貴族至上主義
わたくしの発言からどれ程の時が流れたであろう。
小一時間は経った気もするが五分位しか経っていない気もする。
それでもわたくしは土下座した姿勢で彼女達が口を開いてくれるのをひたすら待った。
「何をお考えなのですか?」
その声はメイであった。
声は震えており弱々しい。
まさに恐る恐るといった感じである。
「仲間になって頂きたいのです」
「………なら命令したら良いのではないですか?いつもの様に」
その声はウルであった。
メイ同様、声は震えて弱々しいのだがその奥底には強い意志を感じ取る事が出来た。
それは覚悟を決めた者の声である。
「それをすれば本当の仲間とは言えません。しかしわたくしには貴女方に気安く仲間になって欲しいと言える立場でも御座いません」
「………分かりましたお嬢様。私達メイとウルはお嬢様の計画に賛同し共に歩む仲間となりましょう」
「ですからお顔を上げて下さい。お嬢様の綺麗な顔が汚れてしまいます」
実際の所殴る蹴るはされると思った。
もしされなくとも罵詈雑言は間違いなく投げかけられると思っていた。
しかし実際は何もされず寧ろすんなりと仲間になってくれると申してくれた。
そしてわたくしは恐る恐ると顔を上げる。
彼女達の表情を見るのが正直言って怖かった。
「何故………?もしかして報復が怖いのですか?でしたら、わたくしはドミナリアの名のもとに報復はしないと誓いますわ」
「そういう事ではございません。もちろんお嬢様が憎くないと言えば嘘になります」
「しかし、お嬢様は貴族にもかかわらず平民、それも奴隷である私達に土下座をして下さいました」
「それは例え演技であったとしても貴族の方が奴隷に土下座などしよう筈が御座いません」
「ですから私達はお嬢様の言葉を信じます」
「ですから私達は、もしかしたら貴族至上主義の方々に一矢報いる事が出来ると夢を見させて頂きます」
「あ、ありがとうウル、ありがとうメイ、そしてごめんなさいっ!」
その言葉を聞きわたくしは二人を抱きしめ謝罪と感謝の言葉を紡ぎながらみっともなく泣き続けるのであった。
◆
「お嬢様、朝です」
「起きてください」
あれからわたくしは泣き疲れてしまい、そのまま眠ってしまったみたいである。
しかし気分は幾分マシであり晴れ晴れとしていた。
それは勿論彼女達に謝罪が出来、そして仲間になってくれた事もあるのだが、やはりバッドエンドでわたくしを殺すキャラクター二人をこちらサイドに引き込めた事であろう。
『君に恋してしまったから仕方がない』略して君恋のエンディングはバッドエンド、ハッピーエンド、ノーマルエンドその全てを合わせると三百種類、その内十五のエンディングでわたくしは彼女達に殺されたのである。
それは即ち現時点で単純計算で五パーセントは回避できた事になるのだから………と思いたい。
ちなみに殺される原因は普段から彼女達を虐めていたからであり、その描写シーンであったのが昨日の出来事なのである。
「おはよう、ウル、メイ」
彼女達奴隷はわたくしがお母様に駄々をコネて買って頂いたペットである。
もちろん今ではペットだなんて思える訳もないのだが、それよりもわたくしは彼女達に最初の任務をお願いするのであった。
そう、あのシーンの翌日あるイベントによる死亡フラグをへし折る為に。
そんな感じで三人でミーティングをしていた時、扉から乾いたノック音が三回鳴る。
「お入りなさい」
「おはようございますお嬢様」
わたくしが入室を許可すると一人のメイドがわたくしの部屋に入って来た。
当然わたくしはメイドの挨拶など無視なのだが挨拶に挨拶を返さないのは心が痛む。
そしていつも通りメイドにより支度して頂きわたくしは朝食を取りに行く。
今日も髪の毛で出来た金色のドリルは健在である。
「おはようございますフランさん」
「おはようございますお母様。そしてお父様、お兄様もおはようございます」
「ああ」
「うむ」
そしていつも通り家族の団欒が始まる。
実に気持ちの悪い空間であろうか。
喋る内容はまさに貴族至上主義そのもの。
貴族、特にその中でも上の者達は褒め称えその他の人達は扱き下ろす。
そしてそれを当然であると喋る家族も、それに同調する自分も気持ちが悪くて仕方がない。
しかし、今わたくしの前世の記憶が蘇った影響で貴族至上主義ではなくなった事を悟られる訳にはいかない為必至に今までの自分を演じきる。
「あら、フランさん。ご飯をあまり食べてないようですけど体調の方は大丈夫ですの?今日は高等部初日ですが無理そうなら休んでもよろしいのよ?」
「いえ、大丈夫ですわお母様。お気遣いありがとうございます」
「そう?それなら良いのですけど………もし具合が悪くなったら直ぐに人に話して帰宅して来るのよ?」
「はいお母様」
貴方達の会話が気持ち悪くて食事が喉を通らないのであると叫びそうになるのをぐっと堪える。
今楯突いた所で勝ち目が無いことくらい否が応でも理解している。
「それではお母様、お父様、行ってきます」
あれから家族に怪しまれることも無く食事は終わり、わたくしは待機していたドミナリア家の財を施された馬車に乗り学園へ向かうのであった。
ウルとメイの年齢を15歳前後に変更致します。