危ない所だったようだ。


「話に出たついでにワシもなんか話そうかと思うたが、大した話はないのぅ。あのオールバックの男と戦って負けた……それだけじゃ」

「オールバック……? もしかしてあの指パッチンの奴か?」


 どうやら一緒に同じ場所に飛ばされたアンナとミラとは違い、カジキは独り、あの立ち塞がった敵と共に別の場所に飛ばされて、そのまま戦っていたらしい。


「ワシがいっしょに来たんはどうも向こうにとっても予想外じゃったようでの。ワシが切り込もうと奴らに近付いとったせいで一緒に飛ばされたとか言うとったわ」

「距離が近かったから移動場所がズレたと考えると、アタシたちを分断したあの転移は、人物を指定してじゃなくて空間を仕切って移動させているってこと……?」

「空間を、仕切る……?」

「あの男が広範囲に斬撃を飛ばしてきてたじゃない。あれはこちらを足止めするためのものかと思っていたけど、もしかしたら空間を仕切るためのマーキング、目印だったのかもしれないわね」


 言われて見れば、皆がどこかに飛ばされる前に男から大量の飛ぶ斬撃が放たれて、俺達だけじゃなくて部屋全体も切り刻んでいた。あれは俺達を狙ったんじゃなくて、部屋に切り傷を付けて区切るのが目的だったってことか……?


「天恵を使うのに目印なんているのか?」

「必要な場合も少なくないわ。空間に作用する魔法において重要なのは効果範囲をどうやって算出するかという点。魔法じゃなくて空間に作用する天恵だとしても、それと同じように効果範囲の認識というのは重要なのは変わりないでしょうね。より感覚的なものが強くなるとしたら、部屋に切り傷を付けることで視覚的に認識しやすくした、って所かしら……?」


 うーん、わかるようなわからないような……? アンナの言っていることがなんとなくしかわからないが、要はイメージのしやすさとかの問題だろうか?


「あとは奴が鯨龍を殺しとった張本人じゃったようでの。ワシらが海神の住処じゃと思ってた水天宮は鯨龍たちがあの鉄ン球を封じ込めてた場所で、その封印を解くために鯨龍を斬り殺しとったんじゃと」

「よく聞き出せたな」

「もう終わった話と思たんじゃろ。斬り合いの最中で問答してたらペラペラ話しよったわ。どうやってそれを知ったんかは話さんかったがのぅ」


 だけど鯨龍の殺傷方法が飛ぶ斬撃だったと聞いて納得がいった。それなら海中にいる鯨龍をそのテリトリーの外側から切り裂けるだろう。もちろんそれでも相当な実力者である事に変わりはないだろうが……


「で、負けた後は意識が朦朧での。こっからはそっちの二人から聞いた方がええじゃろ」

「カジキの応急処置が終わった頃に、けたたましい音が鳴り始めてな。ただならぬ気配を感じた我らは脱出に動くことにしたのだ」

「相変わらず出口がどこにあるのかわからなかったけど、そこで立ち止まっている場合でもなかったし、急いで先に進んだら、飛空船の発着場らしい所に出たの。だけど、脱出しようにも肝心の出入口が開けられなくて……」

「ならどうやって脱出を? まさか力尽くで?」

「最悪の場合そうしようと思っていたのだが、我ら以外の誰かが残っていた飛空船を発進させ、それに合わせて出入口が開いたのだ。その隙に外へ跳び出したというわけだ」

「跳び出し……え? 生身でですか?」

「うむ。この機を逃せば出られないと思ったのでな」

「ミラがカジキを背負ったまま躊躇なく跳び出していくから、魔法で何とか保護しつつ、何艇か見えた飛空船の中からミラの指示する船に着地したって所ね」

「何艇か……?」

「たぶんあの要塞から避難したエルロン一派でしょうね。実際アタシたちの前で一艇飛び立ったわけだし、他にもいておかしくないわ」

「ニアの飛空船は他の物と意匠が違って判別がつきやすかったから助かったな」

「アタシたちからはこんな所ね。有益そうな情報はあまりないわ」


 アンナはそう言うが、手配書が出るくらいの危険人物が奴らの味方になっているという事、そしてあの空中要塞から飛空船が何艇も脱出していた、というを知れたのは大きいと思う。


「ただ、少し話が逸れるのだが、一つ気になった事があった」

「気になった事?」

「あのサイレス兄弟とやらだが、兄弟というにはあまり似ていなかった。所謂義兄弟という奴かと思ったのだが、口ぶりからしてそうでもない」

「ああ、確かにそうね。歳も結構離れてそうだったけど、お互い昔から知っているようだったし……体格もだいぶ違ってたわよね」


 二人の話に、俺も何か違和感を抱いたものの、それが何からくるものなのかわからない。疑問は残るものの、ここでただ考えていても答えは出ないと、一旦割り切るしかなかった。



 ◆



「さて、ここまで情報を共有してきたわけだが……何か見えたかな?」


 色々とわかった事、わからなかった事があったが、色々と含めてまず言えることが一つある。


「星光教会がかなり怪しい」

「そう、ですね……教会を信じたい私にもそう見えるくらいですもんね」


 エルロンの言っていた話から、『彼の方』を崇める教会がかなり黒く見えてくる。『彼の方』とかモロにそれだ。


「教会が一枚岩でないにしても、かなり中枢にまで食い込んでいると考えていいだろう。トップである教皇まで関わっているとは考えたくないが……可能性としては十分にある」

「もしそうだったら一度エドワードと情報のやり取りをした方がいいんじゃないか?」

「エドワードというと、たしか歴代最年少で聖騎士に任命されたという天才騎士だったか」


 教会を内側から探っているエドワードも何か情報を掴んでいるかもしれないし、何よりこちらの情報を伝えておかないと彼自身に危険が迫るかもしれない。


「とはいえ、あの鉄ン球の件の直後じゃ。すぐにワシらと会ったりしたらそれこそ連中に悟られるんとちゃうか?」

「危険を伝えるはずが危険を寄せ付ける事になるかもしれないってことか」

「逆に言えば、彼を餌に敵を誘き寄せる事もできるかもだネ」

「うっわ、悪い事考えるわね……」

「と、とりあえずエドワードにコンタクトは取った方がいいのではないか? 彼が危険なのは変わりないのだしな」


 ということでエドワードにコンタクトを取る事にした。とはいえ、今遠く離れたグントーにいる俺達からエドワードに対して直接取れる連絡手段はないので、シド工房を経由してもらう事になった。効果は薄いが『アルカンシエル』として連絡するよりも多少のカモフラージュにもなるかも、とアンナや爺さんが言っていた。


「では敵の目的が『先史文明の復興』だとして、彼らは次に何をすると思うかナ?」

「文明の復興に必要なもの……ってなんだ?」

「人、物、金、技術、知識、武力、コネ……挙げればきりがないわね」

「ただ先史文明を復活させるのなら、その敵性存在である龍神を何とかしようとするんじゃないか? 復活しても同じように滅ぼされたら意味がないわけだし」

「龍神を何とかしようと思えば、またあの空中要塞みたいな遺跡を起動させるのでは……?」

「ならばそれはどこにある遺跡なのかって話になってくるが……」

「結局そこなんだよな……」


 奴らが狙う先史文明の遺跡がどこにあるのか、それを知る術が俺達にはない。そもそも奴らがどうやって遺跡を探し当てているのかもわからない。正直、手詰まりだった。


「……これに関しては、敵が動くのを待つしかない。業腹だがな」

「敵が動いたらこっちもすぐ動けるように準備しておくしかないな」


 なら俺達はそれまで待機しておくしかないのか? それはあまりにも後手に回りすぎじゃないか? 何かできることはないのか? 何か……


「……エルロンはもういないけど、ヤツが変わった切っ掛けも調べる必要はあると思う」

「ふむ、その心は?」

「その変わった切っ掛けこそ、奴らの目的に繋がっている可能性もある」


 それが形のある物なのか、遺跡に記された記録なのか、あるいは形のない何かなのか……どんなものなのかまではわからないけど、奴らの『先史文明の復興』という目的に繋がる、あるいはその目的の先が見えてくる気がする。

 そもそもゴッフさんからの情報がなかったら、その調査に動くつもりだったわけだし、おかしいわけではない。


「となると、当時の枢機卿候補だったトーマスという男を探す……にしては情報が足りないか」

「それよりその遺跡を探索してみた方がいいんじゃないか」

「そうですね。こちらに向かう前にお兄様に遺跡の情報と探索許可をお願いしていたので、連絡を取ってそちらを捜索してもいいかもしれませんね」


「じゃあ俺達のこれからの予定としては、奴らが動くのを待ちつつ、例の遺跡の探索とエドワードと話をすることだな」


 とはいえ、クロードの許可が下りるまで待機しないといけないのは変わりない。それまでどうするか……


「……あやつのこと、家族には伝えなくていいのだろうか」


空いた時間をどう過ごすべきか悩んでいた時、ミラがそう口にした。


「その遺跡のあるササンカとやらは故郷の近くなのだろう? なら少しくらい寄り道をしても問題はなかろう」

「でも埋葬するにしても遺体の一部もないからな…………俺の親父に言えば、遺体はなくても墓は作ってもらえると思うけど」


 正直に言えば、アイツの死を伝えるために村に戻るのは、気が重い。

 アイツを村から連れ出しておいて死なせてしまった俺が、どの面下げて戻るんだという話でもある。

 それでも、他ならぬ俺が伝えなければならない。それが、アイツを村から連れ出した責任という奴だろう。


「墓作るっちゅうことは、アルの親父は坊主なんか?」

「ぼうず? いや、普通の神父だよ。とはいえ村で唯一の神父だから」

「墓の管理は一人でやっているのか? 墓だけでなく教会の管理もあるだろうに」

「まあ小さな村だからな。親父が村に来たばっかりの頃はもう一人神父がいたらしいけど、俺が物心つくより前にもう亡くなったらしいし」


 その老神父の孫娘らしい姉貴分が、アイツの初恋相手にして親父の嫁で俺の義母になったわけだけど……まあその辺りは説明しなくてもいいだろう。



「────あっ!」




 と、急にアンナが何かに気付いたかのように大きな声を上げた。


「ど、どうかしましたか、アンナ?」

「アンタの父親が村に来たのって何年くらい前!?」

「え? 詳しくは詳しくないけど、確か俺が赤ん坊の頃って言ってたから……まあ20年も経ってないな」

「神父だっていうアルの父親の名前って確かトムだったわよね!?」

「そうだけど……親父の事ってアンナに話したっけ?」

「アイツから聞いたのよ! 神聖魔法を誰から習ったかって」

「ああ、あの武器を光らせる魔法か。なんかすごい魔法らしいヤツ」

「それがどうかしたんですか?」

「さっき話にも出てきた枢機卿候補だったトーマスなんだけど、トーマスの愛称ってトムじゃない?」

「────ッ!?」

「20年ほど前に村にやってきた高位の神聖魔法を使えるトムという神父……その近くの遺跡で事件を起こして失踪したトーマス……無関係とは思えない……むしろ今までどうして気付かなかったのかしら……!」

「つまり、親父がエルロンに関わっているかもしれないって事か……?」

「言いたくはないが、最悪を考えれば君の父親がエルロンの共犯者である可能性だってあるネ」


 信じたくないそのアンナの推測に、爺さんの指摘に、思わず息を呑んだ。


 考えもしなかった。俺にとって親父は普通の親父で、野心家だったとか、お偉いさんだったとか、そんな人物像とは今でも結び付かない。ただそれはあくまで俺の認識で、導き出された推論に対して説得力のある反論は思い浮かばなかった。


 アイツだったら、どう考えただろうか。親父が無関係だと考えただろうか、それとも納得したのだろうか。


 ……今、ここで考えても答えはでない。だったら、親父の潔白を証明するためにも、もしも親父が敵だった時のためにも……



「…………行こう」



 俺は、久しぶりの里帰りを決めたのだった。




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