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身の毛がよだつ

「いや、その……」

「あの、その……」


わたくしに睨まれて縮こまってしまう二人なのだが、それでも言いたい事があるのか煮え切らない態度を取るその姿にわたくしは小さくため息を一つ吐く。


「まさか、言い訳に貴族のルール云々を持ち出して来る訳ではないですわよね?中等学部の時貴女方は貴族のルールよりも学園のルールに重きに置いておりましたものね。もしくは高等学部からは貴女方はノア様にお声をかける事はないという意思表示でしょうか?」

「い、いえ……私ちょっと勘違いしていたみたいですわ。シャルロッテ様も私の勘違いでご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんわ」

「そ、そうですわね。どうやら良く良く考えたら勘違いでしたわね。私からもシャルロッテ様へ謝罪を致しますわ」

「………わ、分かって頂けたのならそれで良いですからっ」

「そそそ、それでは私これから用事が御座いますのでここで失礼しますわっ」

「わたくしも用事がある事を思い出したのでっ」


そしてわたくしがここまで言うと二人は事の重大さに気付いた様で庶民であるシャルロッテへちょっかいをかけるよりもノア様とのお近付きになれるチャンスを捨てる方が痛いと判断したのであろう。


そして二人はシャルロッテへ謝罪の言葉を言い、シャルロッテから許しの返事を聞くと直ぐさま回れ右をして去って行く。


ある意味で欲望に忠実な二人で助かったとわたくしは貴族令嬢二人の背後を眺めながら思う。


そしてわたくしはシャルロッテの方へ向くと安否の確認をする振りをする事にする。


ぶっちゃてしまいえば天敵に塩を送る様な真似はしたくはないのだが、かと言って鞭をふるえばそれこそ死亡エンドのフラグ回収となり兼ねない為そこはぐっと堪える。


わたくしは感情のまま動くあの子爵令嬢達と違うのである。


「大丈夫でしたか?」

「は、はい。助けて頂きありがとうございます。えっと……」

「あら、そう言えばまだ名乗っておりませんでしたわね。わたくし、フラン・ヨハンナ・ドミナリアと申しますの」

「あっ、わわわ、私はシャルロッテ・アイゼンハワーと申しますっ!えっと、フラン様が私を助けて下さったお陰でこの通り無事ですっ!!」


そう言うとシャルロッテは無防備な笑顔をわたくしに向けてきた。


あーこれは確かに攻略対象が惚れてしまうのも分かりますわ。


前世のわたくしがあまりのシャルロッテの可愛さに心の中で咽び泣いておりますもの。


しかし、だからこそその圧倒的な美しさに身の毛がよだつ。


護りたいと無条件で思ってしまうであろうその笑顔。


あぁ、これは無理だ。


攻略対象者は間違いなくシャルロッテに惚れ、そして運命は必ず動き出すのであろう。


「どうかなさいましたか?フラン様」

「いえ、少し考え事をしておりましたわ。あら、髪の毛に埃が付いてしまっているみたいですわね。わたくしが取ってあげますので少しの間じっとしていて下さる?」

「あ、ありがとうございます………あの、もしよろしければ私フラン様と……その……お友達──」

「そこで何をしているフランっ!シャルロッテから離れろっ!!」

「きゃぁっ!?」

「フランお嬢様っ!?大丈夫で御座いますかっ!?」


わたくしがシャルロッテの髪の毛についた埃を取ろうとしたその時、いきなり何者かに腕を引っ張られその勢いで地面に放り出される形で倒れてしまう。


丁度その時シャルロッテが何かを言おうとしていたのだが最早それどころではない。


そしてアンナはわたくしの安否を確認した後、わたくしを投げ飛ばした犯人から庇う様に間に立つ。


「もう大丈夫だシャルロッテ。怖かっただろう?助けに向かうのが遅れてすまなかった」


そうシャルロッテに声をかけているのは君恋の攻略対象キャラクターの一人、レオ・クロスフィードその人である。


まるで獅子の様な、無造作に切られた赤く長い髪に軽く百八十センチは超えてそうな長身にも関わらず肉付きの良い身体、そして雄々しいと言う言葉が似合うもそこに男性特有のセクシーさもある顔付き。


ゲームで何度も見た美丈夫がわたくしを睨みながら見下ろしている姿が見える。


そもそもコイツに関してはわたくしは前世でゲームをプレイしていた時からキャラクター説明に書いてある性格と実際プレイして感じたコイツの性格に違和感を感じていた。


説明書の説明では、簡潔に言うと『弱きを助け、悪に屈しず、正義を貫く』正に漢と言った設定なのだがゲームでははっきりと言って『シャルロッテしか助けないクソ野朗』と言う評価であった。


これはおそらく女性向け恋愛ゲーム故の矛盾点であると前世のわたくしは理解していた。


結局のところヒロイン(プレイヤー)以外の女性に優しくしてる所を見たくないと言った所であろう。


そこは理解している。


してはいるのだが、わたくしは結局このゲームをプレイしていてコイツのルートだけは楽しむ事が出来なかった。


自分達が楽しければ他人がどうなろうと無関心というその光景がレオのその容姿も相まってただのDQNにしか見えなかった為である。


例えるならば刺青を入れているヒロインが刺青禁止のプールに来て係員に止められている所をレオが怒鳴り散らし係員をその鍛え上げた肉体で押しのけヒロインをプールに入れると言えば分かりやすいだろうか?


そして件のレオは何故かここから離れる事を嫌がるシャルロッテを無理矢理引き連れて「シャルロッテに次近付いたら容赦しねぇからなっ!」という捨て台詞と共に消えていった。


そしてわたくしはこの一連の出来すぎた流れで思い知った。


ああ、そうですか。

分かりました。

分かりましたとも。

どうやっても、何が何でも死亡ルートへ持って行きたいのですねクソ野郎。

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