24.キャッキャウフフ
周囲から「キャー」と黄色い声が聞こえてきて、トリニティは控えめに周囲を見渡す。
(誰かイケメンの金持ちでもいるのかしら!? 是非わたくしもお近付きになりたいわ)
キョロキョロとしているとダリルがグッ……と視界に入ってきて吃驚したが一瞬、動きを止めてから誤魔化すように微笑んだ。
「トリニティ様……どこを見ているのですか?」
「あっ……えっと」
「どうかしましたか?」
「いえ、何でもありませんわ……! オホホホ」
(誰だって自分の誕生日パーティーに婚活されたら嫌よね……!ダリル殿下にはバレないように気を付けて相手を探さないと)
今日はダリルのパートナーではあるが、婚約者という訳ではない。
トリニティにも、まだまだパートナーを見つけるチャンスはあるだろう。
それに今日のトリニティは最高に可愛いのだ。
目が合ってニコリと微笑むだけで、どんな令息だってイチコロである。
そんな時、ある違和感に気付く。
顔合わせの際に、感じの悪い態度で此方を見ていた『マーベル』の姿がなく、ダリルの側に居ない。
過保護な彼は、常にダリルの側に居るはずなのに……。
「あの、以前一緒に居た方は……今日は一緒ではないのですか?」
「以前、一緒に居た人とは?」
「顔合わせの際にダリル殿下の側に居たマーベルという……」
「マーベル……?」
「ダリル殿下の側に居た目付きの悪い……!」
「目付きが悪い……? トリニティ様は誰のことを言っているのでしょうか。それに僕は、顔合わせの時は一人でしたよね?」
「……へ?」
話が噛み合わないどころか、全く無いことになっている。
いつも一緒に居たはずのマーベルを綺麗さっぱり忘れることなどあり得るのだろうか?
(わたくしの記憶が変なの? 一体何が……。帰ったらケリーに相談してみましょう。ケリーにも分からないって言われたらどうしよう!)
まさにホラー映画のような事が起きているではないか。
「い、今は誰が殿下のお側に……?」
「ああ、ここ数年はずっとリュートが一緒なんだ。あそこにいるだろう?」
ダリルが指差す先、糸目な爽やかな青年が優しそうな笑みを浮かべながら立っている。
トリニティと目が合うと軽く会釈をする。
となると、凶悪な目付きでケリーと睨み合っていたマーベルは、自分が見た幻だったのだろうか。
「リュートといると、不思議と良いことが起こるような気がするんです」
「あ……そうなんですね」
「仲が悪かった兄とも、直ぐに仲良くなれましたし、城の雰囲気も良くなって……! 目的の為にリュートのアドバイスを聞くようになってから毎日がとても楽しいんです」
ダリルの照れ笑いに騒めく声。
令嬢達はそんなダリルを見つめながらキャッキャウフフと、とても楽しそうである。
やはりこれだけの端正な顔立ちをしていて、王太子となればさぞモテるのだろう。
遠くからダリルを見て一喜一憂している可愛らしい令嬢達を見ていると、欲望のままに婚約者を漁ろうとしていた欲にまみれた自分が、ほんの少しだけ恥ずかしく思えた。
(子どもの頃って何も知らない分、本当に素直よね……心の汚れが浮き彫りになるわ)
やはり中身が成熟しきっている為、落ち着いて物事を判断できるのが利点なのだが、狡賢い部分ばかりが表に出てきてしまうので若干、複雑である。
トリニティになってからというもの、この世界が楽しみ過ぎていて忘れていたが、何故トリニティになったのかも未だに分からないままだ。
憂いを帯びた表情で令嬢達を見ていると……。
「……羨ましいですか?」
ふと、横からダリルの声が聞こえてくる。
視線を戻すと先程とは一転、ダリルが眉を顰めて此方を見ている事に気付く。
「……?」
「ごめんなさい、多分、僕のせいです……」
何のことか分からずに首を傾げた。
ダリルに「羨ましい?」かと問われた時に、見ていたのは令嬢達だ。
もしかして友達がいないことを気にしているのだろうか。
(……三年振りに会ったトリニティの交友事情をわざわざダリルが気にかけるのかしら?)




