63.ヒロインに自分から絡みにいってしまった
マロリーは兎に角、コンラッドやダリルと距離を詰めようと奔走しているようだ。
乙女ゲームのように、寂しさやデュランへの嫉妬や空虚さに苛まれていないダリルと、トリニティに嫌がらせを受けていないコンラッドを前に、どこまでマロリーの優しさが及ぶのか。
最近、高みの見物をしているのでデュランの気持ちがよくわかるのであった。
「二人のお陰で、わたくしは快適よ」
「全く……それだけが救いですよ。彼女には言葉が通じないんですよ」
「本当だね。姉上が標的になるくらいならこっちのがいい」
「見ていて分からないんですかね。僕がトリニティ様しか見てない事を」
「…………」
「僕がトリニティ様しか見……「聞こえてますわ」
「なら、良かった」
「今日も大好きです。トリニティ様」
「くっ……可愛い」
「今日も大好……「聞こえてますわ!」
「ぷっ……!」
いつものようにデュランが吹き出している。
コンラッドもいつもの事だと軽く受け流していた。
大抵の人はダリルが向ける愛溢れる視線や態度を見ていれば、正式に婚約はしていなくとも、大体は察しているのだがマロリーにはそんな現実は関係ないようだ。
「あの女は婚約者が居ても居なくても同じことをするだろうよ」
「そうかしら?」
「実際に婚約者がいる令息にも手を出している。苦情は山程来ているぞ?」
そう言ってデュランは積み上がった分厚い白い紙を取り出した。
ドンッと音を立てて机に置かれたものに驚きを隠せない。
学園の意見箱に投函される数々のマロリーの愚行と苦情は短期間でこれだけの量になってしまったらしい。
どれも溜息が出てしまうような稚拙な内容であった。
「この間は生徒会に入りたいと俺のとこに押しかけてきた」
「あら、何て答えたの?」
「馬鹿にはなれない、と言った」
「…………」
「馬鹿はなれ……「聞こえてますわ」
強調したい部分を何度も言うエルナンデス兄弟。
無駄な仕事を増やすマロリーにデュランは苛立っているようだ。
「あの人が生徒会に……? あり得ないよ」
「確かに。生徒会に居たらと思うとゾッとする」
「馬鹿は俺の生徒会にはいらねぇ」
デュランの言葉にダリルとコンラッドが重い溜息を吐いた。
生徒会に入れば、二人ともっと近付けると思ったのだろう。
しかし真正面からデュランに跳ね除けられたようだ。
生徒会に入る事になっているダリルとコンラッドにとって、ここだけはマロリーの入って来れない唯一の安全地帯なのである。
一年生は生徒会に正式に入る前に、仕事を覚えるために補佐として働いてもらう。
今は候補ではあるが、行く行く役員になり学園を支えていくのである。
そして、そんなデュランの生徒会に入れるほど成績優秀な人物がもう一人……。
「こ、こんにちは……!」
「ローラ、お疲れ様」
「トリニティ様、お疲れ様です」
「ここまで誰にも絡まれなかった?」
「あっ……」
「やっぱり絡まれたのね」
平民から子爵の養女となった事により、度々令嬢達に絡まれているこの可愛らしい女の子こそが、ヒロインであるローラである。
ローラとの出会いは遡る事、数ヶ月前……。
何人かの令嬢達に囲まれている可愛い女の子を発見した為、直ぐに令嬢達を追っ払った。
そしてその女の子を救い出した所までは良かったのだが、お顔を拝見してビックリ。
それがヒロインであるローラだったのだ。
まさかヒロインに自分から絡みにいってしまった。
初めはローラを滅茶苦茶警戒していた。
またマロリーのように転生者で「私が狙っちゃおっかなぁ」などと言われたら面倒だな……と思っていたのだが、ローラは転生者ではなく、ダリル達同様にこの世界の住人のようだ。
そして、もしかすると今の場面はローラと攻略対象者の大切なイベントだったのかもしれないと気付いて申し訳ない気持ちになった。
(ごめん……ローラを救う予定だった人)




