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05. 愛は幻


「うふふっ」

「お嬢様……?」


方向性が決まった為、気分スッキリである。

咳払いをした後に、真剣な顔でケリーを見つめる。


「ねぇ、ケリー」

「何ですか? お嬢様」


恐らくケリーは頭が回る、とても。

合コンで敵にしたら絶対に怖い女も完全な味方につけたら自分の利になるのだ。


「ケリーが『嫌な予感がする』って言っていたじゃない?」

「…………はい」

「それは何で?」

「何となく……でもケリーには何となく分かるんです」


記憶によると、ケリーはダリルとの顔合わせの話が出た時から何故か一人だけ浮かない顔をしていた。

ダリルに会うまでは見た目も中身も天使のようだったトリニティはフローレス家を盛り立てる為に、両親の為にとマナーや勉強を一生懸命頑張る献身的な女の子だ。

ここはゲームには出てこない裏話である。

今、トリニティの記憶にあるのは全て幸せで温かいものばかりだ。

けれどダリルに会ってからは、恐ろしい程の執着心が芽を出して、それが徐々に酷くなっていく。


(……ダリルに会うのがますます怖くなるわ)


確かにダリルは美しく魅力ある男性に育つ。

しかし、そんなにも執着する程の価値があるのだろうか。

王妃になりたいという理由ならばまだ分かる。

しかしトリニティはダリルに愛されたい、ダリルの瞳に映りたいという願いの為に動いていたような気がした。

トリニティの人生を狂わしてしまうほどの執着と愛……なんと恐ろしいのだろうか。


「はぁ……憂鬱」

「なんか……今日のお嬢様はいつもと違いますね」

「そ、そんな事ないわ! それよりも聞いてケリー! わたくし、ケリーの言葉で気付いたの……ダリル殿下に嫁ぐ事だけが全てじゃないって」

「お嬢様……ケリーの言う事に耳を傾けて下さるのですか!?」

「えぇ、勿論」

「嬉しいっ! ケリーは感激です!」

「わたくしはケリーについて行くわ!」

「お嬢様……ッ!」

「さぁ、ケリー! 一緒に金持ちに嫁ぐ為に、全力を尽くしましょう!」

「お金持ちに嫁ぐ……? ケリーもですか? よく分からないですけど、ケリーは安心しました」


ケリーはホッと胸を撫で下ろしている。

この異世界に来てから思っていた。

裏切らない絶対的な味方が欲しいと。

それにケリーは将来大金持ちの元に嫁ぐ女性だ。

気に入られてコネを作っておいて損はない。

そしたら何かあった時に雇ってもらえるかもしれない。


(ケリーと仲を深めておくのは大切よね)


それによくよく考えれば学園でトリニティが暴走を始めたのはケリーの助言が無くなった事も大きいのではないだろうか。

大してこの乙女ゲームの知識はないし根拠もないが、長年の勘が申している。

『ケリーはいい仕事をする』と。


「それにね、ダリル殿下に嫁がなくても幸せかなって……ケリーデータの中にオススメの令息がいたら教えてくれない?」

「勿論ですっ! お嬢様も将来について色々と考えてるんですねぇ」

「そうなの! だからケリー、ダリル殿下の件は宜しく頼むわ。貴女しか頼れる人が居ないの」

「それならケリーはお嬢様の為に頑張っちゃいますね」


ケリーの不安そうな表情は消えて、すっかりご機嫌である。

そんな時、扉の外からトリニティを呼ぶ声。


「トリニティ、おはよう! 準備はどうだい?」

「今からですわ」

「緊張しなくても大丈夫だから気楽にね」

「はーい」

「行きましょう、愛おしいマーク」

「ケリー頼むよ。ああ、今日も美しいね……イザベラ」


トリニティの父親のマークと母親のイザベラは此方が見ていて恥ずかしくなるほどにラブラブすぎる夫婦である。

そしてそんな両親を見て育ってきたトリニティは結婚した相手とは仲良く愛に溢れた家庭を築けるのだと信じて疑わなかった。

けれど今は現実をよーく知っている。


(愛は幻……!)


トリニティになる前、彼氏がいた事もあったが仕事に追われて散々な目にあった。

そして画面や頭の中は潤っていたが、現実は干物のようにカピカピな人生だった。

今回は貴族に生まれ変わったのだから、早々に乙女ゲームの筋道から外れてモブになって、幸せを掴んでみせる。


「とりあえず殿下の好みと真逆にして頂戴ッ!」

「真逆となると、小悪魔ちゃんで快活な感じが良いのではないでしょうか?」

「じゃあそうしましょう! お願いね、ケリー」

「任せてくださいっ!」


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