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第一話

 気付けば新たな生を受けていた。よく物語とかで見る異世界転生という奴である。


 経緯は全くわからない。何せ転生と言っても前世での具体的な記憶はなかったからだ。


 前世での常識だったり知識だったりは一部覚えていたりするが、自身の記憶に関してはほぼほぼ覚えていなかった。死に方はもちろん、その時の年齢や性別すらもわからない有様である。とりあえず男だったと思うのだが……確信は持てない。


 まあ思い出せない事は置いておこう。


 転生した世界はどうやら創作でよくあったファンタジー世界に近いようで、魔物や魔法なんて心くすぐる存在もある。この辺りもよくあるラノベのようである。冷静に考えるとゾッとしてしまうが、考えるだけならワクワクするので深く考えないことにする。


 ただラノベなどでよくあった異世界転生物とは違って、俺には所謂転生特典と呼ばれるような特別な能力や才能などは与えられなかった。

 いや、もしかしたら神様から与えられると言われている【天恵(ギフト)】と呼ばれる能力を一応は授かっていたのでそれが転生特典だったのかもしれないし、家庭環境も平凡だが時代背景を考えれば十分に恵まれたものだったから、まったく優遇されていないというわけではないのかもしれない。その辺りに転生が関係しているかまではわからないが。授かった【天恵】もそんなに使えるようなものでもなかったし。



 が、それ以上に俺の幼馴染がずば抜けていた。



 剣を習えば俺が剣を振るのに少し慣れた頃には教師役と剣を切り結べるようになり、魔法を習えば俺がライターくらいの火を出せるようになった頃には火の玉でお手玉をできるようになっていた。

 さらに恐ろしいのはまだ発展途上でソレという辺りだ。

 ちなみに【天恵(ギフト)】も俺がそんなに大したものじゃなかったのに対し、幼馴染の天恵は【雷光】。電気や雷を操る凄まじいものだった。将来ザムデインとか使いそう。


 おそらくコイツはこの世界におけるバグみたいなものなのだろう。そう思わなければやっていけなかったとも言う。


 そんなバグな幼馴染を相手にただ腐らない程度には俺も負けず嫌いだったようだ。

 もちろん無理な努力はしたくない。適度に頑張って適度に裕福に生きて行ければそれでいいとは思うものの、幼馴染に負けっぱなしというのは悔しい。負けたくないという対抗心が芽生えるほどには童心に戻っていた。

 とはいえ真っ向からの競い合いで勝てるわけもないので、前世の知識をフルに活用して卑怯・奇策を駆使して対抗していた。まあ奇策とはいっても子供だまし程度のものだが、相手はまだ子供なので何とか通用した。

 なお心が折れていないとは言ってない。何度心を折られたことか。まあ慣れれば問題はない。なぁにかえって耐性が付く。


 ちなみに幼馴染のアルことアルフォンスは男で、もちろん俺も男である。

 異世界転生物ならばここは異性の幼馴染がくるべきではないだろうか。そう考えてしまう俺は少しダメなのかもしれない。



 ◆



 生まれ故郷は周りを山の一部を切り拓いて作られただろう田舎の農村だったのだが、学校というものは当然のごとくない。

 ただ村にある教会で日曜学校みたいな感じでたまに村の子供が集められて神父から勉強を教わったり、村に住む魔女の婆ちゃんが魔法について教えてくれたり、どこかの兵士だったらしいおっちゃんが戦い方を教えてくれたりと、環境には恵まれていた。もしかするとここは魔王に対する勇者(抑止力)を育てるための隠れ里ではないかと疑う時期もあったくらいだ。


 さて、村長がやり手なのか領主が善良なのか、そもそも支払っていないのか、この村が税で苦しいという話は聞いた事がないが、そろそろ将来の事も考えていかねばならない時期だろう。

 俺の家は先祖代々猟師として生計を立ててきたらしい。俺も猟師の息子として親父たちと共に狩りに出てそれなりの経験を積んでいるので最初は漠然と俺も猟師として生きていくんだなと思っていたのだが、最近になってこのまますんなり猟師になれるとも思えなくなってきたのだ。

 というのも猟師は野生の動物を狩るのが仕事だが、生態系にはバランスというものがある。その場限りならばともかく、狩場は脈々と未来の子孫にも受け継がれていく以上、獲物が狩場からいなくなるなんて事は避けねばならない。故に獲る数は調整する必要がある。獲物は自然と増えるが、全てを狩りつくせばさすがに増えられなくなるからだ。……そんな考え方が今の時代にあるのかはわからないのだが。

 しかしそれはつまり稼ぎの上限が決まってしまっているという事であり、猟師の数が増えればその分取り分が減っていく事になる。

 ちなみにだが俺の家は四人兄弟で兄兄俺弟という構成だ。つまり子供だけで男が四人いる。さらに言えば一番上の兄は既に結婚もしていてさらには子供もいる。そこも含めると結構な大家族である。

 すでに狩場に対する利益の限界が見え始めているんじゃないかという中で、将来的にさらなる競争相手が来ることが目に見えている。

 このご時世、生まれた子供が全て成人するとは言わないが、そこで食い扶持を取り合う事になるのはやめておいた方がいいだろう。


 ならば村長とかに他の仕事を斡旋してもらうかになるのだが、森を切り拓いて作った隠れ里じゃないかと思えるような村である以上、農地自体そう多くないし、基本自給自足で成り立っていて経済自体ほぼほぼ回っていないような村だ。手の足りない仕事というのもそう多くないだろう。それでも何かしらの仕事の紹介はしてもらえるだろうが。

 となると村を出る事になるが……正直将来への魅力や選択肢が一番多い道だが、具体的に何をするかが問題である。

 この中からだと、どうするかと考えていると、幼馴染のアルが一つの道を提案してきた。


「なあ、俺と一緒に冒険者になって旅に出ないか?」


 冒険者────採集依頼から討伐依頼など幅広い仕事が舞い込んでくる、よくあるファンタジー世界における何でも屋みたいな職業だ。前世の職業で例えるならフリーターが一番近いのかもしれない。


 なので成功するかしないかでその立場に雲泥の差が生まれるのだが……まあ確かにアルであれば大成できるような気がする。この世界の広さを知らない身としては断言はできないが、コイツなら勇者みたいな存在にもなれるんじゃないかとも思う。それくらいには信頼している。

 というかアルが実は大した事がないとなると世界の基準がどうなるのか怖くて仕方ない。


「冒険譚にある勇者みたいになりたいってのもあるけど、それより俺は世界がどれだけ広いのか見てみたいんだ」


 アルには両親がいない。赤ん坊のころに森で捨てられていたのを神父が見つけてそのまま引き取ったのだそうだ。

 親子同然の関係である以上、村の教会を継ぐこともできるだろうに。


「俺は別に神父って柄じゃないしな。そこまで神の教えってヤツに熱心にはなれないんだよな」


 まあ、昔からアルは物語に出てくる冒険者に憧れていたのでそう考えるのはわからなくもない。

 しかし何故俺を誘うのか、それがわからない。俺は別に特別スゴイというわけではないし、アルならば何だかんだで人が寄ってきそうな気がする。


「何でって、昔っから冒険者になるなら絶対お前は欠かせないって思ってたからだよ。俺の冒険にはお前が必要なんだ」


 こういう恥ずかしい台詞を臆面もなく口にできる辺り天性のイケメンである。顔だけでなく性格までイケメンとか、やはり勇者かコイツ。

 しかし嬉しいことは嬉しいのだが、出来ればそういう台詞は異性から言われたかった。


「異性って……この村じゃ相手のいない女は俺たちより年下のちっこいこどもばっかだろ」


 わかっている。村の女性で年上は既婚者ばかりである。同年代の女子などおらず、一番年の近い女子も手を出せばロリコン認定間違いなしだ。村から出た事のないアルにとって手の届く異性=幼女の方程式が成り立つわけだ。さらにアルはチビ共にすごく懐かれている。……つまりアルはロリコンという事では? 


「失礼な事を言うな。違うに決まってるだろ」


ええー?ほんとにござるかぁ?


「当たり前だろうが。というかそういうお前はどうなんだよ」


 村を出た事のないアルと違い、肉や毛皮を街に卸しに行ったことのある俺は決してロリコンではない。どちらかといえば年上趣味である。

 ちなみに俺の初恋はお姉ちゃんと慕っていた教会のシスターで、「将来お姉ちゃんと結婚するー」とまで公言していたくらいだ。割とガチだった。

 なおそのシスターは神父とくっ付いた。今では一児の母である。クッソっっっ! ちなみに昔に比べて色気は増している。艶やかというか何というか……シスターと人妻が交わり最強に見える。エッッッッッ!! 


「おい、人の姉貴分兼母親代わりをそんな目で見るなよ……せめて口には出すなよ」


 心の中まで規制させられるのはヒドイと思うのだが…………まあ安心してほしい。俺の嗜好にNTR属性はない。せいぜいシスターの妄想で自身を慰め、その後枕を涙で濡らす程度だ。


「むしろそっちの方が嫌なんだが……というか吹っ切れてないだろ」


 そんなことはない。幸せそうなシスターの姿を見て彼女を祝福する感情と一緒に胸の奥から名状しがたい感情が湧きだして来て無性に泣きたくなるくらいだ。大丈夫だ、問題ない。


「うん、何かさっきとは別の理由でここから連れ出した方がいい気がしてきたわ」


 それは一体どういった理由なのか問い質したい。小一時間ほど。


 ……まあそれはそれとして、一つお前に伝えなければならないことがある。


「ん? 何だ?」


 冒険譚などでも出てくる『冒険者』だが…………


















 ────この世界には存在しない。



「…………えっ!?」


 普通に冒険譚とかの物語とかにも当たり前のように出てきたりするが、実際に冒険者という職業は存在しないのだ。


「ないの!?」


 ない。


 そもそもとして国の後ろ盾もなしにあらゆる国の境界を越えて身元を証明しその権利を行使する事ができる団体がない。

 強いて言えば教会ならできるだろうが、その教会もそれぞれの国の権力やら根強い信仰やらと結びついているからこそ認められているに過ぎない。そもそも教会も本拠地を聖教国として樹立しており、国としての権力を振るう事で信徒を守っているとも言える。

 身元不詳の集団を国関係なく率いている団体など、国としては権利を認めるどころか叩き潰す対象でしかないだろう。テロ組織的に考えて。


「うーん、夢が崩れる……!!」


 とはいえ物語の冒険者に近い事は出来る。街や村を巡って、日雇いの仕事やら商人の護衛やら傭兵の真似事などをしていけば、それで旅を続けて行けるだろう。

 自分の好きなように生きていけるという辺りは自由で好感が高いが、リスクは物凄く高い。

 大きな後ろ盾がない分苦労は多いだろうが、


「うーん……ならそれでいいや」


 かるいな。いや、いいのか。


「いや、さっきも言ったけど俺は世界を見て回りたいってのがデカいし……で、お前はどうする?」


 まあ……それも面白そうだし、着いていく事にしよう。

 アル一人だと外で騙されてひどい目に遭いそうだし、そうなったらシスターに顔向けできない。あ、でもシスターとも会えなくなるのか……。それは精神的に堪えそうだ。


「おうちょっとそこから離れようか」



 そんな馬鹿話をしながらも、俺はアルと共に世界を巡る旅人となる道を選ぶのだった。



 ◆



 世界を巡る旅人(無職)となる事を選んだ俺たちは成人と認められる年齢になると、村を出てまず近くの街に向かう事にした。

 俺たちの村から近くの街までは徒歩で2日ほど歩いた所にある。獣道を通って山を下り森を抜ければ街と街を繋ぐ街道が見えてくるので、そこで運よく馬車に相乗りさせてもらえれば多少の時間は短縮できる。……やはりうちの村、隠れ里では? 


 今まで村から出た事のなかった完全におのぼりさんなアルに対し、俺は狩りで得た肉や毛皮などを卸しに街に来た事が何度かあったので、その辺りまでは社会の先輩面して案内できるだろう。


 今回は運よく行商の馬車が通りかかったので、交渉をした所、乗せてもらえることになった代わりに護衛を頼まれた。

 今は積み荷とともに荷車の一つに乗り込み、後方の警戒を任されている。


「流れるように馬車の護衛に……さすがというか……」


 これくらい普通普通。とはいえ何やら不審な点が多い気はする。


「というと?」


 街から街へ渡り歩く行商として、規模があまり大きくないとはいえそれでも護衛の数が少ない。魔物や野盗があまり出てくる地域でないにしろ商人が金になる物を運んでいるわけだ。もしもの時を考えるとこれでは対応できそうにない。

 かといって警戒心が低いわけではなかった。最終的に護衛を頼まれたが、最初は声を掛けてきた不審者の俺たちに対して警戒心バリバリだった。


「不審者って……いや彼らから見たらそうなのか?」


 あとペースが早い。急いでいるにしても大分ハイペースだ。

 このペースでいけば今日中に街に着く可能性すらあるが、馬車を引く馬がもたないだろう。ちなみに基本的に日が沈んだ後は街には入れない事が多い。

 旅慣れていないにしてもこんなミスはしないだろうし、そもそも話をした感じ旅には慣れているように見えた。替えが効くとはいえ、馬もタダではない。にもかかわらず、馬を潰しても構わないという考えなような気もする。


「……よくわからないな。結局どういう事だ?」


 厄ネタの気配だよ、やったねアルちゃん! 


「どういうテンションだ」



 ────……ォォォォ…………



「……ん? 今何か聞こえたような……」


 ……ああ、成程。そう言う事か。

 俺は『遠視』の魔法を使ってその存在を確認した。


「どういう事だ?」


 護衛が少なかったのではなく、少なくなってしまっただけで、俺たちを雇ったのも数合わせ的な苦肉の策というヤツだったわけだ。

 そして彼らは逃げ延びたが、追い付かれる可能性を考えて無理をしてでもペースを上げて街に着こうとしていたわけだ。例え馬が潰れたとしても命あっての物種だと考えて。今回は運悪く追いつかれてしまったというわけだが……


「つまり?」



 ▽ ゴブリンライダー の 群れ が 現れた ! というヤツだな。



 まだ距離はあるが、野犬を乗りこなしたゴブリンが群れ成してこちらに向かってくる。明らかにこの隊商が狙いを定められている。速度は奴らの方が上だ。

 いくらゴブリンがそこまで強くない魔物とはいえ、あれだけの数になれば腕自慢の護衛でもどうしようもなかったというわけだ。

 しかし何でこんな所にあれだけの数のゴブリンライダーが……? 


「なるほど。で、どうする?」


 ここは任せた。俺は御者と雇い主にこの事を伝えてくる。


「了解。任された」


 アルが剣を抜くのを確認した後、俺は馬車の中を通って御者の後ろから顔を出し、前方の馬車にも聞こえるように大声で要点を伝える。


 ────後方より敵襲! 敵はゴブリンライダーの群れ! 数多し! 距離はまだあるモノの相手の速度の方が速し! 


「ひぃっ!? く、くそ、まさか追いつかれたのか!? せっかく生き残れたと思ったのに……!!」


 御者のこの反応を見る感じだと俺の推測はそう外れていないようだ。

 しかしそこまで悲観的になる必要はない。敵の数は多いが何とかなる。


「あれだけの数に勝てるわけないだろ!? それとも何か!? お前ら広域魔法でも使えるのかよ!?」


 俺は使えない。アルもそこまでの魔法は使えない。だが何とかなるだろう。

 その事を他の馬車にも伝えるためにもう一度声を張る。


 ────これより殲滅を開始する! 轟音に注意されたし! 


「はぁ!? それどういう────」




「────雷よ、降りそそげ────!」




 その時、後方のゴブリンライダーたちに向かって、どこからともなく雷の雨が降り注いだ。


 落雷の直撃を食らって黒焦げになる者、雷鳴に驚き暴れる野犬に振り落とされたりゴブリンどもは阿鼻叫喚の渦に陥った。


 うーん、圧巻圧巻。まるでゴブリンがゴミのようだ! 略してゴミリン。


「な、何が……!? お前の連れ、魔法使いだったのか……!?」


 否である。これこそがアルの天恵(ギフト)である【雷光】、の一端である。


 殲滅力もさることながら応用性も実は非常に高い。痺れさせるだけに留めたり、嫌がらせに静電気でバチンとかもできる。なお出力に関してはアルの匙加減次第なので怒らせすぎないように注意しよう。


「あ、アイツ、天恵持ちだったのか……」


 とはいえゴブリンの中でも雷を避けてこちらに向かってくる根性のあるヤツもいる。よくやるものだ…………この場合、根性があるのはゴブリンの方なのか、それとも実際に走っている野犬の方なのか、どちらになるのだろうか? 


「いやどうでもいいわ! そんな事言ってないで何とかしてくれ!!」


 もちろんそのつもりだ。俺も仕事をするとしよう。

 とはいえ俺は遠距離からの攻撃に使える魔法や天恵を持っていないので、弓矢を構えてアルの討ち漏らしを狙撃していく。





 ────こうして俺たちの冒険は幕を開けたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ザムデインが某グ○グルの呪文的なあれなら、正しくはザムディン(イではなく小さいィ)だったりします。
[一言] ザムディンって雷魔法じゃなくて召喚魔法や(スットボケ
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