第三十七話
領主殿改めアンナパパから魔導都市が俺達を支援する条件として提示してきたのは、アンナが魔導師となりそのアンナが俺達についていく事だった。
独立勢力になるかはともかく、ひとまずの目標としては『アンナが魔導師になる』で確定だろう。
さすがのアンナとはいえ魔導師になるまでに時間がかかるだろう。その間に俺達は色々と情報を集めたり鍛えたり学んだりとやる事は多い。
そうこうしている間に、一年もの時が流れた。
さすがのアンナとはいえ、魔導師の試練は一筋縄ではいかなかったらしく、この一年のほとんどをこの魔導都市で過ごす形となったが、それも俺達の足場を踏み固めるための時間と考えれば必要だったと言える……
「何言ってるんだお前?」
「まだあれから数日しか経ってないじゃないか」
「早くもボケたかネ?」
……うん? 体感的にはもう一年近く経っている気がするのだが……間違ったかな?
「間違ってんだよ」
……うん、そうだよね。まだ一年も経ってないよな。そのはずだよな。
じゃないとシド工房の一角でアルやテル、モーティスらとこうして賭け事に興じて居られるはずもない。
わかっている。わかっているんだ。でもそう考えないと理解が追い付かないのだ。あるいは聞き間違いだった可能性もあるのか。
では……何やら気疲れしたようなアンナさん、先ほどの言葉をもう一回お願いします。
「だから、魔導師の試練大体終わったわよ」
…………うん、終わるの早くない?
魔導師の試練ってものすごい難関なだけど、そんなあっさりクリアできるものなの?
「ならアンナはその魔導師ってのになった事?」
「まだよ。最終審査のために論文提出をしないといけないの」
ああなんだ。まだ終わってなかったのか。ならおかしくはない、のか……?
「なぁ、そもそも魔導師ってなんだ?」
これだからアルくんは~……とは言えないんだよな。さすがに魔導師に関しては知っていて当然の一般常識だとは言えない。
そもそも魔導師以前に魔導関連の用語に関しては初耳な事が多いだろうから、本職もいる事だしざっくりと説明するとしようか。
「一般常識じゃないのにアンタは知ってるのね」
まあ興味があったので軽く調べた時があったのだ。魔導師という響きに惹かれてな……
「まあ、わからなくはない」
「名前からしてかっこいいもんな」
「憧れる気持ちはわかるヨ」
「わからないわ」
男の子には理解を得られたところで簡単に説明すると、『魔導師』っていうのは魔法職の内の一つである。
「それはまあわかる」
「これで魔法関係ないって言われたらどうしようかと思ったよ」
そもそもとして所謂魔法職は大雑把に二種類に分類する事ができる。
『魔法使い』と『魔術師』だ。
「おい魔導師どこいった」
話は最後まで聞いてくれ。物事には順序があるのだ。
魔法使いは単純に魔法を使用する者全般を指す。なので初級魔法くらいしか使えない俺やアルも魔法使いを名乗れるし、回復魔法を使うクリスも魔法使いに分類できる。
それに対して魔術師は理論を以って魔法を扱う者を指す。単純に魔法を使えるだけでなく『魔導』という法則を自在に用いる『術』を持つ者を指す。もっと簡単に言えば魔法の開発・改変を理論だってできる魔法使いを魔術師と呼称する。主に魔法・魔術の研究者を指す名称であり、アンナはここに当てはまる。
そして今回の本題の魔導師とは、そんな魔術師の中でも特に秀でた存在で、その研究結果や活動結果によって認められた一握りの魔術師が任命されるエリート中のエリートである。言ってしまえば名誉職みたいなものである。
「もっと簡単に」
え、もっと簡単に? うーん…………難しいな。
魔法を料理で例えれば、レシピ通りに料理を作れるのが魔法使い、レシピ自体を作ったりアレンジしたりできるのが魔術師、さらにその中でも凄腕で画期的な新しい調理法なんかを確立したのが魔導師、と言ったところか?
「なるほ、ど……?」
「色々言ってたけど、魔法使いの一部が魔術師で、その魔術師の一部が魔導師ってだけよ」
「つまりは魔導師というのは単なる称号なわけだネ」
「それって別に特別な力を得られるってわけじゃないって事? 意味あるの?」
とはいえその称号も馬鹿にはできない。魔導師の称号は魔導研究の最高権威であり世界中を見ても何人もいない。その影響力は計り知れない。
それも含めてアンナパパはこの条件を出したのだろう。これであればたとえ俺達が独立勢力になったとしても魔導師がいるという箔が付き、アンナ自身も魔導師の称号を持つ以上軽視されることはなくなる。
「要は外部から権力でちょっかい出されにくくなるって事さ」
「で、その魔導師ってのはどうやったらなれるんだ?」
詳しくは俺も知らないが、魔術の筆記と実技の試練がいくつかと魔導の研究論文による審査があるんだったか……?
「その通りだけど、何で知ってんのよ……」
昔興味があって調べたのだ。とはいえ俺では天地がひっくり返ったとしてもなれそうにないので細かい事は知らないのだが。
「それはそうでしょ。何せ魔導師認定試練は超難関の試練よ。生半可な腕と知識じゃそもそも受ける事すらできないわ」
「じゃあどうやって受けたらいいんだ?」
一定以上の研究成果が認められたら~とか受けるためのポイントはいろいろとあるが、有体に言えば審査する側とのコネだろう。
「そこコネなのか」
「…………まあ、間違ってはないわ。私が受けられるのも魔導都市の長であるパ……父のコネだもの」
正確に言えばコネというか繋がりというか……魔導の腕がちゃんと表立って評価できるような成果を世間に出しているかどうかなのだが……野生の天才魔術師もその存在を知らなければ評価のしようがないのだ。
というかアンナの場合、単純な親のコネというよりは純粋な魔法の腕からくる評価だと思うが……
「そうだね。いくら領主殿が娘のアンナ君の事が好きだからといって権力で無理を通す人じゃない」
むしろ領主殿は実力足りてなかったら条件とか出さずに閉じ込めるタイプじゃないか?
「俺は魔法についてわからないけどアンナの魔法の腕が凄まじいものなのは理解できるぞ」
そうそう。謙遜も過ぎると嫌味に聞こえるからほどほどにしておいた方がいいぞ。
ところで、普段パパ呼びなの?
「…………!」
無言で脛を蹴られた。イツァイ……!
「ともかく! あとは論文を出したら終わりだから、たぶんそんなに時間かからないと思うしその後どうするか考えておいてね! ……テーマどうしようかしら……」
それだけ言い残してアンナは工房を後に………………論文のテーマを今から決める……?
「なあ、その論文ってのはそんなに簡単に書けるものなのか?」
いや……無理だろ。俺も書いたことないからそこまで詳しくないが普通論文っていうのは自身の専門分野からテーマを決めて資料を集めて時間をかけて検証していって……というものなのでは……?
その辺りに詳しそうなモーティスに視線を向けるが、モーティスも何言っているのかわからないみたいな表情で首を傾げていた。
でもあのアンナの言動からすると何でもない事のように言っていたし…………? え……書けるの……?
「────説明しよう」
俺達の困惑に対して解答せんとする声が上がる。
声の主はいつの間にか席についてカードを手にするアンナパパだった………………何故ここに?
「アンナちゃんのいるところに私あり」
それは普通にやめた方がいいと思います。
「冗談だよ。今ここにアンナはいないだろう?」
冗談に聞こえないんだよなぁ……確かに今はいないけども。
「それで、論文ってそんな簡単にできるもんなのか?」
「普通なら無理だね」
アルの疑問にはっきりとそう言い切ったアンナパパはシャッフルしたカードを配っていく。なんかナチュラルにアンナパパが賭け事に参戦してきた。
「ただアンナはその魔導技能と魔導的思考が卓越しすぎている。まだ論理だてられていない魔導論理を自分の頭の中だけで構築し行使したりしている。君達も見たという獄炎魔法の改変もその一つだ」
確かに普通に考えて視界一面焼野原にする魔法を単体攻撃魔法に変えるとかおかしい。
「なので極論を言えば、アンナが今まで行使してきた魔法でまだ論理だてられてないもの、例えば話に聞いた獄炎魔法の改変なんかを論文にすればそれだけで魔導師として認められるよ」
「魔導師ってそんなに簡単になれるのか?」
これを簡単と言ってのける簡単な頭で羨ましい。
いやアンナが簡単にやってのけるのを見てるとそう思えるのもわからなくはないが、やってることは簡単じゃないからな。言っていれば机上の空論を実際に行使しているようなものだからな。
「言っておくけれど、試練の結果に関してはコネも忖度も全く存在しない。私が如何に権力を振りかざそうともその点に関しては揺らぐことはない。私も含め魔導に携わる者としての誇りと矜持を以って厳正な審査が行われる。何だったら生涯全てを掛けて研究してきた魔導理論が認められずに魔導師になれないなんて事の方がざらにある。その上で、親の贔屓目を抜きにしても断言できる。アンナは試練に合格すると。それだけあの子が特別なのだと」
ふぇぇ……それってつまり逆を言えば誰かが人生全てをつぎ込んだ研究をアンナは片手間ですぐさまそれ以上の結果を成し遂げられるという事ではないか。
「そうだよ。それだけの才能があの子にはある。ただ、それを受け入れられるかはまた別の話だ」
「受け入れられるか……?」
周囲からの嫉妬とかそういうことだろうか……?
「さてね。いくら私とて、娘の心情を全て理解できるわけじゃない。ただあの子は昔から責任感の強い子だから少し抱えすぎないか少し心配というだけさ」
「ふむ、この魔導都市の長であってもそれ以前に人の親、というわけだ。独り身の爺には程遠い感覚ですな」
「独身貴族は身軽そうで少し羨ましいと思う時がありますよ。まあ今更家族を手放してまでなりたいとは思いませんがね」
「くっ、ここでこうマウント取られるとは……」
勝てるはずのないマウント合戦を仕掛けるなよ。虚しくなるだろ。
「まあ魔導師になる事が決まり切っているアンナの話はここまでにして他の話をしようじゃないか。例えば……そこのエルフの彼、テル君だったかな? 君のこれからの予定とかも気になるしね」
「僕?」
「そういえばテルは俺達と遊んでてもいいのか? なんか研究のために魔導都市来たがってたじゃないか」
それ今更訊くことか?
「今は息抜きで、これでもダークエルフの後遺症の研究に参加できるように勉強中なんだよ。魔導とやらをうまく取り込めなきゃこの街の長所を生かせないからな」
「ところでテル君が学んできたのってどの分野なのかな?」
「どの分野と言われたら外の世界で言えば、薬学ってのになるのか? 僕は集落では薬師として働いていたから」
エルフ由来の薬……なんか魔力が回復しそうな薬だな。
「は? 何言ってんだ? なんでエルフが魔力関係の薬作れるんだよ」
そうだった。現実のエルフは魔法関係ない狩猟民族だった。
「ちなみにどういう薬があるのかネ?」
「今手元にあるのなら……例えばこれは後々激痛に襲われる代わりに一時的に筋力を引き上げる薬で、こっちが死にかけの状態でも動けるようになる痛み止めの薬だ」
そうだった。現実のエルフはガンギマリな脳筋民族だった。
「それは言い過ぎだろ」
ゴリラを誉め言葉として受け取るミラがいる民族だ。言い過ぎとは言い難いだろう。
ちなみにそのミラはというと今この魔導都市における医療機関にて検査を行なっている。彼女の身を蝕んだ呪いがどれほど身体に影響しているのか、またそれを魔導都市の技術で治す事ができるのかを確認するためだ。
「極論だけど今の技術で治療できるならテル個人としては魔導都市に居つく理由はなくなるのか」
「まあそうなるかな。個人的に外の知識に興味がないわけじゃないけど……」
「とはいえ完全治癒というのは厳しいだろうね。呪いの後遺症、つまり『穢れの瘴気』に対してはこの街でもそこまで研究が進んでいるわけでないというのが実情だ」
さすがの魔導都市でもできないことはできないようだ。
「魔導都市でもダメなら教会関係にあたった方がいいのか? 瘴気関係なら神聖魔法が効くらしいし」
いやー、穢れの瘴気に対抗できるとされている神聖魔法も実際そう効き目はないらしいから教会方面でもあまり期待はできないな。
「え!? そうなのか!?」
「今までの研究から、他の魔法よりかは多少効き目がある、程度のものだと少し前に実証されたんだ。とはいえ内容が内容なだけになかなか広まってはいないんだけどね」
「でもクリスは呪霧……瘴気を消せるんだろ?」
「あれは神聖魔法じゃなくて彼女自身が生まれ持った天恵の力だよ。少ない天恵持ちの中でも【浄化】の天恵は希少性で言えばトップクラスだろうね。少なくとも瘴気を完全に消し去る方法はあの天恵以外確認されていない」
「へー、クリスの天恵ってやっぱりすごいんだなぁ」
希少性という点ではお前も人の事言えないぞ、アル。
「へ? どういうことだ?」
「アル君の【雷光】……雷を発生させ操る天恵も、クリス君の【浄化】同様に今まで確認されていない天恵ということさ」
だからこそニアもアルを実験に付き合わせているわけだしな。
それにしても、河川や雨、風など多くの自然崇拝が存在する中で不思議な程に雷神伝承が存在しないのは何故なのだろうか? あっても荒神だったり悪魔扱いで善側で描かれている事が皆無に近い。何だったら主神クラスでの信仰対象になってもおかしくないのに……うーむ?
「そんな不思議な事か? 雷って信仰するにはあんまりいい印象ないだろ」
「大抵の伝承で悪役にされているからネ。主神にするにはちょっとイメージが悪いよ」
あー、そういうもんか? 確かに俺達の村でも『悪鬼雷童』とかの雷のイメージの悪い話はあったし。でもそういうものにこそ信仰って付きそうな気もするんだが……
「『悪鬼雷童』……?」
「おい、その話はやめろよ……」
「おや、アル君は苦手そうな反応……どんな話だい?」
俺達の村にもそういう類の話があったってだけだ。大した話じゃない。
「それより! そういうお前の天恵はどうなんだよ。そっちも珍しいんじゃないか?」
俺の天恵なんて大したものじゃないさ。きっとそこら中に溢れている。
「それはそれで怖いんだが」
「確か君の天恵は【不殺】だったか……確かに多くはないが似たような天恵は記録に残っているね。有名どころで言えば、『解体人書』の著者として有名な外科医や、死人のいない猟奇的殺人事件の犯人なんかが持っていたらしいよ」
「うわぁ……」
「多分外科医の方もヤバいヤツだろうネ」
おいおい、そんな極論から判断してまるで俺までそうであるかのように決めつけないでほしいんだが。
「逆なんだよなぁ」
「というか天恵持ちってそんなにいるのか? エルフの中じゃ噂で聞いたくらいで実際に見た事ないぞ」
「安心したまえ。森の外でもそんなにいないサ」
実際地方の村とかなら一人二人いれば十分多いくらいだしな。人口の多い都市部ならそれだけ人数も増えるだろうが、圧倒的マイノリティなのは間違いないだろうし。
「ははは。ならそんな珍しい天恵持ちがいる君達の、アンナが魔導師になった後の話でもしようか」
「その後? とりあえずエルロンを止めるために動くつもりだけど?」
「そのために君達は一つの組織という形態をとる事になるだろう。王国の一部隊になるにせよ独立した集団になるにせよね」
「……その組織としてっていうけど、今までとはどう違ってくるんだ?」
うーん、今の状態でもチームというある意味組織ではあるのだろうが……簡単に言えばできる事は増えるが自由度は減るだろうな。
「その辺りがよくわからないんだよ。想像つかないっていうか……」
むぅ、今まで集団生活を意識することの少ない根無し草だったのが影響しているっぽいな。
単純に、人の意見を纏めるのは大変という話だ。
例えばだが、直感を優先したがるアルに意外と感情的に行動するクリス、情に弱いが慎重派なアンナに常識的に考える俺と、四人の意見をまとめるのもなかなか面倒だったりする。
「常識的……?」
「ハハハ、ぬかしおる」
そこに疑問を抱くな。
まあさらにそこに興味のある事しか優先したがらないニアに悪巧みしがちなモーティス、決め事を重視するミラに意外と向こう見ずなテルが加わるとさらにわけがわからなくなる。
「おい、誰が向こう見ずだ」
「帰り道把握しないまま成人の儀を受けたのは向こう見ずじゃないか?」
「それより悪巧みだなんてひどい言いがかりだヨ」
「それも間違ってないんじゃないか?」
「その辺りは置いておいて、三人いれば派閥ができるなんて言葉も昔からあるからね。それが大きくなればなるほどを纏め上げるのには労力が必要になってくるわけだ」
さらに飛空船を操る兵士たちに整備する工房の技師たち、スポンサー予定の魔導都市に王国などなど、多くの人間の思惑が入り混じってくるわけだ。そういった外部からの思惑に少なからず絡めとられてしまう
「うん、それがわからない。なんでそこで外部の思惑を気にするんだよ」
何がわからないというのか。支援をしてもらう以上その意見を聞かなくてはならなくなるのはある意味当然ではないか。でなければ面倒な事になりかねん。
「支援してもらうから意見を聞くんじゃなくて、意見が同じだから支援してもらうんだろ? それ以上に思惑を気にしすぎることはないだろ」
間違っ……てはないんだろうが……そう単純なものではないのだ。スポンサーになる者の中にはただ勝ち馬に乗るために相乗りしようとしてくるヤツもいれば、なんだったらこちらの邪魔をするのが目的だなんてヤツも出てきかねない。その辺りを見極める意味も含めて注視していなければ後々首を絞められることになるのだ。
「お前はそこらへん難しく考えすぎなんだよ」
アルが短絡的すぎるのだ……
「まあまあ、キミの意見も当然理解できるけど、アル君の言うことも正しいよ。そんな難しく考えすぎても人は巧くまとまらない。結局の所はその時々に柔軟に対応していくしかない」
まあ、アンタほどの人が言うのなら……というか宮廷の権力闘争を掌で転がしまくったと噂の『人繰の魔導師』に言われると説得力がヤバいです。
「その上で、君達のリーダーは誰になるんだい?」
コイツです。とノータイムでアルを指さす。
「え……? え? なんで俺? よくわからないけどこういうのって身分の高い人がやるんじゃないのか?」
普段身分差とか気にしないくせに……というか俺達の中で明確に身分の高いのは間違いなくクリスだが、今回の目的を考えればクリスは絶対にトップにはできない。
「何で?」
「姫様が組織のトップになったら結局王国の傘下と同義じゃないか」
まあ王国傘下に入るなら形式的にはそれでもいいんだが、たぶんクリスが嫌がるだろう。王国傘下になったら多分クリスは安全地帯に安置されるだろうし。
「じゃあ俺よりお前の方がいいだろ?」
ありえないね。俺はトップに立つとか柄じゃない。
「イメージ的にもちょっとアレだしネ」
俺のイメージは悪くない。
それはともかく、アルは派手な天恵を持ってて人柄もよくて見た目もよくて腕も立つ。トップに据えるには申し分ないだろう。
「それ、お飾りじゃないか……?」
お飾りにしてもそうじゃなくてもトップは見栄えがいい方がいいだろ。
それに今のは対外的な理由なだけで、リーダーがお前っていうのはそれとは別の信頼が一番の理由だぞ。他の面子も同じ意見だと思う。
「うぅ~ん…………まあわかった。じゃあお前が副リーダーな」
ひょっ?
「まあ妥当だろうネ。リーダーがちゃんと思う通りに進めるように道を整える役は不可欠だしそれは君以外できないだろうし」
それ一番大変なヤツじゃん。
こうして俺達は束の間の休息を過ごしたのであった。
ちなみに雑談と並行して進んでいた賭け事は手札が酷すぎた。
ハッタリで何とか乗り切ろうにも限度がある! こんな手札でどう戦えっていうんだ!!




