剣を捧げたく思います
「オズウェルさんっ!腰が浮いてますよっ!!しっかりと腰を沈めて腕立て伏せをしなきゃあまり効果は見られないんですからねっ!!」
「い、イエッサーっ!!」
おかしいな、聞き間違いかしら。
そしてわたくしの奴隷メイドにより目の前で扱かれている男性も恐らく幻か何かの類であろう。
◆
「フラン様が我が領地の隣にある避暑地へ今年も訪れる、それも今回はドミナリア家ではなくフラン様のみという情報をお聞きいたしましたので………しかし、こんなにも美味しい料理は食べた事ないですね。今出されている料理全てが信じられない程の美味さです」
「そ、そう。それは良かったですわ」
今現在、日も沈み奴隷たちと一緒に夕食を嗜んでいるのだが、向かいの席で一緒に食べているオズウェル様の幻がわたくしに話しかけてくる。
おかしいな、幻の癖にやけにリアルに感じてしまう。
しかし、このオズウェル様の話をかみ砕き推理してみると、どうやらこの幻が今この場にいるのは恐らく過保護なお父様とお母様のせいに違いないと確信する。
恐らくは両親からわたくしがここへ来ることを話した事は隠すようにとでも言われているのであろうが、わたくしは両親以外にこの避暑地へと訪れる事は言っていないのである。
それも、両親から許可を得て三日とせずに向かっているのだ。
どうせ早馬をつかいわたくしの監視役として一筆そえた手紙をお土産と一緒に包んで渡したのであろう。
ただ、一つこの策に穴があったというのであればこの天才的な頭脳の持ち主であるこのわたくしを軽んじてしまった事であろう。
しかしだ。
しかし、問題はこれとは別にあり、何故オズウェル様はわたくしの奴隷メイド達と一緒にアンナズ・ブートキャンプに参加しているのかという事である。
腐っても向こうは貴族の嫡男であり、わたくしは貴族と言えども女性である。
もしこの事が誰かにバレてしまったては最悪わたくしは修道院へとぶち込まれる可能性があるのだ。
いや、お母様の事だ。
間違いなく修道院行きは決定事項であろう。
「………………」
一瞬それも悪くないのでは?と思ってしまうのだが、そんな甘い誘惑を頭を振り断ち切る。
修道院さえ行けばわたくしの死亡フラグは軒並みぶち折る事になるかもしれない。
しかしそれにより残ったわたくしの奴隷たちがどうなってしまうのかなど少し考えただけで反吐が出る。
わたくし一人の幸せで奴隷たちを不幸にしてしまうのならば、それは考えるまでも無く悪手である。
「どうしました?フラン様」
「い、いえ、すこし考え事をしておりました。しかしながら私を様付けで呼ぶ必要はございませんわよ?オズウェル様」
「そんな、フラン様はかの有名な仮面の秘密結社のトップであるおかた。たかが一貴族でしかない私ごときには恐れ多く────」
「────わ、わたくしは仮面の秘密結社など知りませんわっ!!」
「大丈夫でございますフラン様。私はフラン様を裏切る真似は決していたしません。故にフラン様に忠誠を誓うべく剣を捧げたく思います」
そういうとオズウェルはナプキンで優雅に口を拭うと、優雅に席を立ち、優雅にわたくしの元へと歩んでくると優雅に腰へ携えていた剣を抜くと、優雅にその剣の柄をわたくしへと向けて来た。
流石隠しキャラとも言えど攻略キャラクターである。
あふれ出る優雅さに思わずときめいてしまいそうになるのをぐっと堪える事で精いっぱいである。
「な、ななな、何をっ!?」
「我が主へ忠誠を」
その光景はまるで神話の一ページであるかの如く美しいと感激しながらアンナはどこからともなく取り出した魔道具でこの光景をパシャリパシャリと切り取って行く。
そして切り取って行くにつれアンナは興奮を隠しきれず息が荒くなっていくのだが、いまのフランにはそんな事など気付ける余裕は皆無である。
「あ、貴方は剣を捧げるという事がどういう事なのかお分かりなのですかっ!?」
「もちろんでございます」
『剣を捧げる』言葉だけ聞くと家臣の忠義を推し量れるような行為、または似たような何かと思ってしまうのだがこの世界は剣と魔法の世界であり奴隷契約もできる世界なのである。
『剣を捧げる』という言葉でごまかしてはいるのだが、その実は種類の違う奴隷契約の様なものなのである。
故に、尊いものとしてこの世界では扱われている。
誤字脱字報告ありがとうございますっ!
ブックマークありがとうございますっ!
評価ありがとうございますっ!
只今パンチェッタを作っております。
出来上がるのがたのしみですね(*'▽')




