21.ドレスのプレゼント
「ど、どうやらダリル殿下は婚約者がまだ決まらずに、色んな御令嬢にパートナーを頼んでいるそうだよ」
「……そうなのですか?」
「だからトリニティちゃんもあまり深く考えずに気楽にって、ダリル殿下が伝えて欲しいとわたくし達に……ね、マーク」
「そうだな、イザベラ! その通りだ」
「因みに、断るという選択肢は……」
「ないなぁ」
「ないわねぇ」
「お父様とお母様の為なら仕方ありません……分かりましたわ」
やはり、いくら面倒であっても王家の申し出を断る訳にはいかない。
フローレス侯爵家の明るい未来とコンラッドの為にも迷惑は掛けられない。
三年も何事もなかった為か、すっかり気も緩みまくっていたので他の令嬢達もしているのなら『まぁいっか!』という軽い気持ちでいた。
しかしコンラッドが口を開く。
「でも、おかしいですよね?普通に……ンンーーッ!?」
急いで口を塞いだイザベラは、そのままコンラッドを引き摺って、どこかへ行ってしまった。
そんな不思議な光景に首を傾げていると気を逸らすようにマークは大きな箱を後ろから取り出す。
「ダリル殿下からドレスのプレゼントだそうだ」
「プレゼント……?」
「当日に着てきて欲しいそうだよ」
「でも何故わたくしに、そこまでして下さるのでしょう?」
ダリルの誕生日パーティーなのに、自分がプレゼントのドレスを貰うとはどういう事だろうか。
それにドレスを貰う理由など無いはずなのに。
「ほらっ、あれだ! トリニティが……っ!」
「わたくしが……?」
「ト、トリニティちゃんが可愛すぎるからよ! 絶対そう! そうに決まっているわ」
そしていつの間にかドレスとお揃いの靴を持ってきたイザベラがマークを庇うように口を挟む。
「お父様、お母様……何かがおかしくないですか?」
「そんなことないわ」
「そんなことないよ」
じっとりとした視線にマークとイザベラの目が右往左往する。
「何かわたくしに隠してません……?」
「してないわ」
「してないよ」
そんな中、ケリーがドレスを箱の中から取り出して広げて見せる。
「お嬢様、見てください……! キラキラしていて、とても綺麗ですよ! ケリーが見るに、これはとても手が込んでいます」
「でもケリー、あんまりわたくしの好きな感じじゃないわ」
「そうですかぁ? ケリーはお嬢様にはこんな感じのドレスが一番似合うと思いますけど」
「そうかしら……少し子供っぽくない?」
「着てみると印象が変わりますよ! きっとお嬢様に似合う清楚で可愛いらしいドレスです」
「確かダリル殿下は、清楚で大人しい感じが好きだとケリーデータであったものね。やっぱり好みってドレスにも出るのかしら」
「そうかもしれませんねぇ」
そう言うと、マークとイザベラが顔を合わせなが不思議そうに見ていた。
「……清楚で大人しい? 真逆じゃないか?」
「確かに……真逆よね」
「お父様、お母様……真逆って何のことです?」
「「~~~♪」」
その問いかけに口笛を吹き出す怪しい態度を取り続けるマークとイザベラを睨みつけながら探っていると、ケリーが楽しそうに声を上げた。
「お嬢様、一度合わせてみましょうよ!」
「……あまり気が進まないわ」
「でもぉ……当日にドレスがピチピチだったら恥ずかしいですよ? 最近、お嬢様はケーキを食べ過ぎてますから」
「はっ……! やっぱりそう思う!?」
「ふふっ、ケリーの目は誤魔化せません!」
「さすがケリーだわ!」
「お嬢様の事は、このケリーに任せてください」
そのまま二人はドレスと靴を合わせる為に部屋へと向かった。
ケリーのナイスな機転のおかげで助かったマークとイザベラは「はぁ……」と安心したように大きく息を吐き出したのだった。




