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光の世界の住人

「あ………っ」

「フラン様っ!?」

「お気を確かにっ!フラン様っ!」


どうやらわたくしは運にも見放されたみたいである。


クラス分けのあんまりな結果に軽く目眩がしてくる。


なんだ?あれか?上げてから落とすって奴か?神のクソ野郎。覚えとけよマジで。


しかしこれは由々しき事態である。


開始早々バッドエンドは流石に無いと思いたいのだが絶対に無いと断定出来ないのが恐ろしい。


自分の死という可能性を改めて強く感じてしまいその恐怖で足に力が入らずそのまま崩れ落ちそうになるのを何とか抑える。


いっそ学園に通わなければ、と思考が過ぎるのだがその考えも一瞬で消え去る。


そもそもこの学園を卒業するという事が貴族の嗜みであり、その学園を卒業出来ないという事は最早貴族では無いという事に等しい。


わたくしの家族の事も考えてそれだけは避けなければいけないのだが学園に行けば短くてもクラス替えのある来年まではノア様と同じクラスで勉学を学ばなければいけなくなる。


今までは先の見えない平均台の上を歩いているイメージだったのだがそれが今では綱渡りにクラスアップした気分である。


「大丈夫でしてよ。でも心配して頂きありがとう」


いつまでもこの場で立ち止まる訳にはいけない。


もう直ぐ高等学部最初のホームルームが始まるので進学早々遅刻する訳にも行かないと未だに恐怖で竦んでいる両足に喝を入れ、腹をくくり教室へと向かう。


「………っ」


教室に入ると女性達が一堂に集まっている箇所があり、その中心にはノア様がいた。


当たり前ではあるが日本人離れした、そして恐ろしい程に整った顔立ち、日の光を淡く反射し見る者の心を奪ってしまう程の美しい金色の髪、高身長からくるモデルの様な体型。


そのどれをとっても一級品、まさに王子様と言う言葉はこの者の為にあるのだと言われても信じてしまうであろう。


前世の記憶が戻ったからこそ自らの抱いている気持ちに気付けたわたくしの、恋とすら自覚する事が無いまま終わった初恋の相手。


その彼を見てわたくしは今日何度目かの恐怖により思わず心臓がある部分を制服の上から右手で握ってしまう。


やはり実物を実際見て感じる恐怖心は別格である。


「ほらフラン様っ!ノア様ですわっ!」

「今日も凛々しく眩しいですわねっ!」

「ええ、そうですわね。わたくしの事は良いですから、ほら。貴女達も挨拶に行ってらっしゃいな」

「「は、はいっ!」」


とてもでは無いがわたくしが彼の近くへ行く等文字通り恐れ多くて無理な話である。


そもそも恐怖で足がノア様の方へ出ないのだからどうしようもない。


そんなわたくしの事はいいからノア様へ挨拶に行きなさいと二人を促すと、まさに満開の笑みでノア様へ挨拶をしに向かって行く。


その光景だけ見れば微笑ましいものではあるが、今のわたくしにその光景を微笑ましいと思える心の余裕は無い。


気配を隠すように最後尾窓際の席へと静かに座りその光景を冷めた瞳で見つめる。


もうわたくしには過ごす事の出来ない煌びやかな世界。


未練が無いと言えば嘘になるがそれ以上に死にたく無い。


そしてわたくしの胸に恐怖だけでなく悲しみが小さな棘で刺してくるかの様にやって来る。


「いつかわたくしもあの光の世界の住人へと戻りたい」


誰に聞こえるでもなく呟いたその言葉は窓から入ってきた春の風により掻き消されていった。






「フランさん、学園の方はどうでしたか?」

「まだ初日ですのでこれといって何があった訳でも無いのですが皆様新しい環境に心踊っている様でしたわ」

「うむ、新しい環境による刺激はいいものだな。俺も始めて高等学部へ上がった時の事を思い出す」


現在既に学園から帰宅し、ディナーを食べながら家族団欒の時間である。


お母様はわたくしの学園生活が気になるのか聞いてきた為当たり障りのない事を喋る。


しかしわたくしの言葉には『新しい環境』はあるが『新しい学友』という言葉が無い。


彼らにとって高等学部から途中入学する者達は人間では無い為である。


そんな気持ちの悪い食事をしながらわたくしは本日起こるはずのイベントを今か今かと待ち構えていた。


そしてその時はついにやって来た。


一人のメイドがわたくしが食べ終えた料理の食器を下げようとしたその時、メイドの肘がわたくしのブドウジュースの入っているグラスに当たり、当然グラスは倒れてわたくしの服へブドウジュースがかかる。


そしてただでさえ冷めていたメイド達の空気が、更に低くなって行く。


「どうやら、躾のなっていない動物が紛れ込んでいるみたいですわね。さて………どうしてくれましょうか」


その空気に比例して怒りに満ちて行くお母様が静かに口を開く。


件のメイドはあまりの恐怖により上手く喋れないのか「す、すいまっ……す…すいっ…すっ」と涙を流しながらうわ言のように謝罪の言葉を口にする。


「お母様」

「……何ですか?フランさん」

「この生き物の処遇はわたくし自ら下したいと思いますの。だってそうでしょう?わたくしの大切にしているお気に入りの服を汚されてしまったのですもの。自分の手で罰を与えないと気が済みませんわ」

「うむ、フランももう年齢上では大人の仲間入りだからな。この生き物の処罰を経験するのもいい経験だろう」

「うん、僕もそう思うね。何事も経験だし」

三部の誤字脱字を修正致しました。


他におかしな箇所等がございました場合ご気軽にご連絡くださいますと有り難く思います^ ^

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