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第四十話

「ぎゃははは! 今日も大量だな!!」

「最近は仕事が簡単で助かるぜ!!」

「『俺達はエルロン様の先遣隊だ。金目の物を出せばこの辺りを飛空船の爆撃から外すようにしてやろう』って言えばそれでお仕事終了だもんな!!」

「暴力なんて非合理的! 今は話し合いで解決する時代!」

「まさにエルロン様様だぜ!!」

「とはいえこの辺りはそろそろ潮時だ……ってなわけで足が付く前に移動する前の最後の宴だぁ!」

「ヒャッハー!! 酒だあッ!!」


 薄暗い森の中、焚火の近くで多くの金銭などが入った袋を確認しながら笑い声をあげる一団がいた。

 会話の内容から彼らが賊の一団であり、近くの集落から奪ってきた事がわかる。

 その成果に酔いしれて、さらには酒も入っているのか周囲の警戒も疎かになっていた。

 その隙を縫うかのように、闇に潜む魔の手が彼らへと伸ばされた。








 ────ドーモ、偽エルロン一派=サン。ハイクを読め。



「は…………?」


 そしてハイクを読む暇もなく突然のアンブッシュ=ジツによってナイフで掻き切られた賊の首から鮮血が噴き出した。心配するな、峰打ちだ。


「アイエエエ!? ニン────ッ!?」


 突然の襲撃に真っ先に気付き騒ぎ出した男の口は、闇の中から打ち出された一矢によって塞がれる事となった。


「頭に矢が!? 一体どこからッ!?」


 ただの賊にしては規模がデカい集団だが、突然の奇襲にどこからか的確に撃ち込まれる矢によってすぐに平静を失い、この場から逃げ出すという思考が浮かぶ前に広範囲に放たれた雷撃によって制圧された。

 痺れて動けなくなったものの口を動かす余力は残っていたのか、賊の数名が思い思いに叫びをあげていた。


「て、テメェらいきなり襲い掛かってきやがって……! 一体何が目的だっていうんだよ……!?」

「まずは、話し合いで解決しようって考えは、テメェらにはねぇのかよォッ!?」


 話し合いだなんてそんな野蛮な……ここは穏便に暴力で…………そう言いながら俺は鉈を振り下ろした。


「野蛮なのはお前らだろぉがよぉぉ!!」



 ◆



 こうして壊滅させた野盗の生き残りを近くの街の憲兵隊に引き渡し、俺達は飛空船に乗って空の上にいた。


「今回も外れだったな」


 ため息を吐きながらそう言うアルに対して、そう簡単にはいかないと返しながらも俺自身もこの進展しない状況にやきもきしていた。


 アルカンシエルとして活動を始めてからしばらく経ったが、エルロンに繋がる手掛かりは未だに何一つとして掴めていなかった。

 最初は先史文明の遺跡や龍神伝説を行き当たりばったりに探し回ったが、結果としてはモーティスの喜ぶくらいで何の成果も得られなかった。

 飛空船の整備の合間にという名目の下で多くの遺跡を調査したモーティス曰く、どうやら先史文明は明確な身分階級制度を強いた文明だったのではないかという推論が立ったらしいが、だからといって事態が好転するわけでもない。

 また龍神伝説にしてもその殆どが眉唾物であり、実際にその土地に訪れて話を聞いてもその多くが実体のない言い伝えでしかなく、当然エルロン一派の気配もなかった。

 そういった成果のでない活動の傍らで王国を始めとしたさまざまな国や地域の協力を取り付ける事は成功していた。アルの拙い敬語にひやひやしているが、上達の様子はない。

 さらにこちらが捜索に動いている中でも奴らの無差別とも思える飛空船による町や集落への攻撃は何度も発生しており、その報せを聞いて急行した頃にはすでに手掛かりも何もない状態が何度もあった。

 そもそもとして魔導都市と飛空船の間では魔導式の通信装置によって情報のやり取りが早いのだが、この世界での遠方との情報伝達の手段としては早馬や伝書鳩などが早い部類に入るくらいなので、どこかが襲われたと報せを受けても実際の襲撃からもう数日経っているなんてこともざらにある。

 それでも人の間で噂が広まるのは想定よりも早く、最近はエルロン一派の事が広まっていて、今回のようにエルロン一派の威を借る、もしくは奴らに罪を擦り付けて集落から物品を強奪していく輩が増えているようだ。


「何がひどいって今回みたいなやつらって別にエルロンと繋がりがない野盗や山賊ばっかりって所ね」

「それが隠れ蓑となって余計に彼らを見つけられずにいるんですよね」

「とはいえ放置するわけにもいかないからな」


 個人的にはその国の軍隊やら街の憲兵隊とかに任せておきたいが、そういうのがすぐに来れない場合も多いからな。

 ちなみに今回の連中も、たまたま峰打ちしていた頭領辺りを軽く尋問したがやはりというべきかエルロンの事は何も知らなかった。


「で、なんで俺達はスカルフォーザに乗り込んでるんだ? このまま魔導都市に補給に戻るんじゃないのか?」


 飛空船はそうだが俺達四人はスカルフォーザで別行動をとる。


「別行動?」

「はい、聖都にて教皇聖下に謁見します」

「え? それ俺行く必要ある?」


 ある。ということで────スカルフォーザ、発進ッ!!



 ……というわけで、魔導都市に向かうため飛行中の飛空船からスカルフォーザが発進して早数時間。


 通常であれば数日はかかる道のりも空を進めばこの通り、もう少しで着くだろう。そう、このスカイ・アルフォン・ギョクーザがあればね。ふはははー! すごいぞー! かっこいいぞー!


「そういえばなんだけど、今回はなんで教皇さんに会いに行くんだ?」


 と、アルがここで今更な質問を投げかけてきた。とはいえエルロンの行方を追うのに必死な現状では疑問に思うのも確かな事ではある。


「教会のトップである教皇聖下に私たちの活動を認めていただければ、世界各国に存在する教会の協力を仰ぐ事ができます」

「それに教会に支持されているってだけでどう動くか悩んでいる風見鶏な国の多くもアタシたちに協力的になるでしょうね」


 その上で教会側が知る昔のエルロンについて話を聞ければいい。そしてこれらの協力や情報を基にさらにエルロンの目的や行方を絞る事ができる。


「へー、ただ会って話をするだけだけど結構得られるものは多いんだな」


 教会が持つ影響力というのはそれだけデカい。何せ世界中で信仰ならぬ浸透している宗教だからな。というか普通は教皇なんて会いたくても会えないからな。それだけで価値はデカい。

 だが個人的にはそれ以上に重要な目的が今回の会談には存在する。


「重要な目的? なんだよそれ?」


 教会側とエルロンが共犯なのかどうか、その探りだな。


「それって、教会がエルロン側の可能性があるってことか……!?」

「でも教会としては今回のエルロンの暴挙に関しては批判と謝罪をしつつもエルロン調査には協力的な立場ですよね?」


 表向きそう装っているだけ、という可能性もある。あるいはトカゲの尻尾切りか。

 協力的な立場を装いつつもエルロンの行方をうまく誤魔化している場合もなくはない。あるいはエルロンの動きと連動して何かを企てている可能性もゼロではないし、たとえ教会としてはちゃんとシロでも一部の上層部がクロである可能性もある。

 とはいえ疑い出せばきりがない。アルとクリスはその辺りの事を気にせず会談にあたってくれ。変に疑っているのが相手に察せられるのが一番困る。


「お、おう。わかった」

「が、ガンバリマス!」


 疑うのは俺とアンナでやっておくから安心してくれ。本当はその辺りの事はアンナに一任しようと思っていたんだが……


「そういえばなんで全員で向かうんじゃなくてこの四人で向かう事になったんだ? というか俺いる?」


 まあ話をするだけで何かをするわけではないから大勢で行っても教会側に迷惑が掛かるし、他にもやるべきことはあるのでそっちに手を回したいから少数で行くことになったのだ。でもお前は確実にいる。

 であれば誰が向かうべきかとなれば、教会のトップと会うのだから俺達の代表のアルは絶対として、今回の対談をセッティングして、立場的にも格落ちせず、かつ教会の事情にも詳しいクリスに、その付き人として付いて来てもおかしくなく、かつ礼儀作法にも慣れている頭脳班のアンナの三人で向かってもらうのがいいだろうと考えていた…………のだが、そこに俺が加わった四人で向かう事になった。俺は本当は行くつもりはなかったのに。


「じゃあなんで来たんだよ?」


 スカルフォーザを操縦できるヤツがニアを除いたら俺しかいなかったのだ。運転手としての同行だ。アルも操縦の仕方を覚えろ。


「ええー、お前ができるならいいじゃん」


 そういう問題じゃないんだよなぁ。できるようになって損はないから覚えておけ。今度でいいから。

 あと、基本的に俺とアンナは二人の付き人という扱いになるから教皇との会談は二人が中心に話すことになる。言葉遣いとか態度には気をつけろよ。


「げ」

「……傍から聞いてたら保護者との会話なのよねぇ……」

「ははは……」


 あと多分今回もアルは言葉遣いに苦戦してあまり役に立たないだろうから話の主導はクリスが握ることになるから頼んだ。


「ふぇ?」

「まあそれも仕方ないわよね。クリスの方が間違いなく慣れているでしょうし」


 あ、あとクリスは間違っても俺をお師匠と呼ばないように。いらぬ誤解を招きかねない。


「ふぇ!?」

「まあ聖女で王女のクリスが平民を師匠扱いとかわけがわからないものねぇ……」


 ただでさえ俺達は良くも悪くも目立っているのにその中で変に俺だけ注目を集めたくないのだ。


「それ自分だけ面倒事から逃げたいだけじゃないの」


 そうとも言う…………と、そうこうしている内に聖都が見えてきたぞ。


「お、どれどれ」


 視線の先に見えてきたのは、『白亜の街』と称するに相応しい光景であった。


 聖都セイリオス────セイリオス聖教国の首都にして唯一の国土である最古の城塞都市であり、多くの巡礼者が訪れる聖地でもある。

 星光教会の大本山というだけあって信仰に篤い場所ではあり、大聖堂や治療院などのいかにも教会という施設が有名ではあるが、巡礼者向けの宿場町や土産屋などの商店、さらにいざという時に都市内だけで自給自足ができる程度の畑や牧場など教会関係以外の産業も盛んに行われている。

 そして街の中心には大聖堂を内設した白亜の城が存在し、その城に色彩を合わせるように街並みも白を基調としたものとなっているため、前述した『白亜の街』の名に恥じぬ光景となっていた。


「相変わらず綺麗な街ね」

「さすがに空から見た事はありませんでしたが……」

「そういえばなんで聖教国ってここだけしか領土がないんだ?」


 星光教会として過剰な権力を持たないという意思表示だと言われている。国家という形態をとっているのも世界中の信徒を護るためにそれぞれの国と対等に話ができるようにだとか。

 実際、先史文明崩壊後の有史以来最古の組織にして国家であり世界中から信仰を集めているにも関わらず、組織としての腐敗が外部から見える範囲では見当たらないというのは凄まじい事である。


「で、どこに降りるんだ? 城か?」


 できればそうしたいが、着陸できる所があるのかわからない。場合によっては街の外で降りないといけないが……


「あ、確か大聖堂の傍に飛空船用の発着場があったはずです」


 おっ、それならそこに着陸しよう。飛空船が停まれるならスペースとしては余裕だろう。そう、このスカイ・アルフォン・ギョクーザならね。


「時々フルネーム言ってキメ顔するのやめなさい」


 そんなこんなで土地勘のあるクリスの指示に従いながら大聖堂の発着場へと着陸した。それにしても空中での発進からここまでの危なげない操縦……俺の技術も上がったもんだ。


「────ようこそ聖都へ。アルカンシエルの御一行ですね」


 と内心で自画自賛している中で俺達に声をかけてきたのは灰色の髪の顔の整った若い騎士の青年だった。


「今回皆様の案内役をさせていただきます聖騎士のエドワードと申します」


 聖騎士────確か聖教国が保有する星光騎士団の中でも規範となるべき存在であり、高い実力と多くの功績、そして礼節を身に着けた一握りの騎士に与えられる称号だ。通常であれば長年騎士団に所属した者の中でも聖騎士となれるのはわずかだ。

 そしてエドワードという名前にも聞き覚えがある。確か史上最年少でこの聖騎士の称号を賜った天才の名前だったはずだ。

 この礼儀正しい受け答えから醸し出される好青年感もそうだし異例の聖騎士という常識外れさも相まってアルと同じく、しかしまた違った主人公味を感じる……


「時間も限られている事ですし、さっそくご案内いたします」


 などと考えている間に互いに簡単な自己紹介を終え、エドワードの先導の下、大聖堂の中へと足を踏み入れる。


「そういえばなんであそこに俺達が来るってわかったんだ、です? 今日っていうのはともかくどこから来るかとかは知らせてなかったんだ、しょう?」

「無理に敬語にしなくてもいいですよ」

「本当か? だったらそっちも楽に話してもらっていいぜ。で、なんでわかったんだ?」

「ではお言葉に甘えて。それは君達が飛空船を所持しているというのもそれで忙しく飛び回っているというのも聞いていたので、来るのなら空からだろうと推測していたんだ。とはいえ飛空船ではなくまさかあのような特殊な乗り物だとは思いもしなかったが。あれは魔導都市で作られたものなのか?」

「えーっと、あれはなんと言うか……」

「そうだともいえますし、そうじゃないとも言えますね……」


 先史文明の遺産ではあるが、ニアによる改修がこれでもかというくらいに加えられているからどちらともいえないのだ。何だったら動力部総とっかえしているわけだし。


「ふむ、何やらややこしい事情があるようだな。やはり君達には興味が尽きないな」

「興味がって……俺達の事知っているのか、です?」

「ああ、【アルカンシエル】の噂はこの聖都にいてもよく聞くよ」

「私たちの噂がここにまで……ちなみにどういった噂が?」

「そうだな……っと、その辺りはまた次の機会にしよう。丁度目的の部屋に着いたことだし」


 さわやかな笑みを浮かべながらそう口にしたエドワードはその扉の前で足を止めた。どうやらこの扉の向こうに目的の人物がいるようだ。思ったよりも近かったな。


「失礼します。アルカンシエル御一行をお連れしました」

「どうぞ」


 エドワードがノックをして声をかけると、中から温和な声で返事が返ってきた。

 声に従いエドワードが開けた扉の先はどうやら応接室のようだった。その部屋にはカソックを来た長身の男を傍らに立たせた車椅子に座った老爺が柔和な笑みを浮かべていた。



「ようこそ聖都へ。歓迎いたします」



 彼こそが聖教国の国家元首にして星光教会のトップに立つ教皇グレゴリウスその人である。

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― 新着の感想 ―
忍殺語が通用するって転生者なのか転生者からの文化汚染が酷いのか・・・
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