一体何を分かったと言うのか
「団長は私が副団長に任命された夜、お祝いとして二人で飲みに行った時『これから二人で頑張って行こうな』って愛の告白をして下さったじゃないですかっ!?」
「ちょっと待てっ!それは俺とヒルデガルド二人同時に昇進し、俺が団長、ヒルデガルドが副団長となった為これから王国騎士団を二人で引っ張って行こうなって意味だろっそこはっ!!常識的に考えてもっ!!」
どうやったらあの状況であの言葉が愛の告白となるのか一度コイツの頭をかち割って調べてみたいのだが、それはそれで俺の頭を悩ましそうである。
「だ、騙したのですねっ!?乙女の純情を弄んで楽しむ様な人とは思いませんでしたっ!!」
「よーし分かった。騎士団の権限でお前を副団長には向いていないと上に報告しておこう。あの一件以来国王様は人が変わられた様に良き国王となられている今なら副団長降格もあり得るだろう」
確かにヒルデガルドは前々から勘違いしやすく信じやすい、そして猪突猛進的な部分はあったのだがここまで酷いものであるとは思いもよらなかった。
これでは騎士団も業務にも支障をきたしかねない為冗談抜きでヒルデガルドの降格申請を考えてしまう。
「酷いですっ!職権乱用です!もうっ、分かりましたよっ!妻は私も含めて三人までは許しましょう。しかし私が正妻である事は譲れませんからねっ!」
「何も分かってねぇじゃねぇかよっ!!お前とはとことん理解し合うまで話し合う必要があるみたいだなっ!」
「分からず屋はアレックス団長ですぅーっ!」
あぁ、もうダメだ。だれかコイツにあれはプロポーズではないと教える方法を俺に教えてくれないかと切に願いながら頭を抱えるのであった。
「では、全て私の勘違いであると……?」
「さっきからそう言っている」
「何処からが勘違いなのですか?」
「最初からだバカ野郎」
あれから小一時間、俺の努力が身を結び何とかこのヒルデガルドの誤解を解く事に成功した。
そして全て自分の誤解であると知ったヒルデガルドは「穴があったら入りたい」と言うと顔を真っ赤にしながらうずくまり「恥ずかし過ぎるっ!」と呟く。
「分かりましたっ!!私はこう見えて自称物分かりの良い女性ですからねっ!正妻の座はフラン様に譲りますっ!よくよく考えてみればフラン様は帝国公爵家の娘ですもんねっ!男爵家生まれの私が正妻だと色々不都合が生じてしまうって事ですねっ!分かりましたっ!……え?何でそんな可哀想な表情で私を見つめるんですか、アレックス団長?」
コイツは一体何を分かったと言うのか。
よし、ヒルデガルド。お前のその残念な頭脳に忘れられないくらい躾けてやろうではないか。
◆
まさか王国騎士団団長にわたくしをブラックローズ、そのトップであるローズであると疑われているとは思いもよらなかった。
いや、流石にあれ程の事を派手にしたのである。
どれか一つをとってもいずれはバレるのではないかと予測してはいたのだが、わたくしの想像したものよりも遥かに早すぎる。
そして極め付けは頬へのキスである。
あの時はいきなりであった為わたくしも側仕えのメイも気が動転してしまい、特にメイはあの後落ち着かせるのにかなり苦労したものである。
結局わたくしがメイの頬に軽くキスをする事でその場は収まったのだが、まさか真空による移動魔術式を使って相手を吹き飛ばし石垣にぶつけるなどという攻撃をメイが使用した事には驚いた。
と、当然わたくしもその使用法には気付いておりましたけど何か?
そしてそれにより気絶したアレックスをわたくしを呼びに来て下さったアンナがまるでゴミでも扱うように馬車へと放り投げていたのは見なかった事にしよう。
ちなみにメイの頬へキスした事によりアンナ、そしてそれを聞いたウルにも何故かねだられてキスをする羽目になった。
まぁ、わたくしもキスを強請る気持ちは分かりますからね。
仲間はずれは寂しいものですわ。
しかしながらこの頬へのキスである。
あのアレックスがわたくしに惚れているからキスをしたとは考えられない。
あるとすれば何かしらの意思表示である事は間違いが無いであろう。
頬へのキスが意味するものはおそらくわたくしの様に闇に隠れる様に行動するのではなく礼儀作法に則り正面から捕まえるという意思表示であると、ある程度落ち着いた今であれば考える事ができる。
この頬へのキスは、男性が女性に対してするのはある種の礼儀みたいなものであり日本で言うお辞儀である為嫌な女性だからとしないわけにはいかない場面も多々あるというのを前世の職場で教わったものが今ここで役に立つとは、流石のアレックスでも予想できなかったであろう。
そこから導き出されるものこそが『俺は嫌な相手であろうと礼儀を重んじて動く』と言うと強い意思表示の表れであり正々堂々と捕まえに行くという戦線布告でもあったのである。
ザマーミロっ、でございますわっ!
ただの世間を知らない小娘だと思っているうちは痛い目をしましてよっ、アレックスさんっ!




