母の過去2
目を覚ますと、見慣れない天井が見えた。周りを見てみると、少し離れたところでお母さんがハンカチで目を拭っていた。お父さんはそんなお母さんの肩を抱いていた。
「おかあ・・・さん、おとう・・・・さん。」
何とか声を出した。
「美奈!! 気が付いたのね!」
すごく小さい声だったのに、お母さん達は気づいて駆け寄ってきてくれた。
「わたし・・・・・。」
いろいろ聞きたくて口を開いたけど、言葉が続かなかった。体がとても怠い・・・・・。
「無理に話そうとしなくていい。お父さんは先生を呼んでくるからゆっくりしていなさい。」
お父さんはそう言うと部屋を出てしまった。
その後、お父さんが戻ってくるまでお母さんに状況を教えてもらった。
ここは病院だそうだ。私はお母さんたちが返ってきたとき、廊下で倒れていたらしい。私に意識がないのを確認してすぐに、救急車を呼んで病院に運んでもらったのだと。
何故倒れていたのかは私にもわからなかった。最近の体の変化といえば少し太っておなかが出てきたことぐらいだ。流石にそれだけじゃ倒れないと思う。
しばらくすると、お父さんが戻ってきた。その後ろか白衣を着た女の人が入ってきた。
私は一通り診察を受けた。
「目立った外傷はありませんね。ただ・・・・・・。」
女医さんは少し言いよどみ、言葉を選ぶように慎重に言った。
「心して聞いてください。娘さんは、妊娠しています。」
(ニンシン? なんだっけそれ・・・・・・。)
一瞬、何を言われたかわからなかった。けれど、その言葉を認識した途端、全身の血の気が引いていくような感じがした。
妊娠・・・・・。私はあの夜、あの男たちの内の誰かの子供を授かってしまったらしい。
「美奈ちゃん、少しお話を聞きたいけどいいかな? 話しにくかったら、お父さんとお母さんにはしばらく席を外してもらうこともできるけど。」
青ざめた私を見た女医さんがそう言ってくれた。私はその提案にうなずいた。お母さんたちは心配そうに私を見ていたけれど、部屋から出てくれた。
お母さんたちが出て行っても、私はなかなか話し出せなかった。それでも女医さんはせかさず、根気強く待っていてくれた。しばらくして、私はぽつりぽつりとあの夜のことを話し始めた。
夜いきなりさらわれたこと。殴られたこと。体を弄られたこと。抵抗できなかったこと。そのことを誰にも言うことが出来なかったこと。すべてを話した。話し終わるころにはもう3時間は過ぎていた。その間女医さんは静かに耳を傾けてくれた。
「つらかったね。話してくれてありがとう。このことは私からご両親にお話ししてもいいかな?」
女医さんはそう言った。私はそれに無言でうなずいた。それを確認した女医さんは、私を抱きしめて
「よく頑張ったね。えらいよ。」
そう言ってくれた。私の中で何かが切れた。涙が勝手にあふれてきた。
(怖かった・・・・。つらかった・・・・。誰にも言うことが出来なくて。外に出たらまた同じ目に合うかもしれないと思ってしまって。)
女医さんの一言で救われたような感じがした。女医さんは、泣きじゃくる私の頭を優しく撫でて、廊下にいるであろうお母さんたちの方に行った。
しばらくして、お母さんたちが病室に戻ってきた。そしていまだ泣きじゃくっている私を抱きしめて
「気づいてあげられなくてごめんね。」
そう言って涙を流した。それから数十分家族3人で泣き続けた。その間女医さんは戻ってこなかった。
涙が落ち着いたころ、女医さんが戻ってきた。それから女医さんと家族3人で、私とお腹の子供について話した。
「美奈さんは妊娠中期に突入しています。ここまで成長してしまうと、堕胎薬が効きません。手術で堕すことも可能ですが、成長期の今手術を行うのは今後のことを考えますとリスクが大きいです。」
「ということは、娘は子供を産むしか道が残されていないということですか!!」
お母さんが叫んだ。
「はい・・・・。美奈さんの将来を考えますと・・・・・・。」
女医さんは目をそらさずに行った。それから、私が子供を産んだ場合、どうすればいいかを説明してくれた。その中に、うんですぐに養子に出すというのがあった。お母さんたちはそうしたほうがいいといったけど、私は答えを出すことが出来なかった。
家に帰って、私は引っ越しをした。あそこにいればまた襲われるかもしれないという私を気遣ってくれたお母さんたちが決めた。
それから私は家から少し離れた病院に入院した。私は未成年だったから、妊娠中どんなことが起こるかわからなかった。だから、あの女医さんの紹介で匿名で入院することになった。
あれからお腹も大分大きくなった。それでも私は産んだ子供をどうするべきか決められないでいた。そしてそのまま、男の子を産んだ。
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