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第五十話

「────はっ!?」


 目が覚めると、目の前に広がっていたのは見覚えのない天井だった。


「目が覚めたようだな」

「ミラ……?」

「すまない。咄嗟だった故に手加減ができなかった」

「そうか……いや、大丈夫だ。むしろ助かった」


 側にいたミラに声を掛けられ、気を失う前に何があったのか、少しずつ思い出していく。どうやらあの時、後頭部を走った衝撃はミラに殴られたのが原因だったらしい。あの時、激情した俺を咄嗟に止めるためにはそうするしかなかったと頭を下げられた。

 だけどミラのその判断は正しかった。あのままだと周囲の事も考えずに天恵を解放して飛空船も巻き込んでしまっていただろう。さらにいえばあの黒龍も敵として向かってきたかも……


「……そうだ! あの黒い龍は!?」

「あの龍ならあの後すぐにどこかへ飛び去った。我らや他の飛空船には目もくれずな。どうやらあの空飛ぶ鉄の目玉が目的だったようだ」

「そうか……」


 あの黒龍に思う所はあるが、それが逆恨みや八つ当たりに近い物である自覚はある。むしろあの要塞がまだ攻撃できたことを考えれば、俺達は助けられたとも言えるだろう。それでもこの感情はどうしようのだが……今は抑えよう。


「そういえばここは……?」

「ワダツミの集落、そこの空き家をカジキの名で少しの間借り受けた。カジキの治療や飛空船の状態からここを目指すのが最善だと判断したそうだ」


 ミラが言うには、飛空船の状態からしていつ墜ちても不思議でなく、浜辺に着陸したと同時にどこかで爆発音がしたとかなんとか……本当にギリギリの状態だったらしい。


「じゃあカジキは? 別の場所で休んでいるのか?」

「あ奴なら当主である父親に今回の顛末を報告している。殴り合いでもしているかのように騒がしかったが」

「いや安静にしてろよ」


 どうやら船と違ってカジキの方は思っていたよりも元気なようで何よりだ。


「……ふむ、意識もしっかりしているな。落ち着きもある。大丈夫そうだ」

「なんだよ大丈夫そうって……」

「それだけ激昂していたという事だ。自覚しろ」


 それを言われると返す言葉もない。実際に激情に捕らわれていた自覚もある。一度意識を落としたおかげか、今は何とか抑えられている。


「大丈夫であれば他の皆も集めよう。特にクリスが心配していた」

「……わかった、頼む」


 皆を呼びに行ったミラを見送った俺は、目を瞑って気持ちを落ち着けるために深呼吸をしつつ、頭の中を整理する。


 俺はあまり考える事は得意じゃない。それでも考える事が大事なのは知っているつもりだ。


 今後どう行動すべきかを考えるためにもまず、情報を共有する必要がある。


 何より、皆に伝えなければならないことがある。


 それは、他ならぬ俺が言わなければいけないことなんだと、覚悟を決めた。



 ◆



「アイツは、死んだ」


 皆が集まって、それぞれが分かれてからの情報を共有しようという話になって、すぐに俺はそう切り出した。


「ま……待ってくれ。確かにあの遺構は消し飛んだけど、それで死んだというには早計すぎないか?」

「そ、うだ。彼奴とてあのけたたましい音が鳴って非常事態だというのは把握できただろう。あ奴ならそれでまず自身の身の安全を確保するために動くはずだ」

「そ、そうよ。アイツの事だから、なんだかんだで脱出している可能性も高いわよね! 何だったら敵の飛空船に潜んでるかもしれないし!」


 その言葉に、俺は首を横に振る。

 俺だってそう信じたい。信じたかった。だが、そんな根拠のない希望論で誤魔化して、見たくなかった現実から目を背けるわけにはいかないんだ。


「映像越しだったけど、俺達ははっきりと見た。白い髪の、機械みたいな女が、アイツの首を切り落とした場面を」


「そんな……!?」

「まさか……!」


 俺からの言葉に、皆は言葉を失っていた。なんだかんだ言いつつ、皆アイツの事を信頼していたはずだ。何かがあってもアイツなら切り抜けられると、信じていたはずだ。


 その想いは、俺自身痛いほどわかる。だからこそ、俺も皆にかける言葉が見つからずにいた。



「────で、お前らはどうするつもりなんじゃ?」



 そんな、この場を流れる悲痛な沈黙を破ったのは、カジキであった。


「……どうする、とは?」

「言葉の通りじゃ。お前らは仲間の死に衝撃受けて、そのまま何もせずにいつまでも立ち止まっとるつもりなんか」

「……ッ! 仲間が死んで、悲しむなっていうの!?」

「仲間の死がショックなんはわかる。ワシはお前らとの付き合いも短いし、どれだけお前らの間に信頼が築かれてたかはわからん。そんな短い付き合いのワシでも少なからず思うモンがある。じゃが、アイツが自分の事でウジウジと足を止められて喜ぶとは思わん」

「何を、根拠に……」

「ワシの勘違いからとはいえ、刃を交わして命を獲り合った仲じゃ。完全にとは言わんが多少はわかる。アイツの事を思うんなら、仇討つなり連中の目的を阻止するなりした方がよっぽどええ。違うか?」


 カジキのその言葉に、誰も反論することはできなかった。

 確かに、アイツは『俺が死んで悲しまないとか嘘だよな』とか『俺が死んだんだから泣けよ』とかは言ってもおかしくないが、そのせいで俺達の足が止まってしまうのをよしとは思わないだろう。何だったら『俺の仇くらいちゃんと討てよ』くらいは言いそうだ。


 ……俺が言いたかった事を、俺が言わないといけなかった事を全部言ってくれたカジキには感謝しかないな。


「そうだな。カジキの言う通りだ。俺達はここで止まっている場合じゃない」


 悲しみは背負っても、ここで立ち止まるわけにはいかない。

 敵はまだ健在で、俺達は俺達の世界を守るためにもそれに対抗するために動かないといけない。


 そして何より、俺自身が、あの白い髪の女を許すつもりは、ない。


「だからこそ、まず俺達の持つ情報を合わせて、これから何をすべきか次の行動を考えよう」


 俺の言葉に、その場にいる全員が同意する。


「じゃあまず俺達から話していこう」

「そうですね。私たちは分断された後、あの場から飛ばされることなく、何事もなく要塞の奥で待ち構えていたエルロンの所まで辿り着きました。たぶん誘導されたんだと思います」

「そのまま戦闘に入って、苦戦はしたけどエルロン自身を倒すことは成功した」


 そして戦いの最中、ヤツが語った事を皆に話していく。


 俺達がエルロン一派と呼んでいた一団は、エルロンがトップではないという事。

 奴らは天恵を保有している【天恵者】の集団である事。

【天恵】とは『彼の方』という存在によって与えらえた恩恵である事。

 先史文明がその『彼の方』によって齎された事。

 龍神がその先史文明を滅ぼした人類の敵である事。

 奴らの目的が先史文明の復活である事。


 エルロンが語っていた事を簡単に纏めると、こんな所だろうか。


「つまり、まだエルロン一派の残党を追う必要があるってことか」

「話を聞くに残党という表現は正確ではないけど、概ねそういう事だネ」

「先史文明の残党という意味では合っているんじゃないか?」

「それにしても『彼の方』とは……確か星光教会の信仰対象だったか?」

「はい。星光教会の『メシア』に預言を授けたとされる存在が『彼の方』と呼ばれています」

「一気に教会がきな臭くなってきたな」


 やはりエルロン達と教会勢力は繋がっていると考えた方がいいんだろうか……? エドワードが内側から調べてくれているようだが、一度連絡を取った方がいいかもしれないな。


「じゃあ次は我々居残り組の番といこうか。とはいえ、語れることは殆どないんだけどネ」


 気になる事は多いが一旦気持ちを切り替えて、飛空船に残っていた爺さんたちの話を聞いていこう。


「お前らが出て行ってから少しして、大量の警備ロボットが襲ってきやがったんだ……!」

「乗組員のほとんどが元々王国の兵士で荒事に慣れていたっていうのと、テル君特製の炸裂弾が大活躍したのと、ニアの大立ち回りで、何とか凌げたんだけど、飛空船への被害が酷くってネ」

「もともとあそこに停泊していた飛空船の部品を拝借して何とか修理できたってわけさ」


 あの時ニアが使っていた手足が生えた不気味な装置は、飛空船の修理をするために、襲撃でボロボロになって動かせなくなった鎧の四肢を再利用していたらしい。


「とまあそんなわけでこっちは本当に情報らしいものはないネ。僕も遺跡内を見て回る時間もなかったし」

「いや、それでも一つわかったこともある」


 爺さんの言葉をニアが否定する。爺さんが言った通り、遺跡を調査する時間も余裕もなかったのは確かだろうに、何かわかったことでもあるのだろうか……?



「結論から言おう。先史文明は雷を動力として利用した電気文明だ」



「でんき……?」


 えっと、話の流れからして雷のことだよな? 雷を動力にしてたって……うん?


「ちょっと待った。先史文明では確か【穢れの瘴気】を動力にしてたって前に言ってなかった?」

「その時は状況証拠からそうだと考えていた。それも間違いではないが、正確には瘴気そのものを動力にしているわけじゃなさそうだ。おそらくだが瘴気を電気に変換して動かしている」


 とはいえこれも推測の域をでないのだが、と前置きをしてからニアが続ける。


「今回、飛空船の応急処置のためにあの場に停まっていた飛空船を分解して使用した。正直、飛空船が受けた被害からして、そっちの飛空船を漁ったのはダメ元だった。動力系統も損傷していたし、技術系統が違う船にそこまでの期待はしていなかった。空が無理でもせめて海を往く船として形を成せればと思っていた。だが実際に飛空船の動力系を調べてみて驚いた。仕組みや構造、性能に違いはあれど、ボクの物とそこまで変わらなかったんだ。それこそそのまま流用できてしまうくらいにはね」

「なるほどのぅ。つまりはその先史文明っちゅうのが雷を使ぅとったっちゅうことは…………?」


 ニアの言葉に納得するように頷いていたカジキだったが、徐に首を傾げた。


「結局それで何がわかるんじゃ?」

「さあ?」

「さあって……お前あれだけ語っといてそれはないじゃろ」

「色々と語ったけど、これが何かの役に立つ情報かはボクはわからない。だが何かの役に立つかもしれない。ならわかる範囲で話しておいた方がいいじゃないか。情報は大いに越したことはないんだから」

「それはそうじゃが……にしても、昔の人間が雷を使ってたんが、何に繋がるっちゅうんじゃ……」


 ニアの言うこともわかるのだが、カジキの気持ちもよくわかる。確かに『先史文明で雷が使われていた』ってことがエルロン一派の目的に繋がるとは思えないよな……なんて考えていた時、ふとエルロンが死に際に口にしていた言葉が脳裏を過ぎる。


『やはりその身は、あの時の、『彼の方』の────!!』


 暴走する俺の【雷光】をその身に受けながら口にした奴のあの言葉に、どれほどの信頼性があるのかはわからない。だが、その言葉をそのまま受け取るのならば、俺の天恵は、いや俺は『彼の方』とやらと何か関係があるというのだろうか……?


「……どうかしましたか、アル?」

「いや……何でもない」


 あれがエルロンの妄言だと言い切る事はできないが、今ここで話すべき内容でもないだろう。


「そういえば、飛空船は今どんな状態なんだ? 修理が必要ってのは聞いたけど」

「あの飛空船は現状修理できないね」

「え!? なんで!?」

「単純に部品がないんだ。先史文明の船から流用できたとはいえ元々の規格は違うからね。ここまで来るのが限界だった。元の状態にするなら魔導都市に戻る必要があるね」

「じゃ、じゃあ帰りは船でってことか……?」


 ワダツミから魔導都市まで船で帰るとして、通常の船旅でどれだけ時間がかかるだろうか? それまでの間に連中に動かない保証はない。何せ向こうは変わらず飛空船に乗っているんだ。戻っている間にまたあの空中要塞みたいなのが復活しましたじゃ、話にならない……!


「だから部品を呼んだよ」

「部品を、呼ぶ……?」


 一体どういうことだろうかと疑問に思っていた時だった。




「────失礼するぞ」




 その言葉とともに部屋に入ってきたのは、なんとゴッフさんであった。


「えっ!? ゴッフさん!? どうしてここに!?」


 確か襲撃があったグントーの首都コヤミで復旧作業の手伝いをしているって話だったが……


「お前たちがこの島にいると飛空船から連絡があってな。コヤミの復旧もある程度は済んだし、一度情報を交換しておきたいとシドニアから言われたから来たのだ」


 どうやら俺が気を失っている間に通信装置を使ってゴッフさんを呼び出していたらしい。確かにゴッフさんの乗っている船は元々シド工房で作られた実験船であり、通信装置も備わっている。

 ……待てよ、ゴッフさんの船に俺達を乗せてもらえれば、普通の船旅に比べて断然早く魔導都市まで戻れるんじゃないか……? もしかしてそのためにこっちに呼び出したのか?


「やあやあやあ、よく来てくれた、ゴッフさん。話し合いはこの場でやっているから気楽な気持ちで参加してくれ」

「う、うむ。そのつもりだが……いや気楽にというのは話題的にちょっと難しくないかね?」

「ついでだ。ボクは今からキミ達の船のメンテナンスをしておくから、話し合いが終わった後も長旅の疲れを少しでもゆっくり取るといい」

「そ、そうか。いやもちろん船は大事に使っているが、専門的なメンテナンスを大事だからな。よろしく頼むぞ」

「ああ、もちろんだとも。大事な大事なボクらの技術の結晶だからね」

「あっ……」


 ニアがさっき言っていた『呼んだ部品』というのが何なのか、わかってしまった。


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― 新着の感想 ―
書籍が面白くてここまで一気読みしました。 更新楽しみにしてます!
呼ばれた飛行船くん可哀想…
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