何の為に剣を握っているのですか?
「えらく余裕だなお前。そんなに死にたいのならば俺が殺してやるよ。お前の事は前から気に入らなかったからなっ!!」
そしてレオが感情を剥き出しにして襲いかかって来る。
さすが武の貴族でありメイン攻略キャラクターの一人である。
その動作一つ一つが洗礼されており先程の冒険者ランクSSSの者達と比べても遜色は無い。
この歳でこのレベルとは末恐ろしいものである。
しかし、それだけである。
それは所詮人間の枠を超えてはいない。
よくも悪くも人間内で強いというだけである。
前世の知識があるという事がこの世界にとってどれほどチートなのか教えてあげましょう。
そしてわたくしは刀の柄に手を添え、軽く殺気を飛ばす。
たったそれだけでレオは攻撃の手を辞め一気に後退する。
その顔には脂汗が大量に浮かんでおり青ざめている。
「つぅっ……はぁっ!!」
そしてレオは呼吸をしていなかったのか一気に肺へ酸素を入れる。
「貴方は、気に入らないからという理由で人を殺すのですか?」
「オェッ!!」
しかし、わたくしはそこへ追い討ちをかける様に言葉に殺気を込めて問いかけるとついにレオは胃の中を吐き出し始めた。
恐らくレオはわたくしとの圧倒的な差により、わたくしが殺気を飛ばす度に殺されるイメージが脳に焼き付けられているのであろう。
それでも逃げないのは、力に屈しないのは美徳かもしれないが、それをわたくしは美しいとは思わない。
死んでしまったらそこで終わりである。
「そ、そんな子供騙しで俺を騙し切れると思うなよ!」
それでも襲いかかって来るレオにわたくしはやっぱりダメだったかとため息を吐く。
剣を合わす前に終わらしたかったのだが、やはりコイツは負けを認めずわたくしへ襲いかかって来る。
ノアさまとレオはお互い俺様属性なのだが似て非なる物である。
この二人を分けるとするならばノア様は亭主関白でありレオは男尊女卑と分ける事が出来る。
我が家系が貴族と平民で分けているのならばレオの家系は男と女で分けているのである。
そんな奴が女性であるわたくしよりも弱いという現実を、なまじ中途半端に強い故に受け入れられるわけが無い。
だからわたくしは目の前で剣技を繰り出そうとしているレオのプライドをその手に持っている愛刀と共に粉々に砕いてやり、その首筋にわたくしの愛刀の刃を当ててやる。
「はい、これで貴方は一回死にました」
「………」
「女性は男性よりも劣る、まるでやってる事は貴族至上主義ですわね」
「………」
「ドミナリア家というだけで差別し、女性というだけで差別し、言葉で勝てない場合は暴力を振るい、気に食わなかった場合は殺そうとし、女性の言葉には耳を傾けず、男性より優れている女性がいる事は絶対に認めない。ねぇ、どこが違うの?教え下さるかしら?」
「黙って聞いてれば調子に乗りやがってっ!!ただ黙ってお前の話を聞いていたと思うなよっ!?」
その瞬間、レオは作戦が上手くいって勝ち誇った表情をしていた。
しかし、何も起こらない。
起こるはずがない。
その事にレオは動揺を隠せないようである。
「奇襲や奥の手は相手にバレていないからこそ奇襲であり奥の手でもあるということをお分かりでしょうか?あれ程魔力を垂れ流していては貴方がやろうとしていることを発動前に潰して不発に終わらせることなど造作もないですわ」
そう言うとわたくしは奥の手、しかも卑怯な手段を軽々と防がれた事で結果としてわたくしを倒すどころか力量の差を否が応でも見せ付けられる結果となり、最早手札が無くなりうな垂れ生気の無くなったレオにはもう用は無いとこの場を去る事にする。
まぁぶっちゃゲームでレオの奥の手である魔力剣を知っていた為簡単に防げただけであるのだがそれをレオは知らない。
奥の手が何なのか知っていれば奇襲は奇襲では無くなってしまう。
しかし万が一、もしもレオの奥の手を知らなかった場合でもビビりはするものそれだけである。
ちなみ魔力剣は名前の通り己の魔力のみで作り出す剣であるのだがいかせん全て魔力な為自分の魔力をゴッソリと持っていかれてしまう諸刃の剣でもある。
「あ、そうですわ。レオ様、貴方は何の為に剣を握っているのですか?今一度その事を考えなさい」
それだけ告げると今度こそこの場を後にする。
翌日
人々の間では、コールドウェル家の当主であるアードルフとその長男のリカルドの逮捕という話題で持ちきりであった。
◆
昨晩はまさかレオが来るとは思わなかったのだがそれ以外はイレギュラーも無く華麗にフラグを潰したと思う。
ブラックローズの面々に与えたミッション、重要参考人も三人全員捕縛されており、そこから不審な金の流れも視覚化されるであろう。
そしてわたくしは今、檻の中にいるリカルドと向かい合っていたりする。
というのもそもそも今回のイベントはわたくしの死亡エンドイベントでは無くリカルドルートとレオルート確定イベントだからである。
どういう事か簡単に説明すると財政難からシャルロッテを誘拐するも身代金の交渉は上手く行かず長引き、そしてその交渉が長引いている数日間でレオがシャルロッテを見つけ出し助け出すという流れである。
その昨夜レオが居たのは、シャルロッテが助かる=レオが助け出すという構図を作りだすための運命の矯正力が働いた為であろう。
ちなみに、ゲームでは後日シャルロッテがリカルドが留置されている場所に行けばリカルドルートへ、レオの元へお礼を言いに行けばレオルートへ移行するのである。
そしてリカルドルートなのだが息子であるリカルドは釈放されるのだが事が事だけにコールドウェル家は公爵どころか貴族の身分も剥奪されている為根っからの貴族至上主義のリカルドは生きる意味を無くしており、そんな状態のリカルドをシャルロッテは放っておけず自身の親が経営している店の裏で簡単なものではあるものの仕事を与える事で自殺という発想から目を背けさせ精神的にも支えて行くのだが、リカルドもまた仕事をするにつれて平民もまた人間である事を知ると同時に献身的に世話をしてくれるシャルロッテを意識し始めるという流れである。
レオルート?そんなものピンチに颯爽と現れて恋したという設定ですわ。
よくある話ですので語る程でも御座いません。
この回は話の内容を上手く固める事が出来ず難産でした……そして極度の睡魔との戦いでもありました。
誤字報告ありがとうございますっ!