57.何か、変じゃない?
今、リュートが目指しているのはトリニティとダリルが、マークとイザベラのような関係のようになることだそうだ。
そんなリュートの働きもあってか、一年程前には国王と王妃に呼び出されて「迷惑を掛けてすまなかった」と、謝罪を受けた。
そして「君達のお陰で、デュランもダリルも楽しそうだ」「ありがとう」と御礼まで言われたのである。
やはりダリルとの関係も聞かれて、答えを濁していると「ダリルとデュランから話は聞いている。君の意思を一番に優先するよ」「学園を卒業する迄にゆっくりと考えてね」「我々は大歓迎だ」と優しい言葉も貰うことが出来た。
そしてヒロインが入学してきた今年、ダリルの気持ちが靡かなければ覚悟を決めなければと思っていた。
マロリーの事もあるが、今年一年で全ての決着が付くだろう。
そんな事を考えながら本を読んでいると、考えが顔に出ていたのかデュランが問いかける。
「何がそんなに不安なんだ?」
「デュラン……」
「お前の悩みをオレは理解することが出来ない。あの女もそうだ。予想の範疇を超えた有り得ない程の愚かな行動を取る」
「ふふ、貴方が心配してくれるなんて珍しい」
「もしかしてあの女に何か言われたか?」
「……いいえ」
「だが、それももうすぐ終わるだろうな」
「え…………?」
「予想ではな」
最近では、デュランもマロリーの行動に飽きてきたようで『興味』から『邪魔』に変わったようだ。
「それにダリルが入学してきた今、ケールとサイモンの行動が問われるな」
「どうして?」
「あんな奴らでもダリルの側近候補だ。確か今年は同じクラスだったろう?」
「そうだったかしら?」
「あのなぁ……」
ダリルと正式に婚約する事になれば、未来の王妃である自分にしたことの数々は大きく響く。
暴言やチクリと刺すような嫌味の数々を思い出していた。
特に大きな怪我はないが、軽く肩を押されたりと良い気分ではなかった事だけは間違いない。
元々、知的なケールと正義感の強いサイモンは、過剰にマロリーに肩入れしている。
それに、いくらマロリーの事が好きだからといって普通にクラスまで変えるのだろうか。
ダリルとコンラッドの変化とは何か違う。
ケールとサイモンの態度にはずっと違和感を感じていた。
そして、それら全てはデュランからダリルに伝わっていると、つい最近になって聞いて驚いていた。
「でもあの二人って……何か、変じゃない?」
「……?」
「彼らはダリル殿下の側近候補になるほど優秀だったんでしょう?」
「あぁ」
「それが突然、人が変わったみたいに振る舞うかしら」
以前、心優しいトリニティがダリルの婚約を機に性格がガラリと変わったように、真面目で知的なケールと正義感が強く曲がった事が嫌いなサイモンも、真逆な行動を取っている。
余りにも稚拙な行動と異常な執着。
周囲を顧みない言動や過激な愛情は以前のトリニティと同じだと思った。
となると、考えられるのはただ一つだ。
「もしかして、身近に悪魔がいたりして」
「…………その仮説は悪くないな」
「貴方程の人が、すぐにこの事に気づかなかったのが不思議だわ」
「悪魔に近付かないように、またメーティスが小細工でもしてるんじゃねぇか?」
「……女神様も大変ね」
「いや、そこは俺の心配をしろよ」
マロリーの気持ちが向いていないと知っていても、盲信している二人が、以前のトリニティと重なるような気がした。
「マロリーの側にいる人の中に、悪魔が居る可能性もあるんじゃない?」
「その可能性は高いな」
「様子を見てみましょう」
「あまり近付きすぎるなよ? 何をされるか分からないぞ」
「あら、わたくしの心配をしてくれているの? それとも可愛い弟の為? リュートが居るから平気じゃないかしら」
「そうじゃねぇ、何かあれば俺に知らせろよ? 女神の力は悪魔には有効だ」
「でも大切な友人に迷惑を掛けてばかりはいられないわ……それに女神様だって心配になってしまうわ」
「もっと自分の身を案じろと言っているんだ」
「勿論よ」
「ならいい。けれど余りにも馬っ……予想外の行動を取ってくるから俺にも予測不能だ。気をつけろよ?」
「分かってるわ、ありがとうデュラン」
そんな話を生徒会室で話をしながら考えていた。
(これから、マロリーとの関係はどうなるのかしら)




