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07. 多肉植物が好きな少女はそうそう居ない

(いや、待て! ここは捻くれた返事をしてドン引きさせるのもアリなのでは!?)


「多肉植物が好きです」

「……!」


このトリニティが住む世界にもサボテンらしきものはある。

国からずっと南に行った乾燥地帯だ。

名前までは分からないが、これだけは分かる。

この年齢で多肉植物が好きな少女はそうそう居ない。

ド定番といえば薔薇に百合にガーベラ、マーガレット等々、美しい花は沢山あるのだが、敢えての多肉植物である。


上手くいけばこの話は盛り上がる事なく終わるはずだ。

それにこの国にないので、これ以上話は広がらない。

一人暮らしの部屋の中、心の彼氏であるサボテンのサボ男さんに話しかけていた妄想力を舐めないで頂きたい。

そんなドヤ顔をしていると目を輝かせたダリル。

もしかして嬉しかったのだろうか。


(いや、そんな筈は……)


けれど横にいるマーベルが驚いた顔でこちらを見ているではないか。

冒険するんじゃなかったと後悔していた。

まさかのまさか。

際どい答えで攻めた結果、ダリルの好みと合致してしまったようだ。

やっぱり九歳の女の子が言いそうな、ありきたりな答えを言うべきだったと作戦を練り直す。


「好きな、食べ物は……?」

「パンケーキです!」

「……趣味は?」

「裁縫ですわ!」


ここは計画を変えて令嬢が言いそうな答えを言うと再びドヤ顔である。

何もかもを忘れるために本屋で本を買い漁り、刺繍を極め、パッチワークを作り、彼氏も居ないのにマフラーや編み物を淡々と編んでいた日々を思い出す。

それに嘘は言っていない。パンケーキも大好きである。

以前のトリニティは何と答えたのか、今となっては知る術はないが、きっと子供らしいありきたりな答えを述べたに違いない。


果たして、この答えが吉と出るか凶と出るか。

まるで面接のような質問を終えて、気まずい沈黙が流れる。

ここは何か問わねばならないと無駄に空気を読んで、ダリルに同じ質問を投げかける。

この気遣いも長年の会社員として働いたことで、染み付いた癖のようなものだろう。


「ダリル殿下の好きな花は何ですか?」

「多肉植物で……南方の国を訪れた時に不思議な形に魅入られてしまって」

「へぇー……ちなみに好きな食べ物は?」

「パンケーキが、とても好きです」

「なっ、なるほど……! しゅっ、趣味は?」


これは絶対被る訳がないと思っていたら、どうやら甘かったようだ。


「笑われるかもしれませんが、母が裁縫をしているところを見るのが好きです……すごく不思議で綺麗なので」


まさかのまさか、ダリルと全て答えが一致するというミラクルが起きた。

思わず一瞬、白目を剥いて唖然としていたが、すぐに意識を取り戻す。

運命の悪戯にしては悪趣味である。

神様はダリルとトリニティをくっつけるように仕向けているとしか思えなかった。


「真似を……している訳では、ないのですが」

「…………」

「トリニティ様と……気が合いますね」


照れているダリルを見て悟る。

これは、あまり良い展開では無い、と。

程よく嫌われない程度に、記憶に残らないようにするはずなのに好印象を与えてどうするのだ。

自分のペースが思わぬ形で崩された事に焦った次の作戦を考える。

子供らしく、可愛く、無邪気に、悪気は無いけど、やんわりと気弱で泣き虫なダリルがドン引きするような事を言わなければならないのではないのだろうか。


「………………」

「トリニティ様?」

「ダリル様、わたくし……」

「……はい」

「わたくし、壮大な夢があるのです……!」

「な、なんでしょうか」

「身長が高くてイケメンで包容力があって、家族を大切にして、思いやりがあって、いつも明るくて笑顔が爽やかで、スポーツ万能で、頭が良くて、お金持ちで、わたくしを海のように広い心で優しく見守ってくれる一途な男らしい素敵な男性と結婚する予定なのです……!」

「!?」

「やっぱり理想は高く持たないとダメだと思うんです!」

「……え」

「折角、顔合わせして頂いたのに申し訳ございませんが、わたくしは今から理想の男性を探し求める予定なので!」



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