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第9話 (ミライ)

 街の中は賑やかで、あっちこっちにゴザを敷いた露店が商品を並べていて、目移りしてしまう。

 目が見えないって言うから心配だったけど、ドラセーさんは杖を頼りにひょいひょいと確かな足取りで歩いている。

「ドコデショウ」

 遠くでシーチキンの声が聞こえた。気がつくと、ジンとの距離がだいぶ離れている。露店の一つで足を止めて、並んでいる商品をじっと見ている。

「何見てるの?」

「ん? ああ、悪い。ちょっと悩むから先行っててくれ」

「私も一緒に見るよ」

「なになに? おー、いい趣味してんじゃん。似合うと思うよ」

「うー」

「ミツケタ」

 ジンが見ていたのは、無骨な金属の加工品の店だ。剣や防具、小さなナイフに飛び道具らしき不思議な形の刃物が並んでいる。

「剣ならこの前買ってもらってたじゃん。使ってみたら気に入らなかった感じ?」

 星の国の武器屋で結構長いこと吟味して、ジンの筋力でも無理なく使えるようなものを選んでいた。もう買い換えるんだろうか。

「ああ、いや。かっこいいなって思っただけだ。ほら、これとか」

 そう言ってジンが指差したのは、農具の鎌のような形の刃物だ。でも、農作業に使うにはちょっと大きすぎるから、多分剣や盾みたいに戦いに使うんだろう。

「……使いづらそうじゃない?」

「他にもほら、これとかイカしてる」

 次にジンが指差したのは、鉄でできた扇だ。両端が鋭く研いで刃物にしてある。重いだろうから扇ぐのには使えなさそうだし、武器として使うにもコツがいりそうだ。

「不便そう」

「なんだよー。かっこいいだろー」

 ちょっと私にはよくわからない感覚だ。

「こういうガチガチ系の物を持つならさ、あっちの服屋とか見に行かね? カッコイイ系の服置いてるっぽい」

 ドラセーさんの言葉に、ジンが目を輝かせた。

「おっ、そんなのあんのか。行く行く」

 なるほど。ジンはかっこいいものが好きなのか。

 ジンは手のひらに隠してしまえるような小さなナイフをいくつかと、黒い革の上着を買った。確かに、よく似合っている。

「ミライは、気になってる店とかないのか? あたしの買い物にばっかり付き合わせちゃ悪いし」

 ジンに言われて少し考える。私の欲しいものか。海の街でシーチキンを買った時は、物珍しさで手が伸びたんだっけ。

「うーん、そうだなあ」

「そういえば、お前の好きなものってなんだよ。レン以外な」

「ジンかな」

 私が答えると、ジンは呆れ顔で少し笑った。

「そうじゃなくてな。手元に置いときたい物とか、触ると落ち着く物とか、やってると楽しいこととかだよ」

 そう言われて、自分でもびっくりした。

 私、もしかして好きなものないんじゃないだろうか。ごはんを食べるのは好きだけど、特定の好きな食材があるわけでもないし。多分何日か同じものを食べてたら飽きると思うし。錬金術も一応教えてもらいはしたけど、さほど好きってわけでもないし。

「ないかも」

「えっ、マジかよ。じゃあ、気にいる物が見つかるまで色々回るか」

「うん!」

 それから私たちは、いろんな露店を見て回った。

 遠くの国から運ばれて来たらしい品物たちは、どれも興味を引いた。

 木彫りの人形とか、綺麗な模様が焼き付けられている陶器とか、緻密な細工で織られた布とか、全部すごいと思う。本でしか見たことがなかったもの、本でも見たことがないもの、たくさんある。

 でも、好きかっていうとなんか違うような気がする。

 露店を一通り回り終えて、私たちは街の片隅にある食堂にやって来た。椅子に座って飲み物を注文し、おしゃべりをする。

 他に客もなく、店主らしき男の人もやる気なさげで、静かな店だ。注文した飲み物をぶっきらぼうにテーブルに置くと、店主はカウンターの奥へ引っ込んで本を読み始めた。

「ええ〜、私好きなものないの? なんかやだ!」

「まあ、無理もねえよ。お前まだ二歳だろ?」

 それを聞いたドラセーさんがおかしそうに少し笑った。

「マジ? 赤ちゃんじゃん。じゃあ、時期的にイッチーは五歳そこそこ? ウケる」

「そんなにすぐ好きなものとか、見つからねえよ。あたしなんか、自分が二歳の頃とか全く覚えてないし」

 そもそも私の好きの基準ってなんだろう。なんでレンのこと好きになったんだっけ。

 軽く、冗談みたいに笑いながらジンが言った。

「実はレンのことも好きじゃなかったりしてな」

「そんなことないもん!」

「そうか? あたしと会うまであいつと二人きりだったんだろ? そんで、面倒見てもらって過ごしてた。好きだって勘違いしてそう思い込んでただけかもしれねえぞ?」

 確か、私を振った時レンもそう言ってた。客観的に見てもそうなんだろうか。いや、そんなはずは……。

「そんなことないもん」

「でもお前、好きだって言うけど、最終的にどうなりたいんだよ」

「毎日一緒に過ごして、たくさんお話ししたいな」

「今もしてるだろ」

「ということは、すでに恋人と言ってもいいのでは?」

「そういう理屈ならあたしとミライも恋人だし、あたしとレンも恋人だけど」

 今ジンが挙げたふた組が恋人になっているところを想像して、頭をひねる。

 私とジンが恋人っていうのは、まあ、想像できなくはない。私がレンのことが好きでさえなければ、もしかしたらそうなっていたかもしれない。

 でも、レンとジンが、って思うとそこで思考が止まる。

「ジンはレンが好きなの?」

 恐る恐る聞くと、ジンは吹き出した。面白いジョークでも聞いたみたいに、お腹を抱えて笑っている。

「なにがそんなにおかしいの! もう!」

「ないない。お前が心配してるようなことは全くねーから安心しろよ」

「ほんとに〜?」

「確かにあいつのことはそれなりに気に入ってるが、それはあいつがあたしの面倒を見てくれるからだ。あいつにくっついてると生きていくのが楽だからそうしてるってだけ。それ以上は望んじゃいない」

 なるほど。ジンがレンに良い感情を抱いているのは、一緒にいると得があるから。そういうことらしい。

「あれ……?」

 じゃあ、瓶から出たばかりで自分のことがなにもできない私がレンに好意を抱いたのも、理屈は同じなんじゃないだろうか。

「じゃ、じゃあジンは人を好きってどういう状態だと思うの?」

「そりゃお前……。そいつとずっと一緒にいたいって思ったり、そいつのいない人生は嫌だなって思ったり、そういう状態だろ。あと、そうだな。そいつが他のやつばっかり見てたらモヤモヤしたりとか?」

「はは、ジンちーてばロマンチストだね」

 あれ。じゃあ本当に好きじゃないかもしれない。

 私はさっき、結構あっさり一号に賢者の石を渡そうとしてしまった。断られたけど、もしもあそこで一号が石を飲んでしまえば、私はレンと同じ時間を生きられないっていうのに。私はあの時、一瞬とはいえレンとずっと一緒にいる未来を放棄した。

「おねーさんたち、おもしろそーなコイバナしてんね。女子会? オレも混ぜてよ。一緒に遊ぼ?」

 不意に、男の人が話しかけてきた。なにに使うのか、大きな鉄の筒を二つ、両方の肩に一本ずつ背負っている。首から下げた緑の石のペンダントが、動くたびに揺れる。

 あれ、おかしいな。どこかで会ったことがある気がする。

「なんだよお前」

 ジンが警戒心をあらわにして睨みつけているけど、その人はどこ吹く風、と言った様子でヘラヘラ笑っている。

「旅の者でさ。ここへは来たばっかで知り合いいなくて寂しいんだよ」

 人懐こい笑い方をする、小麦色の髪と目をした青年だ。私、そんなに知り合い多くないし、会ったことがあれば忘れるわけないと思うんだけど。

「あの、どっかで私と会ったことある?」

「ん? 逆ナン? 嬉しいね」

「あれ? 変だな。アンタ……」

 ドラセーさんが怪訝そうな顔をしている。その膝の上で、クリーチャーがぐずり始めた。

「クーちゃんに激似だけど、兄弟かなんか?」

 思い出した。一号の船で見た、長生きできないホムンクルスたちと同じ顔なんだ。

 あの中の誰かが生き延びたんだろうか。

「あなた、ホムンクルス?」

 私が聞くと、男の人ははっきりと頷いた。

「うん、そう。一号を探してるんだけど、どこにいるか知らない?」

 よかった、生き残りがいたんだ。私と一号とクリーチャーの他はみんな死んだって聞いてたけど、もう一人見つけた。

 一号が聞いたらきっと喜ぶだろうな。


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