ブートキャンプ
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ドミナリア家のメイド三名をわたくしの奴隷へと落として早三か月が経った。
いくら領地内でも比較的過ごしやすい土地に家を建てているといっても初夏の暑さには敵う訳もなく強い日差しと共に気温もぐんぐんと上がり
「フランお嬢様、何か欲しい物は無いですか?私ができる範囲でご用意させて頂きます。それこそ、私の身体が欲しいという事であれば────」
「フランお嬢様、どこか身体に疲れが溜まってないですか?申して頂ければ私が全身くまなく素手でマッサージして差し上げ────」
「フランお嬢様、何か食べたい物はございませんか?もしあるのでしたら私が例えその食材がこの世の果てにしかない食材であったとしてもこの身一つで必ずや────」
「ちょ、ちょっと邪魔しないでくださいっ!」
「何よっ!私が初めにフランお嬢様とお話していたのに横から入って来ないで頂戴っ!」
「むしろあなた達こそが私の邪魔なんですけどっ!」
その三名はというと、まるで構って欲しい犬の様にわたくしの周りをべったりとくっついて、三つ巴にお互いを牽制しつつくるくるとわたくしの周りを回っている。
「「「フランお嬢様っ!」」」
そんな彼女達はどちらの言い分が正しいか決着をつけるべくわたくしの前で上目使いで見つめてくる。
その愛くるしい三名に思わず口元がにやけてしまいそうになるのだが、ここはドミナリア家である為グッと堪え無表情を貫く。
「どきなさい。奴隷のくせにわたくしの行く手を阻むなんて、お仕置きされたいのかしら」
そう言いつつもわたくしはドミナリア家の人間に見られない様に『ありがとう。その気持ちだけでうれしいですわ』と簡単なハンドサインで返す。
「「「ふ、フランお嬢様ぁぁああっ!!」」」
「あぁもう暑苦しいですわっ!!抱きつくのを辞めなさいっ!こらっ!!さりげなく匂いを嗅ぐのも体をわたくしに擦りつけるのも禁止ですわっ!!」
「きゃんっ!?」
「あうっ!?」
「………あふんっ」
しかしそのハンドサインを見た奴隷メイド三名は感極まった表情をしたあとわたくしへ抱き付いて来たためやりたくはないものの背に腹は代えられないと奴隷への【命令】として禁止事項を口にする。
すると三名の奴隷メイド達はその禁止事項によるペナルティーにより痛みが与えられるのだが、若干一名喘ぎ声の様な声が出ていたのは気のせいであれと思いたい。
そして、ドミナリア家のメイド達はそんなわたくし達をまるでゴミを見るような目で見つめている。
あぁ、彼女達の視線が快感へと変わる前にこの奴隷メイド三名をどうにかしなければいけないという問題に目頭を揉む。
「あなた達、度が過ぎるようでしたらドミナリア家でのフランお嬢様の身の回りの世話係を外しますわよ」
「すみませんー」
「気を付けますー」
「善処しますー」
そんなこんなでわたくしの自室に入るやいなやアンナさんが件の奴隷メイド達に釘を刺そうとしてくれるのだが、彼女たちの態度から察するにどうやら相手は糠の如くアンナさんの釘が刺さらないみたいである。
あ、アンナさんの額に青筋が見えますわ。
と、いうか殺気も駄々洩れで怖いのですけれども、アンナさん?
「あ、あなた達という者はっ!!そこに正座しなさいっ!!まるでその口を開けるだけで餌が貰えると思っているような鳥の雛の如き腐った性根を叩き直してあげますっ!!」
「あ、アンナさん?」
「止めないでくださいましフランお嬢様っ!!フランお嬢様の一奴隷としてやらなければならぬのですっ!!」
そう言うとアンナは「ふんすっ!」と力強く鼻息をする。
「決めました!アンナズ・ブートキャンプをあなた方に実施致しますっ!!」
そしてアンナは声高々にそう宣言するのであった。
◆
アンナズ・ブートキャンプ
それはブラックローズに伝わる地獄の訓練の一つである────とはわたくしの耳にも少なからず入って来てはいるもののその実内容を知る物は少なく、また内容を知る者は固く口を閉じており謎の部分が多い。
そんなアンナズ・ブートキャンプをするべくドミナリア家の避暑地へと今年もやって来たのだが、どう見てもアンナズ・ブートキャンプの参加者が三名よりも多いのはきっと気のせいであれと強く願う。
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