鞭であると言えよう
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「で、報告は分かりました」
「で、ではっ!!」
「ダメです。それとこれとは話は別です」
敵との戦闘に勝利した後、その結果と武器の有用性を報告しに帰還したのだが、何故か私の前には鬼────ではなくアンナさんが腕を組んで仁王立ちしていた。
「もう一度聞きます。何故メイド部隊であるあなたが前線へ飛び出した挙句に敵の幹部らしき者と戦闘を行ったのか、説明して頂けるかしら?」
このブラックローズという組織であるのだが、フランお嬢様が飴であるとするのならばこのアンナさんこそ鞭であると言えよう。
誰がなんと言おうと私はそうであると今日この時をもって断言するっ!
「だって、どう考えても勝てそうだったから………」
「これは遊びでは無いのですよ?いつどこで何があるか分からない殺し合いをしているのですよ?たった一度のしくじりが命に係わるという事を貴女はお忘れですか?」
「で、でも………」
「でもへちまもありませんっ!!軍服部隊が前線、メイド部隊が後方支援と口を酸っぱくして説明したでしょう?下手をすればフレンドファイアもありえたのですよ?」
憧れである軍服部隊の様に目立ちたかったという気持ちがないと言うと嘘になるのだが、それでも私だってみんなの役に立ちたかったのだ。
それを、こんなに怒らなくてもと思わずにはいられない。
そんな態度の私をみてアンナさんは深いため息を吐く。
「全く貴女という人は。良いですか?何も意地悪で言っているのではありません。貴方の身が心配だから言っているのです。もし相手の罠であったのならばあなたはまんまとその罠に引っ掛かり、今頃天国へ召されていたかもしれないのですよ?そんな事になったらフランお嬢様が悲しむのは当然ですし、わたしも、私たちブラックローズメンバー全員が悲しむ事になるんです。その事を頭に入れておいてください。私は、貴女を含めて誰一人としてブラックローズのメンバーを殺したくないのです。その為には慎重になり過ぎてもまだ足りない位なんです」
「あ、アンナさんっ!?く、苦しいですっ!!」
「黙りなさい」
そしてアンナさんは私を強く抱きしめてくる。
それはまるで私という存在を確かめているようで。
「良くぞ、生きて帰っ来てくれました」
そのアンナさんの声を聴き、私は少なくとも自らの軽率な行動でアンナさんを心配させてしまったという事は分かった。
私は恐らく銃という自分の実力以上の力を発揮してくれる武器を手にして、その力に溺れていたのだと思う。
それはまるで相手にした敵と何が違うのだろ?
兎に角、今はっきりしている事は、もうアンナさんを泣かせたくないという事である。
◆
そろそろ第二陣を侵攻させる頃あいか。
俺は懐中時計を開き、時間を確認するとそう判断する。
本来であれば早すぎるのだが、彼らは我らが神の恩恵を受けており、並みの戦士よりも一回りも二回りも強くなっているので早すぎるという事は無いだろう。
そんな事を考えていると一人の、我が軍の男性が満身創痍と言った風貌でこちらへ駆けてくる姿が見えてくる。
「どうした。何かあったのか?」
「ぜ、全滅ですっ!!更に我らが神の側近に当たるドミニク様がメイド服を着た者に討たれましたっ!!」
「な………っ!?」
「ドミニク様へ神技で無事であれば応答するよう連絡を飛ばしているのですが一向に返事が返ってくる気配がございませんっ!!」
そして私との会話を聞いていた側近が私から指示を受ける前に既にドミニクへ連絡を飛ばしてくれてたようであるが、その結果はドミニクからの連絡なしという信じられない内容であった。
「なんだと………そんなまさか………あのドミニクが、信じられん。信じられないがこれが本当であるとすれば大変な事になるぞっ!!」
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