悔やむは死ぬ事ではない
はっきり言ってまともに相手をして勝てる確率は三割前後であると考えて良いだろう。
なので私は逃げる事にする。
フランお嬢様にそう言われた事もそうなのだがこの場合の一番最悪な状況は私がコイツに殺されてしまいお嬢様まで情報をお伝えする事が出来ない、即ち任務を失敗するという事である。
それは今の私にとって死ぬ事よりも恐ろしい。
「ふふ、死ぬ事よりも恐ろしいですか……」
いつ死んでも良いと思っていた私に死ぬ事が恐ろしいと思える日が来るとは。
そう思うとおかしくて、緊迫している状況にも関わらず思わず笑みが溢れてしまう。
だからこそフランお嬢様の為ならば死んでも良いと思えるのでおかしなものである。
「何がおかしい?」
「いえ、何も。……そう、例えば……貴方はこの人の為ならば死んでも良いと思える人はいますか?」
「賊と馴れ合うつもりなど無い。そもそも死ねばそこで終わりだろう。という訳で死ねっ!!」
「それは残念です。もしそういう方が現れた時この気持ちが分かるでしょう。それでは」
そして私は任務を遂行する為逃げる事にする。
そう判断すればあとは早い。
私は闇魔術により影の中へと消えて行く。
「ここは王国騎士団本部だ。逃す訳ないだろう?」
しかし私が自らの影の中へと消え行くその瞬間、アレックスが常人ではあり得ないスピードと動きで私の目の前まで一気に間合いを詰め、手に持つ剣先が私の額を貫こうと迫って来る。
恐らくこの騎士団本部自体が魔方陣の役割を果たしておりアレックスはその恩恵を受けていたのであろう。
間に合わない。
ここを敵の本部と分かっていながら私は心の何処かで侮っていたのであろう。
悔やむは死ぬ事ではない。
フランお嬢様のお役に立てなかった事である。
「申し訳御座いませんフランお嬢様。私の人生、最後の最後であなた様に出会えた私は幸せでした」
結局フランお嬢様の役には立てなかったのだが、足手まといとして死ぬ訳には行かない。
今現在素顔を隠している為、フランお嬢様へと繋がる証拠である私の遺体が残らないよう自滅魔術を発動しようとしたその時、フランお嬢様から頂いたペンダントから魔方陣が現れ、防御結界を展開した後ペンダントは粉々になって壊れていった。
「ち、防御札か何かを仕込んでいたのか。次見つけ出したその時は確実に仕留めてやる」
その翌日、王国騎士団団長が何者かに殺害された事が瞬く間に王国中に広がって行くのだが、元々騎士団団長は数多の悪事に手を染めており粛清対象であった為騎士団自体はそこまで混乱する事もなく、アレックスがそのまま団長として就任する事により落ち着きを取り戻すのであった。
◆
「戻って参りました。フランお嬢様………いや、我が主人様」
「お帰りなさ───あ、主人様?………まあ良いでしょう」
私が急にフランお嬢様の事を主人と発言しフランお嬢様は一瞬何かを考えた後、私がフランお嬢様の事を主人と呼ぶ事を了承してくれる。
フランお嬢様の事である。
恐らく私がドミナリア家ではなくお嬢様の事を主人とする決意をした事などお見通しなのであろう。
「そんな事よりも良く無事帰って来てくれました。が、しかし……ペンダントが発動した事を見るに危なかったようですわね。全く使えませんわ」
今までのお嬢様であれば前半の言葉は無かったであろう。
その事から私の事などお見通しであるという考えが正しい事が伺える。
しかしながらそれが堪らなく嬉しい。
以前と違い少なからず私はフランお嬢様の仲間まではいかないまでもその他では無くなったのだから。
「申し訳御座いません、我が主人様。してこれが今回得た情報で御座います。どうやら今回の麻薬が帝国に蔓延し始めている原因は王国の思惑によるものが強いと考えております」
「成る程、成る程。……王国は帝国との戦争を目論んでいるのですね。戦争に必要な大量の資金を集めると共に敵国を弱らせる、まさに一石二鳥という訳ですわね」
「流石我が主人様、正にその通りでございます」
ぞくりとした。
麻薬の蔓延の原因が王国と知っただけでまるで始めから知っていたかのように王国の狙いを言い当ててしまうその叡智。
これが我が主人様であると誇らしく思う。
途中、小さな声で「アヘン戦争と日清戦争が合体した様なものかしら?」と聞こえて来たのだが百年生きてきた私ですらその様な戦争は聞いたことがない。
それは即ち、それ程までにフランお嬢様は叡智だけでは無く知識量もまたとてつもないという片鱗が伺えて来るというものである。
恐らくこの十五年間、たった一人で知識を広めていったのであろう。
家族とは心から繋がる事が出来ず仮初めの関係を築き、そのせいで心の奥底では護りたいと思っている使用人達からは誤解され侮蔑され、フランお嬢様が過ごされた時間は想像を絶する苦しみであった事であろう。
それは魔族と人族の混血種などという苦しみよりも遥かに苦しかったであろう。
そんなフランお嬢様が奴隷以外でも心を開いてくれるその切っ掛けに、私がなれればと、そして使用人達に真実を告げる事が出来る日がいつか来る事を願うのであった。
お知らせ。
私が書かせて頂いております他作品、ヴァンパイアの魔王異世界奮闘記が運営からR18指定の内容を含むためどうにかしなさい。しない場合は削除させて頂くと警告が入りました為、この作品にも念のためR15指定を入れさせて頂きました。
一応調べた上でR15指定の場合は、読者サイドには警告のみで全年齢見れるとの事ですが万が一見れなくなったなどございましたらカクヨムなどへ遅れて投稿(あくまでもなろうを中心として活動するため)させて頂きますのでその場合は私までご報告の程お願い致します^^
いやー、本番まで行ってないから良いだろうと思ってましたら数年後に警告されて現在非常にびっくりし、動揺ております^^
誤字、脱字報告、感想ありがとうございます!!
またブックマークと評価ありがとうございます!!
これを糧にやる気スイッチを押させて頂いておりますっ!!^^




