35.分かっているんだったら、空気読んでくれよ!!!
しかし『タイプじゃない』と言われてしまえば、それまでである。
けれど、まだまだ諦めるつもりはない。
つまりデュランの言葉の裏を返せば、メリットがあれば婚約してくれるという事だろう。
「デュラン殿下の求める婚約者の条件って何でしょうか?」
「物静か、淑やか、色っぽい、知的……あぁ、全部お前にないものばかりだな」
「なっ……!?」
鼻で笑うように言ったデュランに思わず声を上げた。
やはりケリーデータがピタリと当てはまったようだ。
勝ち誇ったように口角を上げている姿を見て悔しさに歯軋りをした。
確かにトリニティは可愛い……。可愛いが、この世界ではどちらかと言えばしっとりとしたセクシー系の御令嬢の方が人気が高い。
日本に居たらトリニティは奇跡のスーパーアイドルに登り詰められあるだろうが、この世界では若干不利である。
それでも幸せな未来のために行くしかないのだ。
「わたくしだって頑張れば色気くらい……!」
「……うわ」
「??」
「ほら見ろ、やっぱり面倒な事になった。お前のせいだからな」
「へっ……?」
デュランの顔が思いきり歪んだ。
視線の先を辿ってみると、そこに居たのは……。
「ダッ、ダリル殿下……!?」
「トリニティ様の好きな人って……やっぱり兄上だったんですね」
ダリルの鋭い視線を感じて、先程デュランの言っていた言葉の意味を理解する。
明らかに怒気を纏っているダリルが此方に一歩、また一歩と近付いてくる。
あまりの圧力にたじろいでいると、明らかにダリルの視線はデュランに向いている事に気付く。
その瞬間、ある思考が頭に過る。
(わたくしのせいで、二人の仲が悪くなってしまう……!?)
それだけはダメだとダリルとデュランの間に入るように立ち上がってから、パタパタと手を動かして必死に動かしていた。
「デ、デュラン殿下とは只のお友達ですわ……! ダリル殿下もわたくしとデュラン殿下がお友達になるところを見ていたでしょう? 今日も友人としてアドバイスを頂こうとして……っ」
「……!」
「では、トリニティ様の好きな人って誰ですか?」
「それは、その……っ」
「まさか、居ないとかいいませんよね……?」
笑みを浮かべているものの、明らかに笑ってはいないダリルの表情を見て、ヒクリと口端が動いた。
いつの間にか腰に手を回されて逃げられないように反対側の手を掴まれる。
まるで答えるまで逃がさない……と言われているようだと思った。
「えっと…………い、るかも」
「それは、誰でしょうか?」
次々に繰り出されるダリルの連続パンチに成す術なし……手を握り覚悟を決める。
(……もうこうなったら!)
大きく息を吸った。
「ーーーごっ」
「ご……?」
「御免なさいっ、嘘ですッ!」
「……!」
潔くガバリと頭を下げる。
やはり嘘をつくのは心苦しいし、同意が得られていないのに無理矢理デュランを巻き込む形になってしまう。
二人の仲もこの事をキッカケに、また仲が悪くなってしまうかもしれない。
自分の事情に巻き込んで他人を不幸にしてしまうのは、トリニティのポリシーに反するのだ。
チラリと顔を上げるとプルプルと肩を震わせるダリルに心が痛む。
やはりダリルは気持ちを踏み躙られた、嘘をつかれたと怒っているに違いない。
もう一度謝ろうとしたときだったーーーー。
「あはは、良かったです」
「…………!?」
「まぁ、分かってましたけどね……」
先程とは一転して、ニコリと柔らかい笑みを浮かべている。
(演技……? 今のは演技なの!?)
腹黒い一面に口があんぐりである。
「兄上にだけは絶対に敵わないから、どうしようかと思っちゃいました」
「ダリル……」
「安心しています。けど、たとえトリニティ様が兄上を好きだとしても僕は諦めるつもりなんてありませんけどね」
「…………え?」
「トリニティ様が……僕を避けているのは顔合わせの時から分かってましたから」
その言葉を聞いて思っていた。
(分かってるんだったら、空気読んでくれよッ!)
そう突っ込まずにはいられなかった。
それに避けていたのにも関わらず、諦めずに食らい付いてくるダリルのメンタルは鋼のようだ。
「それに僕もトリニティ様に謝らなければいけないことがあるんです。トリニティ様の話を聞いて思ったんです。もしかしてって……それから色々調べたんです」
「な、何をでしょう?」
「顔合わせの後、トリニティ様が気になっていると母と父に報告したんです。多分、母上は僕が自分を鍛えている間、他の令息に目移りしないように、フローレス家に来るお茶会の誘いも勝手に断ってしまっていたようで」
「………………はい?」
「本当に申し訳ありません。今は母上がこんな事するなんて考えられないのですが……。言い訳に聞こえるかもしれませんが、母上も何故そんな事をしたのか理解出来ないと言っているんです」




