太陽の女神
「もう、止めてくれ……もう許してくれ、お願いだ……うぅっ、もう嫌だ。もう痛いのは嫌だ」
「分かりましたわ。ではルーベルト国王陛下、外を見て頂いても宜しくて?」
「分かったっ!見るっ!見るからその扇子をこちらに向けないでくれっ!」
わたくしの指示により這々の体で国王としての威厳も何もかもをかなぐり捨て涙と鼻水と涎ででぐちゃぐちゃになった顔のままルーベルトはバルコニーまで移動する。
「移動したぞっ!これで良いのかっ!?」
「ではそのまま外をご覧くださいませ」
そしてわたくしは王国、その王都上空に巨大なプラズマ飛行物体を出現させる。
ちなみに心霊特集などで良く出るオーブと言われる謎の球体はカメラレンズ付近で舞っているチリ埃だったりする。その為カメラの性能で写る映らないなどが出てしまうのだが。
そんな話はさておきこれはよく謎の飛行物体として前世のテレビ特集で放送される光る球体未確認飛行物体の正体である。
その光は凄まじく深夜にも関わらず王都はまるで昼間の様に煌々と照らされ、異変に気付いた人々が家の外へと飛び出してくる姿が見える。
「お、お主……お主は一体……?これは太陽ではないのか?」
「そうですわね、わたくしは秘密結社ブラックローズの創始者でありトップでもあるローズという者ですわ。そしてもしルーベルト国王陛下が私利私欲に走ったり、わたくしとの約束を破った場合は……あそこに見える太陽をここ王都に落としますわ。ゆめゆめお忘れなく」
「わ、分かりましたっ!!必ずっ、必ずや貴女様との約束は反故致しませんっ!!」
プラズマ飛行物体を見た後のルーベルト国王陛下は最初相対した時と違い床に頭を付けまるでわたくしを崇めるかの如き対応にてわたくしとの約束を守ると誓う。
得体の知れない超常現象を操る存在ほど恐ろしいものは他に無いであろう。
そして自ら進んで頭を床に付けるルーベルト国王陛下のその姿を見て、ここまで脅せば大丈夫だろうと判断したわたくしはルーベルト国王陛下がいるバルコニーからそのまま飛び去ってしまおうとするのだが鞭だけでは人は服従するがそこに飴を与える事により軽い洗脳状態にし、依存したりマインドコントロールしやすくなるという事を思い出す。
「そういえばルーベルト国王陛下は自分の死後を想像した事は御座いまして?」
「自分の……死後、ですか」
「想像してみてください。今、国民を無視した状態のままルーベルト国王陛下が死亡するとどうなるか?答えは簡単で未来永劫愚王として語られますわ」
「そんなまさか………」
わたくしの話を聞きルーベルト国王陛下が青ざめた顔をする。
あれ程の事を国民にしておいて尚自分の死後そうなる事が想像する事が出来ないとは、愚かにも程がある。
「よく聞くでしょう?民衆が過去の王を嘲笑っているのを。貴方はその中でも群を抜いて愚かな王として語られますわ。だって貴方は民衆の事を何も考えていないんですもの」
「嫌だ……嫌だっ!死後馬鹿にされる事など儂は耐えられないっ!死んでも死にきれぬぞっ!教えてくれっ!儂はどうすればいいっ!?」
しかし、どの独裁者も自分の死後又は崩御後に今まで自分が築き上げて来た物が全て壊され何もかもが無くなってしまうだけではなく愚王と語り継がれるなど独裁者であればあるほど嫌であろうし避けたい事であろうし、前世でもそれは同じであった。
それは独裁者達にとって死ぬ事よりも恐ろしく贅沢な生活よりも大事な事なのかもしれない。
だからこそ武力に力を入れ、不老不死を求め、それが無理だと分かると世襲制にするのである。
「そうですわね、後日ルーベルト国王陛下宛に今後どの様に民衆を導き国を動かしていけばいいか纏めた物をお送り致しますわ。そしてこれは絶対では無い為その都度その都度民衆と他国の動きを確認した上であくまでも参考程度にしておいてくださいまし」
纏めると言っても前世にて国々がどのようにして崩壊して行ったか、どの様な事をすれば長く続いたか、又成長していったかを分かる範囲で簡潔に纏め上げた物を送れば良いだろう。
そしてわたくしはバルコニーから飛び去って行く。
後日、ルーベルト国王陛下の隣には太陽の女神ローズ像が建設されるのであった。
そして完成したその像を見たわたくしが、像の豊満な胸を見た瞬間破壊しようとしてブラックローズの面々に止められたりしたりしなかったりするのだが、豊満故に破壊されなかったとか違うとかという。
◆
今回の作戦も一応成功と言って良いだろう。
一応と付けたのはあの日以降秘密結社ブラックローズが密かに都市伝説として世界を救う闇の組織として民衆や吟遊詩人達、そして舞台などによって密かに、時に大々的に語られたり演じられ始めたのである。
おそらくルーベルト国王陛下が配下にあの晩の出来事を説明する上で我が秘密結社ブラックローズの存在を説明したのであろう。
それは状況的に致し方ないと思はないでもないが、にしても人の噂とはかくも早いものかとびっくりするのと同時に幼い頃まだインターネットもそこまで普及していなかったにも関わらずゲームの様々な裏技とかすぐさま広まっていっていた懐かしい記憶を思い出す。




