52.キュルルン
「さぁ……何をしてたのかしら」
異世界生活を満喫しながら、断罪ルートを避けようと金持ちの婚約者を漁っていたなんて言ったら、マロリーは「何それ」と。笑うだろうか。
「まさか令嬢の友達も居ないの!? やばくない?」
「チッ……」
「怖ーい」
話をしていくうちに完全に此方を下に見ているのだろう。
思わず無意識に舌打ちしてしまった。
無遠慮なマロリーに段々とイライラしてきた。
無表情美人の設定が恋しくなる。
それに令嬢の友達が居ないのは、全面的にダリルのせいと、その事に気付けなかった自分のせいである。
「ていうか、この乙女ゲームした事ないの?」
「したことはあるけど、ほとんど忘れてしまったの」
「えー……勿体ない」
マロリーは聞いてもいないことをペラペラと話している。
自分の積み上げてきたものに絶対的な自信があるのだろう。
だが、それも勝手にしてくれという感じである。
「このまま逆ハーとか出来ちゃいそうじゃない? 皆、ヒロインの真似したら直ぐに落ちたんだもん! 笑っちゃった。男って結局こんな感じの女の子が好きなのよねぇ」
キュルルンと音が聞こえそうなマロリーの仕草を冷めた目で見ていた。
同性には全く効果はないが、マロリーの言う通り、男はこういう分かりやすい感じの可愛い女の子が好きなのだろう。
けれどこの乙女ゲームの主人公は清楚で純粋そうな女の子である。
どの辺りをヒロインの真似をしたのか、是非とも教えて頂きたい所だ。
むしろ今のマロリーは乙女ゲームのトリニティと、キャラが被っているような気がしていた。
無表情美人系のイメージが強い為か、軽いノリで話す姿は見慣れないので違和感がある。
思わず目を細めてマロリーを見ていた。
(色んな意味で刺激が強い……)
「さっき貴女の側に居たインテリ眼鏡君と無口クール君、どっちが本命なの?」
「インテリ眼鏡と無口クールって、もしかしてケールとサイモンの事!?」
インテリ眼鏡は『ケール』という名前で無口クールは『サイモン』という名前らしい。
名前を知ったところで、マロリーは信じられない言葉を口にする。
「あんなのキープに決まってるじゃない!」
まるで当然と言わんばかに「あんなの」と言ったマロリーの態度に頭を押さえた。
ふと、ケールとサイモンの情報を思い出す。
「マロリーもだけど、確かケールとサイモンって、一番上のクラスだったわよね?」
「そうよ!」
「なら何故……」
以前はマロリーと共にケリーもサイモンもAクラスだった筈だが、言われてみれば同じクラスに居ない。
どうでもいいので今まで気付かなかったが、トリニティとマロリーのクラスが入れ替わり、攻略対象者であるケールとサイモンのクラスは一番下のFクラスに居る。
「私がFクラスになったら、ケールもサイモンも一緒に居たいからって付いてきてくれたの」
「……!」
「ふふっ、私が甘えると何でも言うことを聞いてくれるのよ……羨ましい?」
「いや、全然」
「…………」
此方の冷めた態度にマロリーは不満げに頬を膨らませている。
最近、ダリルやコンラッド、デュランと会話をしていたせいか、随分と話しづらく感じてしまう。
マロリーは転生者であり、自分の立場を利用してケールとサイモンを完全に籠絡している。
それに令嬢の友人も沢山居るようだ。
そんなところもトリニティとは真逆と言えるだろう。
「でもやっぱりこのゲームのメインはダリルでしょう? それに、二年後にはダリルとコンラッドも狙う予定なの」
「…………!」
「ウフフ、楽しみで仕方ないわ! 二人もあっという間に落ちるんじゃないかしら」
サイモンとケールは攻略済みの為、次はダリルとコンラッドも狙っていこうと思っているのだろう。
なんて欲深い選択なのだろうか。
しかし『コンラッド』の名前を聞いた途端、トリニティの闘志に火がついた。




