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第三十二話


 エルフの森の闇落ち三獣士を連れてきたよ! 


「エルフの森の闇落ち三獣士?」


 闇を纏いし呪詛使い『ミミズァーク』! ────知恵の嘴を閉ざし羽角から呪詛を飛ばしてくるぞ! 金属製の羽角はどことなく可能性の獣を彷彿とさせてくる! 


 被食なる侵略者『P・シャーケ』! ────相手の脳に寄生して操るために食べられようとしてくるぞ! これシャーケ自体何かに寄生されてるのでは? 


 鋼鉄の狂戦士『アーマードゴリラ』! ────鋼鉄の体躯は絶大なるパワーを発揮するぞ! そのパワーはなんと純正ゴリラの0.8倍! 



 なのでミミズァークは呪詛をクリスが魔法で防いでいる間に射殺し、P・シャーケは遠くからアルの天恵で消し炭にして、アーマードゴリラは生粋のゴリラなエルフ、ミラによって完封した。


 というかサイボーグなゴリラを苦も無く完封するって、人としてどうなの……? 


「所詮アーマードゴリラはゴリラの誇りを捨てた落伍者だ。恐れるに足らん」


 なんだよゴリラの誇りって……

 しかし森の賢者の成れの果てがアーマードってどういうことだよと思っていたが、この塔が関連しているのなら納得でき……でき……できそ…………うん。


「百面相してるところ悪いんだけど、ここからどうする?」

「鉄獣や闇落ち個体との戦闘で彼奴等にも我らの侵入を悟られていると考えた方がいいだろう。全てを相手にしている余裕はない」


 俺達の目標としては奴らの頭目だろうエルロンの打倒もしくは捕縛だ。つまりまずはエルロンを探す必要があるわけだが……


「この塔を上るのはとても大変そうですね……」

「天を衝くなんて言われてるくらいに高いもんな……」


 ちなみにミラたちエルフはどの辺りまで足を踏み入れたことがあるんだ? 


「おそらくだが中腹までも行けていない。10階程度なら上にいく道があったのだがそれより上層に向かう術がないのだ」

「え!? じゃあどうやって上に行くんだよ!?」


 冷静に考えてこれほど高い建物の移動手段が階段とかの徒歩しかないとは思えない。おそらくだが、階層移動のための装置がある。動力が復活しているのならそれらも使えるようになっている可能性が高い。


「それってワープ装置みたいなやつか?」


 それは……正直わからないが、少なくともエレベーター的な物はあるのではないか? 


「だがそこで待ち構えられる可能性も高いのではないか?」


 その通りだが、自力で塔を上り続けるのも現実的じゃない。一番上までいくだけで数日かかるのはできれば避けたい。

 いや待て…………逆に、地下にいるとかに可能性はないだろうか……? 


「地下? なんで地下?」


 こんな高い塔だし頂上とか上の方に何かあると思っていたんだが、奴らの狙いが頂上にあるなんて限らない。

 逆にこれほど高い塔であればその分地下にも伸ばして支えにしていてもおかしくないし、それならその部分を何らかの施設に利用していてもおかしくはない。


「地下があるかもという理屈はわかったが、そこに彼奴等がいるという根拠にはならんな」


 それはごもっとも。とはいえ上にせよ下にせよ暫定の目標地点もなくこのまま闇雲に右往左往するのはやめた方がいいのは確かだ。

 一番いいのはこの塔内部の地図というか見取図が見つかればいいんだがな。


「地図ですか? そんな都合のいいものがあるんでしょうか……?」


 俺達にとっては未知のダンジョンだが、当時の人類が普段から利用する建物だったと考えれば塔内部の地図くらいあってもおかしくないだろう。


「そうなのか? じゃあクリスの城にも城内の地図が貼ってあったり?」

「目につく所にはないです」


 そんな城みたいな重要人物が集まる重要施設と比べられても困る。


「貴様はここが重要施設ではないと思っているのか?」


 ……………………か、簡易的な物ならあるかもだから……! 


「そうだとしてもパッと見つかる場所にはなさそうですね」

「なあ、今の段階でどこにいくかを絞るのは無理じゃないか?」

「ここでグダグダしている時間の方が勿体ない、か」


 ……仕方ない。高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に動くしかないか……


「つまりは行き当たりばったりということではないか」

「要はいつも通りってことだな」


 やめろぉ! 俺達がいつも考えなしに行動しているみたいに言うのはやめろぉ! 




 ◆




 そんなこんなで行く当てもないまま、たまに警備ロボや闇落ち賢者との遭遇戦を挟みつつ塔内を彷徨っていると、何やら道の先からかすかに話し声が聞こえてきたので警戒しながら通路の角から先を窺うと、扉の前に見張りらしき男が二人いた。見張りというにはだらけていて警戒心を感じられない。会話を盗み聞いてもやる気のない発言しか聞き取れず役に立たない。

 とはいえ見張りがいるということは、やつらの仮拠点か、あるいは奴らの目的に関係しているか、ともかく何らかの重要な場所である可能性がある。



 …………なので速攻で見張りを処理した俺達は室内に侵入、中にいた連中にもアンブッシュを仕掛け無力化する事に成功した。


「ええ……」

「どうしたクリス?」

「流れるように事が済んでいるので受け入れかけましたけど、いくら何でもスムーズすぎません?」


 俺も内心戸惑っている。けど実際驚くほどにスムーズに事が進んでいるので仕方ないだろう。それに悪いことではないし。


「一体クリスは何を戸惑っているのだ?」

「さあ?」


 とりあえず俺達の行動にクリス以上に完全に馴染み切っている新参者(ミラ)には戸惑っていると思うぞ。


「効率的に敵を処理する事におかしなことでもあるのか?」

「うーん……その思考にノータイムでついていけることですかね……?」

「そんなことよりも、結局この部屋って何なんだろうな?」


 何らかの装置とそれを操作するための端末とモニターがある、ように見える。

 パッとみただけでは何のための装置かはわかりそうもないが…………ちょっと触ってみるか。


「頼んだぜ!」


 そう楽観的に期待をされても困るんだが……ちょっと待っていろよ。

 俺は端末とモニターに目をやり、とりあえず画面に触れてみる。すると反応したのでこれはタッチ式のパネルなのだと判断してさらに触って操作していく。画面に触れるごとに表示される情報が変わっていくのでさらにタッチして画面を変化させていくことを繰り返していき…………これなら何とかできそうだな、と判断した辺りでクリスに声をかけられた。


「どうして操作できているんですか……?」


 ……? どうしてと言われても困るのだが……

 強いて言えば魔導都市で似たような装置を触ったことがある。さすがにそっちは画面を触っても反応しなかったが操作性としては似たようなものだ。むしろ感覚的に操作できる分、初心者でも操作しやすそうだ。

 ミラはわからないだろうけど二人にわかるように言えばキーボードと画面が一体化しているみたいな感じだ。

 ……あと表示される言語が前世の物と同じだったからだがこれは言わないでいいだろう。


「???」

「いやわからんぞ?」


 なん……だと……!? どうしてキーボードとかの例えがわからないんですかねぇ……? 

 ま、まあいい。ここは掲示板のスレ荒らしで鳴らした俺の腕の見せ所だ。もう少し待ってろ。


「その『すれあらし』が何なのかはわからんが碌な事ではないのは察した」

「とりあえず周囲を警戒しておくぜ」

「やっぱりお師匠はすごいです……けど真似できる気がしません」


 むしろここは努力次第で真似できそうな所だと思うが……まあいいだろう。よく考えれば王女にも聖女にも別に必要のない能力だし。


 それからしばらく画面を弄っていたのだが、なんとなく操作感がわかってきた所であるデータを見つけた。

 これは……なるほど? 


「む、何かわかったのか?」


 えー、ではまずはこちらをご覧ください。


「どれどれ……なんか、画面に棒状の物体が映ってるんだけど、なんだこれ?」


 これはこの塔のざっくりとした全体像だな。光っている部分が現在機能しているフロアらしい。


「上の方が暗くなっているような……?」


 暗く表示されている塔の上の方は機能が起動できていないようだ。詳しくはわからないが、たぶんエネルギーの供給が暗くなっている上の方に行ってないっぽい。かといってシステム的に止められているわけではなくて無駄に漏れ出している感じなのを見るに……


「何言ってるかわかんねぇ。もっと端的に言ってくれ」


 結論から言うと、たぶんこの塔、上の方で折れてるな。物理的に存在しなくなっているからいくらエネルギーを送っても反応がないのだ。


「何っ!?」


 一応言っておくがたぶん折れたのは最近とかじゃなくて木龍が巻き付いた時とかのずっと昔の事だとは思うが……そこはどうでもいい。

 今わかったのはここが塔のエネルギーを管轄する端末の一つで、ここを操作する事で塔の動力を操作できるっていうことだ。

 エルロン一派はここで塔全体にエネルギーを行き渡らせて灯りを付けたんだろう。


「ではここでそのエネルギーとやらを止めれば彼奴等を封じ込められるのではないか?」


 できるかもだが、ここはあくまで動力をオンにできる一地点に過ぎなくて上の方に操作権限とかが集約しているコントロールルーム的なのがあるっぽいのでたぶん無駄だな。こっちで止めても上で復活させられる。ここに見張りを置いてたのはあくまで保険だと思われる。


 逆に言えば、奴らはそのコントロールルームに陣取っている可能性が高い。


「そのコントロールルームってのはどこにあるんだ?」


 ちょいと待てよ。えーっと…………この塔の上部、折れてる箇所のすぐ下辺りだな。


「そこまでの行き方は?」


 えーっと…………直通のエレベーター、昇降装置はないけど、何個か経由したら行けそうだ。待ち伏せされている可能性もあるが、目的地もなくふらついてた先程までよりかはまだマシだろう。


「細かいことはわからんが、とりあえず奴らがいるかもしれない部屋がわかったのはわかったぜ」

「何故此奴はこの短時間で禁忌の技術を使いこなしているのだ……!?」


 魔導都市の発展版だと考えれば何とかできた。多分魔導都市の専門技師が来たらもっとわかると思うぞ。


「魔導都市とやらはそこまでここの技術に迫っているのか……!? 明らかに危険な場所では……!? テルを行かしても大丈夫なのか……!?」


 ミラがなんかいけない方向に考えが行ってそうなのでそうなる前に出発しよう。警備ロボとかエルロン一派が来ないとも限らないからな。


「そうだな。エルロンたちに会う前に無駄に消耗するのは避けたいもんな」

「では行きましょう。ミラさんも行きますよ」

「あ、ああ。了解した」


 ……それにしても、画面に表示される言語が前世の物だとすると、文字まで同じとなると文明発起時点で転生者いることになるぞ……しかも文明の根幹ともいえる重要人物に。先史文明にも転生者がいると思っていたけどこれはさすがに予想外だ。

 というか今まで足を踏み入れた先史文明の遺跡の文字はまた違っていたんだが、ここの文字と違っていたのも気になる。もしかして今までの遺跡とここの塔はまた別の文明……? 一緒くたにされている先史文明は実は複数混じったもの……? あるいは先史文明も地域とかによって使用言語が違っているとか……? 

 うーん……わからん。そもそも俺みたいな素人が片手間で考えたってわかるはずないんだし、その辺りはモーティスとかの専門家に任せよう。




 ◆




 こうして俺達は目的地を定め行動を開始したわけだが……



「────光よ迸れ! ソーラーレイ────!!」

「うおぉっ!? あっぶねぇな、お返しだ! ────飛べ、雷刃────!」


 敵の手先から放たれた光弾がアルの剣撃によって防がれ、返す刃で飛ばした雷の斬撃で敵を切り裂いた。

 少しでも対処が遅れていればやられていたのはこちらだったかもしれない。そんな相手であった。


「いや、天恵持ち多すぎるだろ!!」


 そう、そんな相手との戦闘がこの道中何度も発生していた。


 敵と遭遇するということは敵の本丸に近づいていることを意味するので悪いことではないのだが、それにしても天恵持ちの多いこと。

 警備ロボや闇落ち賢者が奴らの支配下でないようなのでよかったが、そいつらや【穢れの瘴気】のことを考えるとじっくりと情報を吐かせる(おはなしする)暇もないのが痛い。


「おはなし……うっ、頭が……」

「敵に囲まれる可能性もある故仕方ないな」

「コイツ、真意を捉えた上で肯定的な発言してるぞ……怖っ」


 だがエルロン一派との遭遇頻度的にも近付いているのは間違いない。俺達が目標にしていた部屋も今倒した奴が守っていた目の前の扉を開けた先だと考えれば、敵の拠点がそこなのも間違いないだろう。


「つまり敵さんもこっちに気付いているわけだよな」


 まあ部屋の前で戦闘していたらな。中から援軍が来ないのが不思議なくらいだが……


「考えている暇はなさそうだな」

「待った所で状況が好転するわけでもなし」

「いつでも大丈夫です」


 息を整えた俺達はその扉を開き、その先へと足を踏み入れた。





「────ようこそ。浄化の姫巫女一行、待っていたよ」




 その先の開けた空間にて一人待ち構えていたのは、カソックを身に纏ったスキンヘッドの男、エルロンその人であった。



「君達がここに来るまでの戦闘、全てとはいわないがいくつか見させてもらった。素晴らしい力を持っているようだ。ダニーが敗れたと知った時は驚いたが、それがまぐれではないと確信したよ────っと」


 悠長にこちらに語り掛けていたエルロンの顔面目掛けて飛来したミラの矢は、目標を刺し穿つ目前でパシッという軽快な音とともにエルロンの手の中に握られていた。


「気が早いな、エルフの女。会話をしようという気はないのかね?」

「会話もなく我らが聖地を踏み荒らした貴様が言うか……!!」

「全く。ここには貴重な機器も多いというのに、血の気の多いものだ」


 ミラの怒りもわかるが、一度冷静になった方がいい。

 部屋に入って中にいたのがエルロン一人だった時点で正直、『勝った! 第三部完!』くらいには思ったが、そう甘い相手ではなかったらしい。というか……


「貴方は、本当にエルロン卿ですか? 今の貴方の言動は私が知っているエルロン卿とはあまりに違いすぎます」


 クリスも俺と同じ疑念を抱いたようだった。

 俺の聞いたエルロン卿という人物は、その政治手腕によって得た権力で身を肥やし、溜め込んだ財と権力によって酒池肉林の贅沢三昧、自身をよく見せようと誰かを貶すことも少なくなく、典型的な成り上がりの生臭坊主という散々な人物評だったが……少なくとも飛んでくる矢を見切れるような人物ではなかったはずだ。

 それに偽王(ダニー)という前例もある。別人が成り代わっていたとしても不思議ではない。


「ああ。私はそのエルロン本人で間違いない。ただ巫女君が見てきたそれはここ十数年、私が人前に出ていた時にしていた擬態、演技だというだけだよ。といっても君達が倒したダニーのような他人に成り代わっているわけではない。故あって、敢えて私が思う愚物像を演じていた」


 言われて見れば確かに、権力に溺れる成り上がりみたいな要素の塊だ。俺の聞いていたエルロン像と一致する。

 だがそれをあえて演じていたというのが解せない。わざわざ人から嫌われるタイプの人間にあえてなっていた理由が思い浮かばない。


「なのでそんな愚物である必要のない今はとても清々しい。見るに堪えなかった身体も少しはマシになったと思わないかね」


 だがどちらにせよ今までのエルロンの人物評とは違うというのは間違いないのだろう。以前見た時は運動不足にしか見えなかったエルロンの肉体だが、明らかに引き締まっているように見えるし、矢を見切って防いだことも含めて、別人だと考えた方がいい。


「では貴方は一体何をしようとしているのですか……? 自分の望まざる虚飾を行ない、これまでの非道な行為をしてまで何を成し遂げようと言うのです?」

「端的に言えば『世界を在るべき形に戻す』事。それが我が使命だ」

「世界を、戻す? それは一体……?」

「別に教えてもいいのだが……そうだな」


 クリスのその疑問に対して、エルロンは少し思考を巡らせるような素振りを見せた後、逆にこんな問いかけを投げかけてきた。




「────提案だ。我々の同志とならないか?」




「何……?」

「一部を除いてだが、君達には我々の同志となる資格がある。同志となった暁には私は私の知る全てを君達に伝えよう。どうかね?」


 ふむ……ここで口だけ承諾して後で『騙して悪いが』してもいいのだが、それをやる前にミラが爆発しそうだしな……


「────ふざけんなよ」


 ……そう思っていたが、怒り心頭のミラよりも先に口を開いたのは、アルであった。


「クリスの父親を殺して、国乗っ取ろうとして、世界に戦争吹っ掛けようとして、失敗したら騙してた兵士は殺して、奪った飛空船でテロみたいなことしでかして、エルフの人達が大事にしている場所を占拠して……その上で詳しく知りたければ仲間になれ、だって? 






 ────そんな提案、呑むわけないだろうがッ!!」




 そうしてアルは心の底からの叫びを叩きつけるとともに剣を抜き、その切先をエルロンへと突きつけたのだった。




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[一言] オービタルリングに繋がる軌道エレベーターだったんか?ここ 闇落ち三獣士が管理・整備担当に見えて来るんだが(明後日の方を見ながら
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