64.やるに決まってるじゃない!
あまりにも可愛くて純粋で良い子すぎるローラに、攻略対象者達の気持ちがよく分かったのであった。
それからローラを妹のように可愛がっていた。
「ローラは良い子に育って……」
「お前の子じゃない」
「おだまり。気持ちの問題よ」
デュランとのこの会話をキッカケに、いつの間にか話が弟の自慢へと変わっていく。
ダリルとコンラッドは、また始まったと頭を押さえた。
「コンラッドの方がモテるわよ! 男女共に目を惹きつけるこの美しさが腐りきった貴方の目には分からないのねッ! 残念だわ」
「馬鹿を言え。モテるのはうちのダリルの方に決まっている。こんなに完璧で全てを兼ね備えた男はどこにもいない。お前の目は肥え過ぎて良し悪しも分からなくなったのか?」
「なんですって!?」
「はっ……やんのか?」
「やるに決まってるじゃない!」
「トリニティ様っ、デュラン様! あの、落ち着いて下さい……! 喧嘩は良くないですっ」
「ローラ、諦めた方がいい。兄上とトリニティ様はいつもこうなんだ」
「え……?」
「昔っからだよね」
「そう、なんですか……?」
「そうだねぇ」
ローラは胸に手を当てて、ハラハラとしながら二人を見ている。
「ほら、姉上……もう僕の自慢はいいから」
「兄上も、気持ちは十分伝わりましたから」
睨み合う二人をいつものように引き剥がす。
色んな意味で『弟』に対する愛が重たい。
こうして、よく分からないタイミングで対立するトリニティとデュランを止めるのもダリルとコンラッドの仕事である。
「ローラ、ごめんね」
「こうなったら放っておいていいから」
「で、でも……」
「気が済むと普通に話してるから……仲は良いんだけど僕達のことになると喧嘩するんだ」
「心配するだけ無駄だよ」
「ふふ、分かったわ。ありがとう二人とも」
それでも言い争う二人を見兼ねたのか、ローラはふんわりと良い匂いがするカゴを机に置いた。
「あの、クッキー作ってきたんです! 皆様で食べて下さい」
「まぁ、素敵! いつもありがとうね、ローラ」
「いただきます」
クッキーでトリニティの気が逸れた事で終了したブラコン喧嘩。
丸く可愛らしいコロンとしたクッキーを見て、テンションが上がる。
口に含むとクッキーはホロホロと舌の上で溶けていく。
手作りならではの味と、ほんのりと甘さが控えめな所が懐かしい気持ちにさせる。
「んー……美味しいわ!」
「良かった……! ありがとうございます」
「懐かしい味がするよね、ローラのクッキー」
「うん、美味い」
「あの……デュラン殿下も如何でしょうか?」
「俺はいらない」
「そう、ですか……」
デュランに断られてしょんぼりしているローラを見かねて、すぐさまフォローするように声をかける。
「ローラ、良かったらわたくしにもクッキーの作り方を教えて頂戴」
「はい! 是非、私で良ければ」
「とても楽しみだわ」
「とても楽しみですね! トリニティ様。是非、僕に一番に食べさせて下さい!」
「わ、分かったわ」
「僕にも少し頂戴。姉上の手作り食べてみたい」
「勿論よ!」
「…………腹が爆発するんじゃねぇか?」
「失礼ね! する訳ないじゃない」
そんな話題で盛り上がっている最中、デュランをチラリと見た。
何事もないように資料を読んでいるが、感じる違和感に眉を寄せた。
出来上がった資料を、ローラに渡す。
「この資料を届けてもらってもいいかしら?」
「分かりました」
「僕達も用があるから一緒に行くよ」
「護衛も兼ねてね」
「ありがとう、二人共!」
ローラは快諾して生徒会室の外に出る。
コンラッドとダリルもローラを心配してか後を追うように、部屋から出て行った。
勿論、ダリルはハグと手の甲の口付けを忘れない。
三人が去って静まり返る生徒会室で、デュランに声を掛ける。
「……デュラン」
「なんだ。見てわかんないのか? 今、忙しいんだよ」
「どうしてローラに冷たいのよ?」
デュランのローラに対する態度が妙に冷たいと感じていたのだ。
意図的に距離を空けようとしているように思えた。
「俺は、あの女の気持ちに答えるつもりはないからだ」




