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ヒロイン

そんな事を思いながら新学期最初の授業を受ける。


前世の記憶を思い出すまでは難しいと思っていたこの数学の授業も今では小六で習う算数の方が難しいのではないのか?などと思える程には暇な授業内容である。


その為わたくしはまだ筆を入れていない真っ新で真っ白なノートへ次に手を打つ作戦を日本語で纏め上げて行く。


行くのだが、もう触れる事のできない『日本』の断片に触れ目頭が熱くなる。


妹の事、家族の事、友達、会社、同僚、etc、etc、etc………。


あの夜中まで輝く街並みやコンビニ、グルメの国とも揶揄されることもある程の食文化など、それら全てが走馬灯の様にその映像が、匂いが、味覚が、触覚が、想いが、わたくしの五感をもって鮮明に思い出されて行く。


ポタ……ポタ


その時何か液体が紙のノートに落ちる音が聴こえて来た。


「お嬢様、これを」

「………?」


アンナが純白のハンカチを渡して来るのだがその用途が分からない。


「………失礼します」


そう言うとアンナはわたくしの目元をそのハンカチで拭う。


この時初めてわたくしは泣いていた事に気付くのであった。





休み時間、ノア王子はあいも変わらず女性男性問わず揉みくちゃにされていた。


と、言うのも本来貴族社会は下の者は上の者に許可又は挨拶されるまで声をかけてはいけないと言うルールがある為である。


その為、この学園の校則である『学園内にいる以上その身分は皆平等である』というルールを使い自分から声をかけて売り込んでいるのだ。


まあ男性は兎も角女性に関しては半数以上が恋愛感情の様な気がしないでもないのだがそこは深く考えないでおく。


どうせ全員女性陣は多かれ少なかれ下心があるに決まっている。


深く考えたところで無駄なだけですわね。


そう思いながら視線をそのまま外に移す。


するとそこには三人の人影が見えた。


その光景を見てどこの世界もあるのですわね、と思うのと同時に女性ってやっぱ怖ぇーっ!と思ってしまう。


そしてわたくしはため息一つ吐くと席を静かに外すと先程まで見ていた場所へと向かう。


そこにはやはりというか何というか、どこの青春漫画の光景だよと言いたくなる光景が広がっていた。


「だ、だから私は何もしていませんっ!」

「あなたっ!貴族に対して何て口の聞きようですかっ!?これだから庶民は教養が無くて困りますわねっ!」

「全くですわっ!まさか貴族のわたくし達が嘘を吐いてらっしゃるとでも言いたいのですかっ!?」

「ち、違いますっ!でも私じゃないんですっ!信じてくださいっ!」


目の前で繰り広げられている光景を見てわたくしは再度ため息を吐く。


目の前にいる三人のうち二人は貴族の令嬢、わたくしの記憶が正しければ二人とも子爵の娘である。


そして残りの一人は何を隠そう君恋の主人公にしてヒロインであるシャルロッテ・アイゼンハワーその人である。


そしてやはりと言うか何と言うかゲームの主人公かつヒロインとなる程の女性である。


その頭一つ抜けた存在感と美貌により早速貴族の娘に目を付けられてしまったというわけであろう。


わたくしが居なくとも結局似たような状況に陥ってしまうシャルロッテを多少は不憫に思うもののそれだけである。


むしろ当たり前であるが圧倒的に恐怖の方が大きい。


そんな彼女はノア王子と同等の美貌を有しており、銀髪の癖一つない長い髪が春の風に揺られている。


たったそれだけの事で男性を恋に落としてしまいそうな破壊力を有しているにも関わらず出るとこは出ており引っ込むところは引っ込んでいる為笑えない。


わたくし?

わたくしは引っ込んでいるところは引っ込んでおりますわよ。

それが何か?


そんなこんなで今にも恐怖で押しつぶされそうになりながらも、新学期当初誓った三原則を破ってまで近づいたその理由。


それはこのシャルロッテを助ける為である。


と、言うのもゲームでのわたくしは当然このシャルロッテに対して考えつく限りの様々な嫌がらせを行なって来たのである。


であれば逆にこういう状況で助けたら運命は大きく変わるのではないか?

そう思ったのである。


ともすれば、メインキャラクターに近付くという行為はとても危ない事でもあるのだが逆に考えれば今現在の時系列がゲーム前半だとすれば直ぐに死に直結する様な事にはならないのではないか?という事も考えられる。


昨日の事もあるため一概には安全と言えないのだが、だからといって亀のように甲羅の中に引っ込んで三年間過ごすという考えは捨てた。


でも、それでも、怖いものは怖い。

当たり前だ。

こちとら命かけてますから。


「そこの貴女達、何をこんな薄暗い場所でやってらっしゃるのかしら?」


その瞬間、時間が止まったかのように三者の身体が固まる。


その三人が見る視界の先には金髪のドリルを靡かせ黒い薔薇の模様が施された赤い扇子で口元を隠し、しかしその目には確かな怒りを宿している事を感じ取る事の出来る公爵令嬢、フラン・ヨハンナ・ドミナリアが颯爽とこちらへ歩いて来る姿があった。


「フラン様……?」

「な、なんで?」

「あら、聞こえなかったのかしら?ではもう一度言いますわね。貴族でもあろう者がまさか歴史ある学園の校則を無視して貴族の権力を使い嘘をでっち上げて何をしているのですか?それとも………」


ここでわたくしは『バチンッ!』と扇子を閉じる。


「貴族ともあろう者がたかが庶民に恐れをなしている………なんて事は、ないですわよね?」

一部の誤字脱字を修正致しました^ ^


教えて下さった方、ありがとうございます!

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