54.悲劇のヒロイン気取り
それからは結局、噂だけでは痛めつけられないと分かったマロリーは姑息にも作戦を変えてきた。
なんと『トリニティに虐めを受けている』と自作自演をし始めたのだ。
教科書を破られた、筆記用具をバラバラにされた。
ひどい時は水をかけられた、下駄箱に泥を詰められた。
マロリーが自分で自分に水を掛けたり、砂と水混ぜて泥を作って自分の下駄箱に詰めたかと思うとクスリと笑ってしまう。
まさかこの年でイジメの首謀者にされるとは思わなかった。
この年といっても、転生前の年齢を加味して数えたものだ。
そんな時、マロリーに籠絡されている教師に呼び出された。
そして『マロリーを虐めるな』と咎められている。
「自分がどれだけ酷い事をしているのか分かっているのだろう!?」
「そんな下らならい事をする暇があるならば、勉強をしなさい!」
「……」
黙って聞いているのをいいことに、マロリーの味方をしている名前も知らない男性教師二人は、トリニティを悪と決めつけて責めはじめたのだった。
「勉強をしなさい」という台詞はマロリーに言うべき事なのでは?という突っ込みは、目の前の教師達を煽るだけになるだろう。
マロリーのFクラスの担任教諭と臨時の保健医はペラペラと此方を責め続けた。
時間が勿体無いと感じた為、遮る様に片手をあげる。
「はぁ…………宜しいでしょうか?」
「な、なんだ!」
「マロリー様が直近で教科書を破られたのはいつですか?」
「確か、昨日の中休みだと……」
「わたくし、移動教室だったので音楽室におりました」
「その前にやったんだろうッ!?」
「先生、よく考えて下さいませ。Aクラスのわたくしが、マロリー様のFクラスを往復する為にどれだけ時間を要するかご存知ですか?」
AクラスとFクラスは一番離れている。
貴族の学校だけあり、無駄に規模もでかい建物では歩いていくだけで結構な時間が掛かってしまう。
中休みにFクラスに出向いて教科書を破り、音楽室に行くことはどんなに頑張っても不可能。絶対に間に合わないだろう。
「それに仮に教科書を破ったとして、わたくしがしたという目撃者がいまして?」
「も、目撃者なら……」
「自分で言うのも何ですが、わたくし……とても目立ちますの」
「「……」」
「何故、目撃者も物的証拠もなく、わたくしを責められるのでしょう?」
「それは、マロリーが……っ」
「マロリー様に懸想するのは結構ですが、わたくしを巻き込むのはやめて下さいませ」
「け、けれど、お前はマロリーを……っ!」
「わたくしはあんな小蝿に付き合ってる暇なんてありませんわ。少し頭を冷やして良く周りをみた方がいいのでは?……でないと、学園での居場所が無くなりますわよ?」
声低く問いかけると、教師達の肩がピクリと揺れ動く。
「賃金をもらっているのですから、平等に生徒を見たほうがいいのでは? 教師として公平な判断を望みます」
「「…………」」
「あと、わたくしがしたという証拠と目撃者を連れて再び、わたくしの前にいらして下さいませ。話はそれからですわ。わたくしも其れなりに言い分や証人がおりますから」
「そ、れは……」
「もしマロリー様がわたくしを貶める為に嘘をついているのだとしたら、然るべき処罰を申し出る所存です……勿論、貴方達にもね」
「あ……」
「…………っ」
「わたくしは逃げも隠れも致しません」
何を言われようとも至って冷静だった。
何もしていないのだから、怯える必要も逃げる必要もない。
周囲が何を騒いでも堂々と学園生活を満喫していた。
デュランも「そのうち自滅するだろう」と言っていたが、まさにその通りになりそうだ。
最近、マロリーのクラスの人達は段々と『嘘』に気付いてきたのか、信じる者はマロリーの恩恵を受けようとする一部の令嬢とケールとサイモンのみである。
それを察知した途端、すぐに使えそうな教師に乗り換えたのだ。
まるでトリニティを『悪役令嬢』に仕立て上げて『悲劇のヒロイン』気取りである。




