兄の存在
しばらくして、美奈が夏紀を迎えに来た。
夏紀はまた怒られるのかと覚悟を決めたが、美奈は優しく帰ろうというだけだった。車の中でも会話はなかった。
車内のその重苦しい空気が余計夏紀を惨めな気持ちにしていった。
家に着くなり、夏紀は気まずさから逃れるように自分の部屋にこもった。
それから数日間、夏紀は母親(美奈)の顔を見るのが怖くて、部屋から出られないでいた。ありがたいことに、毎食分のご飯を美奈が置いてくれるので、お腹を空かせることはなかった。
どうすればいいのよ・・・・・
このままではいけないと分かっていても、いざ顔を合わせたら何を言っていいのかわからなくなる自信があった。でもこのままではいけない。
そんな風にぐるぐる考えているとき、美奈が扉の向こうでこう言った。
「あなたにね、お兄ちゃんがいるの。」
・・・・・・・え? ちょっと待って! お兄ちゃん? 私今までそんな人あったことない・・・・。
夏紀は続きが気になって部屋の扉の前に行って扉にもたれかかった。
幾つか質問したりして、母親の過去を聞いているうちに、自分と似たようなことが起きたことを知った。そしてそのお兄ちゃんと一緒に暮らしたかったことも・・・・。
お母さんはお兄ちゃんを手放したくなかったんだ・・・・・・。だからあたしのこと起こったんだ。産んだら捨てればいいって言ったあたしのことを・・・・・。
夏紀はようやく何故美奈が怒ったのかを理解することが出来た。そして何も言えなくなってしまった。
沈黙を破るように夏紀のお腹が鳴った。夏紀は恥ずかしさのあまり、頭を扉にぶつけてしまった。・・・・・・すごく痛い。
美奈が噴き出す音が聞こえて、ますます顔に熱が集まってきた。その後ご飯を作ると言って美奈はキッチンへ向かった。
その足音を聞きながら、夏紀はカーテンを閉め切った薄暗い部屋を眺めていた。
久しぶりにお母さんとまともに話したな・・・・・・・。これからどうすればいいんだろう。
夏紀は膨らみ始めたお腹に手を当てて目を閉じた。頬を温かい何かが伝っているのを感じた。
思い出すのは、病院で会ったカウンセラーと名乗る妊婦の言葉だった。あの人は去り際、よく話し合うといいといった。
「話し合えてるならこんなことになってないっつーの。」
薄暗い部屋の中でつぶやいたが、そのつぶやきは虚しく部屋に響くだけだった。
しばらくすると、足音が近づいてきた。
「ご飯、ここに置いておくからね。」
そして足音は遠ざかっていった。
いい匂いが扉越しに匂ってきた。
つわりを心配してくれているのか、匂っても気分が悪くならない。思い返してみれば、家に帰ってから、においで気分が悪くなることはなかった。
そんな美奈の気づかいに夏紀はまた涙ぐんだ。
扉を開けると、野菜を中心として栄養豊富なおかずとパンがお盆に乗せて置いてあった。
このままじゃいけない。話し合おう。だって私はもう母親なんだから。
夏紀はそう決心をすると、お盆を持って美奈がいるであろうリビングに向かった。
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