20.婚約者が一向に出来ない
ーーー三年後
トリニティは十二歳になったが、婚約者が一向に出来ないことに流石に焦りを感じ始めていた。
(こんなに可愛いのに……なんで?)
しかしトリニティになってからのセカンドライフは、それはもう最高であった。
マナーやダンス、貴族として必要な事はサラリと学んでしまい、今は特別メニューとして国の事や諸外国の事を学んでいる最中である。
そして特段トリニティが優秀だという家庭教師の口車に乗せられるがまま、十歳の時から王城に通いながら質のいい教育を受けている。
前世の知識があるということは、それだけでチート並の能力……難なく全ての課題をクリアしていった。
こんな時にこそ、仕事人間だった自分の経験が役に立つというものだ。
前に積み上げていた努力が無駄にならなかったのは嬉しい限りである。
それにこの世界で変わった事があるとすれば、エルナンデス王国の歴史を学んでいる際に必ず出てくる天使と悪魔の話だ。
そこは女神とか魔王じゃないのか、とガッカリしたものだが、ある一定のレベルまで達すると悪魔は魔族に、天使は女神に昇進出来るのだそうだ。
昇進……そこに強烈な親近感を感じる時点で脳内が仕事に毒されているのだろう。
人間に擬態している天使や悪魔は、側に居る人間を幸せにしたり、不幸にしたりしながら力を蓄えると書いてあった。
悪魔は孤独や寂しさ、悪意などを溜めて力を強めて、天使は幸せや愛を溜めて力を強めるのだそうだ。
互いに争い歪み合いながら天使と悪魔は直ぐ側に居るのだという。
子供に言い聞かせる御伽噺のようなものかと思いきや、意外とエルナンデス王国の人達にとっては身近な存在なのだという。
実際、王国には数多くの話や本が残されいる。
日本でいう妖怪みたいなものだろうか。
そして教会には天使が祀られていて、貴族の中には悪魔祓いを生業にしている人達もいるらしく、まるで外国にいる気分である。
国の事について積極的に学んでおり、今や才女の名を欲しいままにしている。
マークやイザベラが言うには必要な事らしいのだが、やはり金持ちと結婚するためには教養が必要という事だろう。
(確かに王城で教わっているのなら、それだけで箔がつくわよね)
そうでなくてもやはり異世界は新しいことばかりで何もかもが楽しいものだ。
ーーそんな時だった。
マークから一通の豪華な招待状を渡されて首を傾げた。
今まで何のお誘いもなかったのに、突然どうしたことだろうと疑問に思った。
フローレス家にコンラッドが来てから、彼を愛でるのに忙しくて、婚約者を作る為の熱意は殆どコンラッドに注がれていたので、すっかりどうでもよくなってしまっていた。
マークとイザベラも相変わらず、トリニティに何かを隠しているようだ。
(そろそろ本気出さなきゃね……!)
招待状の中身……それは王城で開かれるダリルの誕生日パーティーのお誘いであった。
今更、ダリルに呼ばれる理由は分からないが、パートナーがおらず困っているので是非ともトリニティに頼みたいという、ダリルの直筆で書いた手紙が添えられていた。
誕生日会に何故パートナーが必要なのか。
そして『トリニティ』を指名した理由も分からないまま考え込んでいた。
今まで三年間もダリルからは何の音沙汰がなく、関わることはなかった為、シナリオからは完全に離れたのだと安心しきっていた。
ここにきてポッと突然、現れたダリルに驚きを隠せない。
けれど大きなパーティーという事は令息達が沢山居るという事だ。
(このチャンスを逃す訳にはいかないわ……!)
意気揚々としているトリニティにマークが焦ったように話しかける。




