32.可愛い過ぎるのも罪よねぇ
トリニティは屋敷に帰ってきた瞬間に震えながらケリーに抱きついた。
(わっ、わたくしの最短幸せルートへの道が……ッ! どうしてこんな事に!?)
ドレスを脱ぎ捨ててから今までの流れを早口でケリーに説明する。
そしてパーティーでの出来事や、ダリルの兄であるデュランとの出会い。
一番大変だった馬車での出来事やダリルに言われたこと。
そして、どうダリルに対応したのかをケリーに伝えた。
ケリーは真剣に頷いていたが、険しい表情から何を言われるのか分かってしまい怖くなった。
「……お嬢様」
「は、はい……!」
「純情な少年の気持ちを踏み躙ったらどうなるか! 嘘は絶対にダメだって、ケリーは言いましたよね!?」
「うっ……」
「きっとこれから大変なことにっ……!」
「で、でもっ……踏み躙ったつもりはいないわ! ただちょっと、予想と違った動きをしてきたから、つい嘘をッ」
「お嬢様!」
「………………ごめんなさい」
ケリーの言う通りである。
自らの幸せの為にダリルの気持ちを適当にあしらってしまった事に対して、心にグサグサと罪悪感が突き刺さる。
いくら自分が断罪されたくないとはいえ、純粋な好意を誤魔化そうとした事はいけなかった。
そのことが心に突っかかって、反省モードである。
「……ケリー、わたくしどうすればいいのかしら」
「うーん。あ、いっそダリル殿下と婚約しちゃえばいいのでは?」
「…………」
「…………」
「それは違うと思う」
「えー……どうしてですかぁ? ケリーは良いと思いますけど」
「ちょっと待ってよ、ケリー! 前にダリル殿下はやめておいた方がいいって、あれだけ言っていたじゃないッ!」
「それはですねぇ……なんだか事情が変わったような気がするんです! ケリーが思うに流れが変わったんですよ!」
「でも、何で急に……?」
「ケリーもよく分かりません。でも三年前まではダリル殿下をモヤモヤとしたものが包んでいたんです」
「モヤモヤ……?」
「今はスッキリ綺麗ですよ!」
ケリーは偶にこうして占い師のような事を言うのだが、それがまたよく当たるのだ。
(ケリーって占い師キャラだったかしら……)
そんな時、マーベルとリュートの話を思い出してケリーに報告する。
「そういえば前にケリーが睨み合っていた『マーベル』って人、ダリル殿下の側から居なくなったみたいなの」
「あの、いけすかない目つきの鋭い男ですか!?」
「ケリーは覚えてるのね……でもダリル殿下は覚えてなかったわ」
「え……?」
「その代わりに『リュート』という人が側に居るみたいで……」
「ーーーーリュート!?」
突然、リュートの名前を呼んだケリーに驚いてしまう。
「もしかして、ケリーの知り合い……?」
「……いえ、よく分かりませんが、一瞬、何かを思い出しかけたような」
「そうなの……? なら今度会ってみたら?」
「そんな事をしたらお嬢様だってダリル殿下と会うことになりますよ? いいんですかぁ?」
「…………ダメね」
「ほらぁ!」
ケリーに淹れてもらった紅茶を飲みながら溜息を吐いた。
「何か良い案はないかしら」
「ケリーはこのままでいいと思いますけどぉ」
「もう……! そんなこと言わずに考えてよ。ケリーは恋愛経験豊富でしょう?」
「ケリーに恋愛経験はないですよ?」
「冗談は置いといて、わたくしの今後の身の振り方の話をしましょう!」
「えっとぉ、トリニティ様は今日、デュラン殿下とお知り合いになったんですよねぇ?」
「えぇ、ケリーに習った『必殺技』でお友達になって頂いたわ! 完璧だったけれど二人共、ポカンとしていたのが気になって……」
「…………」
「…………」
「それは……お嬢様が可愛すぎたのでは?」
「あ、やっぱり……? わたくしもそう思ってたのよ! 可愛すぎるのも罪よねぇ。流石ケリー、よく気付いたわね!」
「ふふん! ケリーは完璧なのです」




